『ありか』瀬尾まいこ 水鈴社 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2026」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、瀬尾まいこ(せお・まいこ)著『ありか』です。
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『そして、バトンは渡された』『幸福な食卓』などで、血縁に縛られない親子関係をテーマにしてきた瀬尾まいこさん。そんな彼女が、自身の体験をもとに「血のつながった母と娘の物語」を主軸にしたのが『ありか』です。
主人公は26歳のシングルマザー、美空。工場でパートとして働きながら、保育園の年長である一人娘のひかりを育てています。元夫の奏多は良くも悪くも天真爛漫でいい加減な性格。浮気が原因で離婚してから半年が経ち、今では会いに来ることはおろか、連絡すら途絶えるようになりました。
そんな美空とひかりの最大の理解者となっているのが、奏多の弟で同性が好きな颯斗です。彼は一週間に一度、少し豪華な夕飯を買って美空の家を訪れ、ひかりと遊ぶのを楽しみにしています。
そんなある日、美空のもとにやってきた実母が切り出したのは、「毎月十万円仕送りしてほしい」という要求。女手ひとつで育ててくれた母親に感謝の気持ちはあるものの、到底支払えない金額を前に、次第に美空は母親との関係に疑問を抱き始めます。
この作品で描かれるのは、春から冬の終わりにかけての一年間。美空がこれまで自分に見えていなかったさまざまなものに気づいていく物語でもあります。
保育園のママ友として心を通わせるようになった三池さん、何かと世話を焼いてくれるパート先の同僚で60代の宮崎さん、定期的にひかりを預かり、美空が一人なれる時間を作ってくれる奏多と颯斗の母など、義弟の颯斗以外にも、美空とひかりの助けになる人々がいます。
こうして血がつながっていなくても手を差し伸べてくれる人たちがいる一方で、血がつながっていても分かり合えない人もいます。
「愛情を求め、それを埋められないまま、私は大きくなってしまった。子ども時代の自分にしてあげたいことがたくさんある。でも、あのころの私には戻れないし、過去には手を触れることもできない。それならどうすればいいのだろうか。どうしたら大人になってしまった私を救えるのだろうか」(本書より)
という美空の母親に対する思いは、親の愛情に飢えて育った者の葛藤です。子どもを育てる中で変化した美空が、母親と対峙する場面は、本書の大きなクライマックスともいえるでしょう。
愛のありか、幸せのありか。それは決して血のつながった場所にだけあるものではありません。見渡してみればこの世はたくさんの素敵なものであふれていて、家族以外の誰かと紡いでいく関係性の中にも希望を見出すことができます。
そんな奇跡を感じられる、あたたかな物語がここにはあります。
[文・鷺ノ宮やよい]
『ありか』
著者:瀬尾まいこ
出版社:水鈴社
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