諏訪将吾さん 2028年のロサンゼルス五輪から、近代五種の障害物レースにも採用されることになった、TBSの人気番組『SASUKE』。
個人競技であるため、多くの参加者はひとりで黙々とトレーニングしているわけだが、団体でのトレーニングという珍しいアプローチで、SASUKE出場を目指しているのが、「京大SASUKEサークル」だ。
明晰な頭脳を持つ彼らが目標に向け、いったいどのような活動を行っているのか気になるところだ。同サークルの5代目代表である諏訪将吾さんを直撃した。
◆SASUKEに出場するも、1stステージで脱落し…
京都大学にSASUKEサークルが設立されたのは2017年。創設のきっかけは、“悔しい経験”に起因するようだ。
「創設者の山下裕太さんは、2016年のSASUKE第32回大会に出場しています。しかし、1stステージの回転する突起がついた円柱に掴まってすすむ『オルゴール』で脱落。そこで『もう一度出て好成績を残したい!』という思いで、サークルを作られたそうです」
SASUKEの本戦に出場するだけでも大きな功績のようにも思うが、山下さんのチャレンジはテレビ放送では全カット……忸怩たる思いもあったのだろう。とはいっても、サークルに昇華させる中には苦労もあったはずだ。
「当初は、山下さんと同じ志を持つ人がほとんどだったそうですが、サークルを大きくするために門戸を広げる必要もあります。『運動不足解消やダイエットにも!』という触れ込みでメンバーを求めるようになっていったそうです」
◆サークルの活動内容は?
現在のメンバーは約70人にまで成長。インターカレッジとして他の大学から参加しているメンバーもいるという。しかし人が増えれば、統制も難しくなってくるだろう。
「私はもちろんですが、およそ8割のメンバーが本気でSASUKE出場を目指す、いわゆる“ガチ勢”で、残りはダイエットや運動不足解消のために来ているメンバーです。目的が違うので、その温度感を調整していくのは代表として大変ではありますが、やりがいもありますよ」
そんな諏訪代表のもと、SASUKEサークルはどのような活動をしているのか。
「活動場所は公園で、遊具をSASUKEのエリアに見立てたトレーニングをしています。基本の活動は、まず腕立て伏せなど通常の筋トレと、カリステニクスという強度の高い自重トレーニング練習の前半で行います。後半には、SASUKE各エリアの研究や、本番のセットを模したトレーニングキットを製作したり、それを使ったトレーニングをして、全体で90〜120分ですね。夜の誰もいない公園でやっているので、通る人はなるべくこちらを見ないようにしている感じもあります(笑)」
◆“サークルならでは”の強みも
SASUKE挑戦者といえば、ミスターSASUKEと称される山田勝己さんを筆頭に、セットまで自作し鍛錬を重ねている。正直、公園でのトレーニングが実践に役立つのかと思うのだが……。
「高さ4メートル以上の壁を駆け上る『そり立つ壁』などスケールの大きなエリアや、数センチの突起に指でぶら下がって移動や飛び移りをする『クリフハンガー』というエリアは、専用の練習をしないと太刀打ちできない部分があるので、確かに公園だけでは足りないと感じます」
もちろん、手をこまねいているわけではない。不定期ながら、本番を模したセットを製作した人のところへ出向いて練習しているという。さらに「重要なのはイメージトレーニング」だという。
「コースをきちんとイメージできているメンバーは、本番を模したセットでも成果が出ています。段ボール工作が得意なメンバーがいて、本物そっくりのミニチュアを作っています。顔を寄せてみると、まるで本物に見えるくらい再現度が高く、これでイメトレしています」
さらに諏訪さんは、サークルであることが、ほかにない強みでもあると続ける。
「SASUKEは個人競技ですが、みんなで練習することで『言語化』する場面が多いんです。感覚だけで動いている時より、筋肉の使い方やコツをメンバーに教えたり指摘されたり話し合ったりするために言語化したほうが、成長の速度が違う実感がありますね」
◆「SASUKEサークル」に入るために京大を目指した
京都大学といえば、日本でも屈指の難関校。将来を見据えて必死に受験勉強をして合格を勝ち取る学生も多いが、諏訪さんの入学動機は意外なものだった。
「子供の頃からSASUKEが好きで、高校に入って進学先を考えている時期に、山下裕太さんが第40回大会の予選会に参加されているのを見たんです。そこで京大にSASUKEサークルがあることを知って、『行くしかない!』と思って、受験勉強を一生懸命やりました。SASUKEサークルのために京大に入ったと言っても過言ではありません」
SASUKEへの強い思いで京都大学に入り、憧れの山下裕太さんとも知り合うことができた諏訪さん。山下さんから学んだのも、言語化の重要性だった。
「トランポリンで跳んでバーに捕まるエリアがあるんですが、私はセット練習でもバーに触れないくらいトランポリンが苦手でした。その点を、山下さんに見てもらって、目線や腕の振り方を指摘されました。そして、『前への力は助走に託して、跳ぶ瞬間は上への意識を持つように』とアドバイスをくれたんです。すると、一発でバーを掴むことができたんです! 山下さんは本当に言語化の能力が高いので、その大事さをよく痛感しています」
◆意外な「最難関エリア」とは
サークルの本戦出場としては、創設者である山下裕太さんが3度の出場を果たし、第41回大会では後半の3rdステージまで進む活躍を見せた。サークル設立のきっかけになった「SASUKEで好成績」という山下さんの思いは遂げられたことになるが、サークルとしては彼に続く出場者を輩出したいところ。諏訪さんは、代表としての目標を次のように掲げる。
「まだ、山下さんだけのサークルと見られているところもあると思うので、複数の本戦出場者を出して、『山下だけじゃないぞ!』と思われるようにしたいです。そして、ゆくゆくはSASUKEの勢力図の中心にうちのサークルが来るようにしたいですね」
とはいえ、唯一の本戦経験者である山下さんの経験は貴重なもの。“SASUKEに京大サークルあり”と世間に知らしめるために、どのようなアドバイスをもらっているのか。
「SASUKE各エリアの攻略法はかなり確立されていますが、出場者オーディションの攻略法はまだ確立されていないとおっしゃっていました。最難関エリアはオーディションだと(笑)。日々のトレーニングはもちろんですが、オーディションで見つけてもらうためにも、もっと精進したいです」
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SASUKEに人生が変えられたと言ってもいい諏訪さんが率いる京大SASUKEサークル。数年後には、ひとつの大会に複数のサークルメンバーが出場し、世間を賑わせていることを期待したい。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。