画像はイメージです「家族を何よりも大事にする」と評された人物の死が、平穏だった家庭に大きな禍根を残すことがあるようだ。
家族の絆を揺るがす出来事を語ってくれたのは、都内のメーカーに勤務する阿部悠馬さん(仮名・34歳)。数年前に急逝した父・敏郎さん(仮名)が遺した「あまりに重すぎる遺品」に大きなショックを受けた。
「父は本当に真面目一筋の人でした。仕事に熱心で稼ぎも良く、家でも母や子ども達を大事にする。僕たち家族を蔑ろにするような素振りなんて、微塵も感じさせたことはなかったんです」
◆真面目な父親が遺した奇妙な履歴
理想の父親像を体現していた敏郎さんを、突然の脳卒中が襲った。そのまま帰らぬ人となり、あまりに急な別れに、阿部さんと母の寛子さん(仮名)は深い悲しみに暮れた。しかし、父親の死は平穏な別れでは終わらなかった。
「四十九日も明けないうちに、遺品整理を始めたんです。家計は父が管理していたので、預金通帳なども確認したんですが、そこで母が奇妙な履歴を見つけました」
確認された記録は、ある団体への入金履歴であった。
「団体名の後ろに父の名が書かれた口座への入金で、団体の名称的にボランティア団体への寄付のように見えました。ただ、額が異常でした。その団体に毎月20万円近い額が入金されていたんです。そんな多額の寄付を続けているなんて話は、母も僕も初耳でした。死亡すると口座は銀行によって凍結されますが、怪しんだ母はそのまま送金を止めることにしました」
◆送金を止めたら、謎の着信が
送金を止めてしばらく経過した頃、父の携帯電話が鳴った。
「着信画面には男性の名前が表示されていました。連絡先に登録されている名前だったので母が出ると、相手は『敏郎さんに代わってほしい』と。『どのようなご用件ですか』と尋ねても、相手は『仕事上の関係だ』と繰り返すばかりだったそうです」
不審に思った寛子さんは、事実を確かめるために質問をぶつける。
「例の団体名を出して『関係者の方ですか』と鎌をかけたんです。すると相手は『そうだ』と答えました。母は『どんな団体なんですか?』『何のための入金ですか?』と立て続けに質問をぶつけたんです。すると、電話は一方的に切られてしまいました」
翌日も再び同じ人物から着信があった。
「相手は頑なに父本人に代わるよう求めてきたので、母は亡くなったことを告げました。すると電話は即座に切れましたが、その日のうちに今度は女性から電話がかかってきたんです。その女性は、ボランティア団体の説明と、いかにその団体に資金が必要かを力説してきたそうです」
◆相手の正体は、まさかの…
寛子さんは、ある疑念を持っていたため、女性の説明に対して質問を繰り返した。
「母がいくら尋ねても、相手はボランティア団体である証拠を示せなかったので、母は入金を拒否しました。すると、相手はとうとう本性を現したんです。『私は敏郎さんの愛人だ』と。そして、最初に電話してきた男性は、父と彼女の間にできた子どもで、すでに成人していると言うんです」
ボランティア団体を装った振り込み先の口座は、もう一つの家族を養うための「送金ルート」であった。さらに相手の女性は「自分の息子には遺産を相続する法的な権利がある」と、淡々と権利の行使を宣言した。
「父を失ったばかりか、幼い頃からずっと『家族を一番に考える人間』だと思っていた父の人物像まで崩壊することになり、本当にショックでした……。おそらく、母は自分以上にショックを受けていたのではないかと思うんですが……」
発覚した裏切りに対し何を想ったのか、最終的に相手の女性とどのような決着をつけたのか。寛子さんは今も詳細を語ることを拒んでいるため、阿部さんにも真実は分からない。
「ただ、唯一母の想いを感じる事柄がありました。うちの客間には仏壇を置くための専用のスペースがあって、母は父のために新しい仏壇も用意していました。ですが、今もその場所に仏壇は置かれていないままなんです……」
空っぽの仏壇置き場。それは、亡き夫が守り通したはずの「誠実さ」という嘘に対する、寛子さんなりの答えなのかもしれない。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め