
だが、あくまでも「家庭を形成する一人」であることとのバランスを考えた上で行動するべきだろう。一人で勝手なことばかりするなら、「結婚などしなければよかったのに」と言われかねない。
多趣味すぎる夫
「夫はもともと友達も多くて多趣味な人でした」そう言うのはアサミさん(44歳)だ。4歳年上の夫とは職場で知り合い、先輩後輩としてつきあっていくうちに親しくなった。29歳のとき妊娠が分かって結婚した。
「ちょうど彼が異動になり、部署もフロアも違うし、夫婦で働いている人たちも少なくないので、私もそのまま仕事を続けることにしました。30歳で長女、32歳で次女を産み、産休やら育休やらで、落ち着いて仕事ができるようになったのは30代半ばからです」
保育園への送迎、子育ては協力しながらやっていこうという話だったのに、夫は「オレの代わりに母さんがやってくれるから」と近くに住む母親に丸投げ状態。夫は「仕事」と言いながら、独身時代からの趣味を何ひとつやめることなく生活してきた。
子どもが大きくなっても
「夏はサーフィン、冬はスケボー、サッカーもキャンプも大好き。それどころか毎年のように新たなことにチャレンジし、趣味を広げていくんです。続くものもあればあっさりやめるものもある。お金もかかるし、週末はいないし、もうちょっと家庭に目を向けてよと何度言ったことか」そのたびに「大丈夫だよ、母さんがいるから」とニコニコしながら言う。お義母さんは父親の代わりにはならないと詰め寄ったこともあった。
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こんなことでいいのかと、義母に話したこともあるが、義母は苦笑いしながら「あの子は小さいころから自分を曲げないから」と、逆に息子を増長させた。
義母が体調を崩してからは
「子どもたちが大きくなれば、夏休みに旅行の1つもさせてやりたいじゃないですか。でも夫は『3人できみの実家に行ってくれば』という感じ。今まで家族4人で旅行したのなんて、片手で数えられるくらいですよ」家族のありかたを考えようと、夫には何度も進言した。そのたびに「何か問題があるなら言ってよ」と夫は言うのだが、実際には聞く耳をもたない。
あげく、義母からは「いいじゃないの、不倫しているわけじゃないんだから」とまで言われてしまった。
「中学生と小学校高学年になった娘たちは、すでに父親には何も期待していない。行きたいところがあると私か義母に言う。父親として寂しくないのかと夫に尋ねたこともありますが、『娘たちが20歳になったら一緒に酒を飲むのが楽しみ』なんて言ってる。それまでに子どもたちに見捨てられるわよと言ってやりました」
さすがのアサミさんも、すっかり疲弊して、今さら夫には何も頼ろうとは思っていなかったのだが、今年の春、義母が体調を崩してからは、そんなふうにも言っていられなくなった。
「元気だった義母が入退院を繰り返し、看護していた義父も夏に転倒して骨折して。いずれこうなることは分かっていたのに、夫はあわてふためくだけで何もできない。
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もう別れてもいい
結局、夫は自分の親のことも子どもたちのことも、何も考えていなかったのだ。この人は何のために結婚したのだろう。アサミさんにはそれが不思議でならない。「義父母のことはケアマネさんをつけていろいろ相談しながらやっています。義妹も協力的なので助かった。でも考えてみれば、両親も妹も、彼のことをずっとそうやって甘やかしてきたんでしょうね。そういう男が妻の言うことなんて聞くわけもないんだと、結婚して15年たってやっと分かりました」
この分だと年をとって自分が健康を損ねても、夫にはまったく頼れないとアサミさんは覚悟している。逆にもし夫が病気になったとしたら……。
「私もあっさり夫を見捨てるかもしれません。世話になった義父母がいなくなったら、もう私は夫と別れてもいいとすら思っています」
家庭を顧みなかったのは、彼には不要だったからなのだろう。最近、そんなふうに冷たい考えが頭に浮かぶのだと、彼女は少し寂しそうに言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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