EVは本当に普及するのか? 日産サクラの「誤算」と消費者の「不安」

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2025年03月21日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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長距離移動はやっぱり無理? 日産サクラの“意外な落とし穴”

 日産サクラの販売が伸び悩んでいる。日産にとって数少ない稼ぎ頭である軽規格EVのサクラは、2022年6月に発売され、その年は7カ月間で2万1000台の販売を記録。翌2023年は3万7000台にまで伸びた。しかし、2024年は2万3000台を下回っている。


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 2022〜23年には月販4000台を超えたこともあったが、2024年は3000台を超えたのが3月のみで、4月には910台にまで落ち込んだ。その後は1500〜2500台の間で推移している。


 昨年4月に販売台数が大きく落ち込んだのは、補助金の申請時期とも関係があるのだろうが、その後も1500台程度に落ち着いている。これは、欲しい人がある程度購入したことに加え、EV購入に慎重な人が多いことも影響しているのだろう。


 また、購入したものの、やはり長距離移動の重要性を再認識して別のクルマに乗り換えるユーザーも続出しているようだ。これはサクラに限ったことではなくEV全体の問題で、特に一充電の航続距離が200キロと短いサクラでは、この問題が深刻化しやすい。


 そもそも長距離移動には向いていないクルマであり、それを承知で購入したはずなのに、実際に利用してみて「やっぱり長距離移動も必要だ」「その時だけレンタカー利用なんて無理」「急速充電器探しが面倒」なんて思いを抱くようになって、ガソリンエンジン車へと回帰するユーザーも増えているらしい。


 これは日産サクラというクルマが悪いのではない。EVが持つ問題点によってサクラの販売台数が伸び悩み、リセールバリューを低下させているのだ。


●EVは「計画的な旅」を楽しむ人向けのクルマ


 EVはガソリン車とは異なり、燃料さえ給油すればずっと走り続けられるクルマではない。いや、厳密に言えばEVも充電さえすればずっと走り続けられるが、その充電には最低でも30分以上かかるし、充電器にたどり着けても必ずしも充電できるとは限らない。


 どういうことかというと、EVやPHEV(プラグインハイブリッド車)で使われる急速充電器は、10年程度でメンテナンスの必要が生じ、採算性の低い充電器は故障すれば放置され、やがては撤去されるという状況が続いているからだ。


 加えて、充電器を他のEVオーナーが使用中という可能性もある。困るのは、充電が終わっているのにEVを移動しようとせず、自分の用事を済ませてからのんびりとクルマに戻るオーナーもいることだ。自分が充電できればいい、次に利用するユーザーのことを想像できないEVユーザーが、利便性をさらに低下させる。


 したがって、EVで長距離移動するには、綿密な計画を必要としながらも、その計画通りにいかないことも覚悟する必要があるのだ。これがどれほどのストレスか理解できなければ、EVを開発・販売するメーカーは成功が難しいのではないか。


 筆者はそもそも計画性のない旅が好きで、クルマを利用している。出発の予定時刻も適当で、その時間に出発できたことはほとんどない。それでも旅を楽しめるのは、クルマという自由度の高いモビリティを愛用しているからだ。


 これが、鉄道や航空機による移動がメインとなれば途端に、時間の縛りがシビアになる。


 自宅で満充電まで蓄え、途中の経路充電で食事や休憩を楽しみ、目的地を目指すというプランを立て、それを実行するのは、鉄道や航空機による旅行に近い部分がある。いや、その場合でもメインの移動手段以外は自由度がある。EVの方が自由度は低そうだ。


 しかも、先に充電器を利用している人がいてすぐに充電できなかったり、充電器が故障中で利用できなかったりするハプニングがあれば、たちまち計画は狂い出す。そうしたハプニングすら楽しめるおおらかな人なら、EVでの長距離移動も向いているが、そんな人はそもそもEVを選ばず、燃費も気にせずガソリン車での移動を楽しんでいるケースが多い。


 大容量のバッテリーパックを搭載した大型車であれば、急速充電器を求めてルートをたどるような旅をする必要はないのだろうが、それだけ車両は高額になる。しかも、数年後にはその価値が大幅に低下してしまうのだ。


●EVの下取り価格の低さは致命的


 EVには、タワーマンションと共通する魅力と弱点が存在する。静かで高級感があり、ステータス性や新しさを感じさせるのは、非日常性に通じる刺激だろう。それも慣れると非日常感は薄れるが、快適さが日常になればストレスは少ない。


 ところが、電気がなければ途端に不自由する。電気に頼りきりの利便性であることがEVとタワマンの問題点だ。それでも庶民の憧れである以上、タワマンの需要は維持されるであろう。しかし、EVはどうだろうか。


 従来の感覚で新車を購入し、EVの快適性、動力性能には満足した上で3〜4年利用して、乗り換える時に下取り価格の低さにがくぜんとするEVオーナーが続出している。車種はもちろんのこと、地域性やクルマのコンディションの違いなどにより違いはある。


 しかし、補助金による縛りのある4年間所有して下取りしてもらう場合、購入価格(車両代金や諸費用を含めた総額ではなく、車両価格から補助金額を差し引いた価格)の半値もいけばいい方で、3分の1程度というのも珍しくない。ドイツ車の残存価格は5年で大きく低下する傾向にあるが、最近はさらに下降気味であり、そのEVともなると、高級車であっても目も当てられない査定価格となることもある。


 これは日本だけの傾向ではなく、海外でも同様のようだ。中にはたった1年で半値にまで低下してしまうケースもある。


 EVのリセール性は総じて低い。それはバッテリーが車両価格の6割近くを占め、そのバッテリーの劣化が残存価値を決定する大きな要素になるからだ。


 しかもガソリン車であれば、エンジンの調子や内外装のコンディションによって残存価値を判断できるのだが、EVの場合はバッテリーの劣化状況を判断しにくいことから、価値を低めに判断せざるを得ないのが実情なのである。


 さらにEVを必要とする(EVを利用する環境が整っている)ユーザーは新車で購入し補助金を利用しており、中古車の需要がまだまだ少ない。それもリセール性が低くなりがちな理由だろう。


●バッテリーの将来的な寿命が分からない


 バッテリーの劣化状況を計測して判断する技術も開発されているが、それはあくまで計測時点の性能を把握できるに過ぎず、そこからどのように劣化が進むかは依然として分かっていない。健全なセルがいつ寿命を迎えるのか、分からないのである。


 これがユーザーの不安要素となり、中古EVは安くても手を出しにくいクルマとなっている。


 かつて日産がリーフを生産するために立ち上げた電池製造会社オートモーティブ・エナジー・サプライ(AESC)は、今では中国企業エンビジョンの傘下となっている。現在はAESCジャパンとして、最もエネルギー密度が高い三元系(ニッケル・マンガン・コバルトを使用)リチウムイオンバッテリーを中心に、安全性の高いリン酸鉄リチウムのバッテリーを生産。さらには、より耐久性と安全性が高く、エネルギー密度も高い全固体電池を開発中だ。


 これまで17年にわたって三元系を生産していながら、その生産現場や搭載車両で直接的な火災事故などは1件もないことが、驚異的であり世界に誇れる実績だ。そのAESCジャパンのCTO、明石寛之氏にEV用電池開発の最新技術とこれから取り組む課題について話を聞いたことがある。


 その際、筆者は「EVのバッテリー寿命を判断できないことが、EVのリセール性を上げられない原因なのでは?」と明石CTOに尋ねた。すると、「EVを業務で一定台数使用している企業と提携して、継続してバッテリーの劣化具合をモニタリングしていくことで、バッテリーの劣化の傾向をつかみ、推測できるシステムの開発につなげたい」と答えてくれた。


●これからPHEVに起こり得る「最悪のシナリオ」


 充電に時間がかかるというEVの不便さが普及を妨げている。ならばPHEVだ、と方針を転換しているのが、最近の世界の自動車市場に見られる傾向だ。


 確かにPHEVのバッテリーに蓄電された電気を使い尽くしても、エンジンで走行したり発電したりすることで、走り続けられる。しかし、この充実した仕組みが逆に弱点となるケースも今後増えていきそうだ。


 PHEVは、幕の内弁当だが食べ残せば無駄が多い。つまり、バッテリーに蓄電されている電力だけで走ることを繰り返すとエンジンは稼働しない。そうなると、エンジン内部はオイルによる保護膜がなくなり、オイルシールなども劣化してオイル漏れの原因となったり、燃料の劣化による燃料系統のトラブルを引き起こしたりする可能性が高まる。


 そのため自動車メーカーはユーザーに対して、時々遠出したり、あえて充電しないようにしたりすることで、エンジンを始動させるように促すこともある。クルマ側でも、半年に1度は強制的にエンジンが始動するよう制御されているものもある。


 だが、それでもエンジンがたいして使われないうちに廃車となれば、そのエンジンは金属ゴミと化してしまう可能性も高い。汎用性の高いエンジンであれば、海外に輸出して別のクルマに搭載することもできるだろうが、ハイブリッド用として専用設計されたエンジンの汎用性は低い。


 搭載電池を載せ替え、再びPHEVとして利用し続けることが理想だろうが、実際には車重の重いPHEVは車体の劣化も避けられず、快適装備などの電子制御が故障する時期にもなってくる。そのため、エンジンだけが使われないままスクラップとなってしまう可能性も出てくる。


 PHEVも、バッテリーの搭載量が大きければ、EVと同じようにリセール性は低下してしまうことになる。高年式のうちは人気がリセール性を支えるかもしれないが、やがてはPHEVも、車両価格は高いが乗り換える時には下取り価格が安くなってしまい、リピーターが増えにくい状況に陥ることが予測される。


 EVに対する補助金よりも、充電網の整備にもっと財源を当てるべきではないだろうか。また、急速充電器の利用スペースに、充電の必要がないエンジン車やオートバイを止めていたり、充電が終わったEVやPHEVをそのまま駐車していたりするユーザーもいる。


 これらに対する罰則などの法整備やシステムを作り上げるのも、EVを快適に使うために必要な対策だろう。


(高根英幸)



このニュースに関するつぶやき

  • 中国製ほどではないが良い車だと思うが何しろ日本は充電所がほとんどない。日本ではEVは普及しないと思う。郵便配達など限られた用途だけに終わる。原発が少ないから電力不足の日本。
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