
歯科医院の倒産件数が過去20年間で最多だという(東京商工リサーチ発表)。
「歯科医は金を持って調子に乗っている人間も多いから、こういうニュースが出ると溜飲を下げる人もいるんじゃないですかね。ざまぁみろと(笑)。今月も博多の多店舗インプラント歯科が破産しています。本当に今、危険な業種になってしまっている」
そう話すのは、東京・西八王子の「きぬた歯科」院長・きぬた泰和氏。都内を中心に至るところに設置された看板──主に「インプラント」の文字とともに自身の顔写真──で知られる歯科医だ。きぬた氏によれば、倒産が増えている理由は「調子に乗りすぎ」。
「歯科医って簡単に言うと、モテまくるんですよ。学生時代は誰からも相手にされなくても、社会人になって“先生!”って言われる。歯科医って職場は若い子ばっかりですからね。ずっと若い子に囲まれて仕事をする。その延長線上で勘違いが始まる。
他の業種で成功している人って学生時代は華やかだったり、そうじゃなかったり。でも歯科医の多くは今までうだつが上がらなかったのが多数だっただけに振れ幅がデカい。自己肯定感の低かったのが一気に高くなる」(きぬた氏、以下同)
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調子に乗った歯科医の典型例のひとつが、無謀な多店舗展開だという。
「1軒はうまくいって、周囲からおだてられて、歯科医院の多店舗展開をする。そういったところは自転車操業で金を回しているだけのところも少なくない。そのくせ見栄で運転手付きの車に乗っていたりしますよ。上場企業の社長かよ、と。それをろくに金もない、金を回してなんとかやっているだけのところがやる。3年前に売り上げ日本一と言われていた歯科医院グループが破産しましたけど、理事長は運転手付きのロールスロイスでしたね」
2030年には大手歯科医院が破綻する
批判の矛先は、歯科医院に融資する銀行にも向く。
「良くないのが、こういうやつらに銀行が金を貸しちゃうこと。歯科医院っていうのは、“人”がすべてなんですよ。労働集約型でマンパワーが必要。雇っている歯科医の独立が重なる、そこに歯科衛生士の退職もたまたま重なるなんてことがある。人の流動性によって急激に売り上げが下がる。どれだけ歯科医院が人に依存しているか銀行はわかっていない。
ウチのように1軒でやっている歯科医院ですらピンチになることがときどきある。2030年ごろには、20軒以上展開している大手の歯科医院が破綻するでしょうね。歯科医の国家試験合格率を国が絞っているなか、そもそも歯科医は実家が歯科医院という人も多いので、労働力として市場に出る人が少ない」
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倒産が集中するのは、東京を含む大都市圏だ。
「関東の1都3県や大阪といった大都市圏は供給過多、飽和状態といえます。東京は今後も破産だらけでしょう。ある日いきなり逃げていなくなった、いわゆる“飛んだ”という歯科医院は今もわりといます。報じられているのはあくまで破産手続きをした歯科医院などですから。
“先週まで通っていた歯医者が閉まっていた”という患者さんはしょっちゅういますよ」
歯科医院の倒産は、その経営者が困るだけではない。
「治療前に“治療費を全額入金してください”という歯科医院は多い。うちは初めに半額、治療が終わってから残りの半額ですが、治療開始前日までに全納なんてこと言ってくる歯科医院は危険ですよ。飛ぶところもありますから」
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歯科医院にも「物価高」の波が
昨今の物価高も追い打ちをかける。
「まず建築費が高騰。3年ほど前と比べて1.5倍以上に。あとは高額の医療機器が増えています。それらを購入したもののローンを返せなくて破産する例もあるでしょう。開業に“億”かかるのであれば、もっと慎重に事業計画を立てなければいけないじゃないですか。それなのに銀行は融資してしまう。ウチも新規で診療台を入れましたが、めちゃくちゃ値段が上がってますね」
国と日本歯科医師会が推進してきた“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という「8020運動」は結果的に今、業界には逆風に……。
「結果的に自分達の首を締める事になりました(笑)。虫歯予防、虫歯予防と言ってきたら、虫歯は減った。歯科医院は虫歯治療では食っていけないんですよ。でも虫歯治療が減っても保険治療は他にも沢山あり、地道にやればそれなりに利益は出るんです。でもそれが面倒なのか、そこで保険外診療に活路を見出して一発当てようとする。それでみんな潰れちゃうんですよ」
物価高の中、保険診療(診療報酬)は国が定める公定価格に縛られ、他業種のように値上げという対応を取れない事情もある。保険外診療は当然、歯科医院の実入りは大きい。
資金繰りが苦しいのか、業界の闇的な歯科医院の悪どい所業も……。
「いわゆるアップセルです。広告などで安価を提示しつつ、“あなたにはその治療は向かないから”と1本何十万円ですなどとすすめる。広告を囮のようにする手法」
倒産ラッシュのなかで、患者はどう歯医者を選べばいいのか。
「これから高齢の歯科医がいなくなっていって、若い人は少なくなるので、歯科医院が少なくなる。じゃあどこにかかればいいか。正直、われわれプロもわからないんですよ。高名な先生だろうが下手な人は下手だし」
「安心な歯医者」を見分ける4ポイント
きぬた氏が挙げる見分け方は4つ。1.麻酔が痛くないか、2.いつ行っても人がいるか、3.トイレ、そして4.スタッフの入れ替わりが激しくない。
「これら4つで完璧というわけではありませんが、まず麻酔って手間暇かかるもの。表面麻酔をしっかり行うなど、患者への配慮があるか。いつ行っても人がいる歯医者かどうか。有名なだけで全然人がいないところもあるので。あとは、注意してみてほしいのがトイレ。トイレがきれいなところはたいていイケてます。これが満たされていれば詐欺られることはまずない、下手くそな治療もあまりないと見ていい」
「調子に乗って下手な経営をしているから潰れる」ときぬた氏は語るが、あれだけ自身の顔を前面に出した看板を出していることから、きぬた氏こそ調子に乗っているだろ、と思う人もいるかもしれない。
「歯科医に大切なのは、地道に粛々と人様のお口の中を、朝から晩まで見させていただくという謙虚な気持ち。これが継続できるかですよ。20代で歯科医になって、仕事の後に飲みに行ったりせず、60歳まで朝から晩まで、今日もですよ、人様のお口を見て生きてきました。それで謙虚に死んでいくわけですよ。それができるかってことですよ。それが出来れば歯科医師として必ず成功します」
歯科医院の倒産ラッシュはどこまで続くか、あの看板の数はどこまで増えるか……。
