「桃鉄 教育版」導入が1万校を突破 「社会」の授業以外でも使われている理由

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2024年09月09日 07:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「桃太郎電鉄 教育版」が学校で広がる

 “桃鉄”の愛称で知られる人気すごろくゲーム「桃太郎電鉄」に、教育版があるのをご存じだろうか。「桃太郎電鉄 教育版Lite 〜日本っておもしろい!〜」(以下、桃鉄 教育版)の名称で2023年初頭から学校教育機関に無償提供しており、ユーザーID発行数(導入数)は2024年8月末時点で1万校を超え、そのうち小学校は5000校を突破。これは全体の25%を超える数字になる。


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 順調に導入数を伸ばしている「桃鉄 教育版」だが、そもそもなぜ学校向けに無償提供を考えたのか。開発のきっかけや教育版ならではの工夫、教育現場での意外な使われ方などを、桃鉄シリーズのプロデューサーを務めるコナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサーの岡村憲明氏に聞いた。


●約35年続く人気シリーズ


 桃鉄は1988年にファミリーコンピュータ(任天堂)向けの第1作目が登場して以来、約35年にわたって幅広い年代に支持されている人気シリーズ。プレーヤーは会社の社長となり、日本全国の各地を巡って物件を買い集め、総資産ナンバーワンを目指していくすごろく形式のゲームだ。


 最大4人でプレイでき、ゲームをしながら実在する土地や観光名所の特徴を知ることができるため、遊べば遊ぶほど地理について詳しくなる内容となっている。


 「桃鉄 教育版」の始まりは、同作の提供開始から約3年前。後に同作のエデュテイメントプロデューサーを務めることにもなった小学校教諭の正頭英和氏からの提案だった。


 「(『桃鉄』生みの親である)さくまあきら先生からも、『桃鉄で日本の地理を覚えた人も多いので、子どもたちのために何か役立つことができないか』と以前から話があったのもあり、提案を機に『では、1回やってみよう』と話が進んだ」という。


 ベースとなっているのは、2020年発売のNintendo Switch用ゲームソフト「桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜」だ。同作は「千駄ヶ谷」駅の「新国立競技場」や、「ひたちなか」駅の「ネモフィラの丘」といった令和ならではの新駅や新物件のほか、その土地にちなんだ歴史ヒーローや名産怪獣(各地域の特産品や名物をモチーフにしている怪獣のこと)なども登場し、オンラインのフレンド対戦に対応。コロナ禍の巣ごもり需要もあり、累計販売本数は400万本を超えている。


●ゲームソフト版との違い


 教育版はゲームソフト版との大きな違いとして、生徒同士のトラブル要因にもなり得るキャラクター「貧乏神」を出現させないようにしている。また、授業の時間内で使えるように学ぶ地域やプレイ時間を設定できる管理機能、難読漢字でも生徒が読めるよう「ふりがな表示機能」などを実装している。


 「クイズ機能など、ゲームソフト版にはない教育的な要素を入れることも考えたが、正頭先生からの提案もあり『桃鉄』の良さはそのままに、先生が授業で使いやすい機能を実装した」


 「桃鉄 教育版」の提供にあたって特に配慮したのは、「GIGAスクール構想」の端末で使えることだ。GIGAスクール構想とは文部科学省主導で2019年に開始された取り組みで、全国の公立学校で学ぶ児童や生徒に対して1人1台の学習用端末と高速ネットワークを整備するというもの。


 当初はアプリ版のみの提供も検討していたが、教育機関向けのPCまたはタブレット端末の設定によってはアプリの導入でつまずいてしまう可能性があることが分かった。そこで現在は、URLとパスワードを入力するだけで利用できるWebブラウザ版をメインで提供している。


 IDを発行している約1万校の内訳は、公立が9割で、私立が1割ほど。「公立が多くなると想定していたが、結果的に日本の学校の公立・私立の割合と大きく変わらなかった」


 順調に導入が進んでいる理由として、同社は「『桃鉄』そのものが30年以上前からあるゲームで、現役の先生の中にも『桃鉄』で地理を覚えた人もいる。GIGAスクール構想でPCやタブレット端末の利用機会が増える中、実際に教育版を活用した先生の間で『授業でも桃鉄が使える』といった声が増えていったのも大きいのでは」と分析している。


●意外な使われ方も


 読者の中にも「地理は『桃鉄』で学んだ」という人は多いだろう。教育版についても、基本的には社会や地理の授業での利用を想定していた。一方で使い方は学校や教師にゆだねていることもあり、例えば「算数の授業で利益率を学ぶため」「国語の授業で難読漢字を学ぶため」「クラス替え後のコミュニケーション活性化を図るため」「総合的な学習の時間で探究的な見方・考え方を学ぶため」といった、想定外の活用もされている。


 そのほか「休日明けの月曜日」にあえて利用している学校もある。ベータ版のテスト時には「教育版の桃鉄をきっかけに、学校に来るようになった元不登校の生徒もいた」という。


 岡村氏は「『桃鉄』だけやっていれば地理ができるわけではないが、授業や学校生活と向き合うきっかけ、地理に興味を持つ入り口として貢献できていればうれしい」と話す。


 同社は2024年4月、東京大学大学院情報学環と「桃鉄 教育版」の教育的価値に関する共同研究を開始した。2024年度内には一定の研究結果を発表する予定で、導入実績を基にした教育的価値の実証が期待される。


 今後は教育現場からのニーズが高い「特定の町を追加できる機能」をアップデートするほか、インターナショナルスクールなどでの活用も期待できる多言語対応、世界を舞台にした『桃太郎電鉄ワールド 〜地球は希望でまわってる!〜』の教育版などを検討しているという。


 シリーズ最新作「桃太郎電鉄ワールド 〜地球は希望でまわってる!〜」(2023年11月に発売)では、日本国内だけでなく世界366都市を物件駅として収録している。教育版の対応にも期待が膨らむが、「地図がこれまでの平面ではなくシリーズ初の立体的な球体マップを採用したので、それをGIGAスクール構想の端末で動かすにはどうすべきか、研究を進めている。また『世界版もほしい』という声が届いているので、将来的に進めていきたい」としている。


 「桃鉄」シリーズは発売から35年以上がたつ。教育版の今後の展開に注目したい。


(熊谷ショウコ)



このニュースに関するつぶやき

  • 雇われる生き方しか考えられない人は、地理の勉強にばかり目が行きがちだが、桃鉄の本質は資産が収益を生むこと、資産額で勝敗が決まることだよ。モノポリーも同じだね。
    • イイネ!9
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