
令和6年能登半島地震発生時もすぐに現地に出動し、人命救助活動を行った「災害救助犬」。犬を牽引するハンドラーたちと共に、災害大国である日本には欠かせない存在だ。
しかし、「救助犬」の訓練や活動資金などについて多くの人が詳細を知らないのが現状だ。
例えば、引退した「救助犬」はどうなるのか? なぜ犬たちは危険物が散乱する被災地で「靴」や「服」を装着しないのか? 訓練や被災地への出動は犬たちにとって「負担」ではないのか?
そんなさまざまな疑問について、愛知県豊橋市で発足した捜索救助犬活動チーム「HDS K9(エイチディーエス ケーナイン)」が、公式X(旧Twitter)アカウント「捜索救助犬 HDS K9 愛知@災害救助犬応援アカウント」(@HDSK9_V)の”なかの人(スタッフの1人)”が回答。
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なお、HDS K9 愛知さんによると、「それぞれの救助犬団体により、活動方針や訓練方法なども異なります。また、救助犬に対する考え、装備品・出動に関する考えや訓練・練習方法などについても、救助犬とハンドラーのペアの数だけあります。いろいろな考えや方針を比べてみて、たくさんの方々に『救助犬』について知っていただけると嬉しいです」とのこと。
そのことを踏まえて、Xに寄せられた「救助犬」に関するさまざまな疑問とその回答を、HDS K9 愛知さんのご協力のもと、改めてご紹介したい。
普段は普通の「飼い犬」
ーー「救助犬」ってどんな犬なの?普通の飼い犬とは違うの?
「『捜索救助犬HDS K9』は個人のボランティアの集まりであり、所属する救助犬たちは普通のご家庭で飼われている愛犬たちです。一般の家庭で飼われている犬が飼い主さんと一緒に楽しめるもののなかに、『アジリティー(障害物競技)』や作業犬、救助犬の訓練などがあります。
例えば、『国際救助犬連盟(IRO)』の公認試験の合格率は20%以下といわれており、そういった資格を取得している飼い主さんと犬たちが善意のボランティアで被災地に出動しています。
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そもそも救助犬としての訓練も、犬たちが本来持つ優れた知能と身体能力を存分に使い、健康的に過ごさせたいという愛情の延長にあると考えています。なので、ハンドラーも救助活動用のユニフォームを脱げばどこにでもいる一般的な愛犬家であり、当たり前ですが、犬たちも普段は普通の飼い犬と何ら変わりのない生活をしています」
ーー犬たちは「被災地」に行くことが嫌じゃないの?
「訓練そのものが犬たちにとっては『楽しい遊び』なので、犬たちは特に被災地でも気持ちを切り替えているつもりはないのかな?と思っていたのですが、やはり実際に被災地に赴くといつもと違う様子を感じ取るようです。賢いですね。
また、救助活動中は意識して犬のアドレナリンをあげていくことがあるので、ハンドラーの意図を察知した犬も、『よっしゃ、やるか!』のオーラに溢れているかもしれません」
雪山以外での救助犬は「すっぽんぽん」
ーー雪山救助の訓練でかっこいい装備を身につけたHDS K9の救助犬、リッターくんの画像を見ました。
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「ベルジアン・シェパードドッグ・マリノアのリッターくんがいちばん上に装着しているのは、防寒服ではなく『救助犬用のハーネス』です。救助活動でバギーに搭乗する際、ハンドラーの身体に犬を固定したり、ヘリによるホイストの訓練などで着用します。その下に着ているのが『ウェットスーツ』です。
寒さへの耐性は犬種や毛の厚さなどによって様々ですが、それ以外にも毛色や年齢にも左右されます。スーツなどの装備の内容は、犬種・毛色・年齢・その日の天候や活動内容などを考慮し、その犬の飼い主でもあるハンドラーが愛犬にとって最適と思われるものを選びます。暑い季節であれば、ウェットスーツを着せるかどうかもハンドラーさんの判断によります」
ーー犬は救助活動用の装備を嫌がらないの?
「基本的に捜索活動中の救助犬は安全のため、何も身につけません。しかし、移動手段や状況によっては、犬自身の命を守るために様々な装備を装着することがあります。嫌がらないように訓練しているので、装備を気にすることなく、普段と全く変わりはありません。
ハーネスは犬がバギーから振り落とされないために、ゴーグルは吹き付ける雪粒から眼球を守るために、ウェットスーツはシングルコートの犬の体温を保つために着用しています。ただ、これはあくまで雪上をバギーで移動する際の装備です。捜索活動時には必要ないため、雪山以外での犬たちはすっぽんぽんです(笑)」
なぜ犬に「靴」を履かせないの?
ーー危険物が散乱する被災地でなぜ犬に「靴」を履かせないの?
「過剰な装備は瓦礫等に引っかかるなど、かえって捜索活動の邪魔になったり、犬を危険にさらすことにもなり得ます。『作業靴』も同様で、日本の被災地に多い汚泥などでぬかるんだバランスの悪い場所を、センサーのような働きをする肉球と爪でグリップしながら移動する犬たちにとっては、竹馬で歩くような危険な状態になります。
その犬の飼い主でもあるハンドラーさんたちは、愛犬について24時間365日考えているその犬のことを知り尽くした“プロ”です。なので、皆さんの目に映った姿がその犬にとっての『正解』なのだと思います」
引退後の「救助犬」
ーー引退した「救助犬」はどうなるの?
「救助犬たちは普通のご家庭で飼われている愛犬たちです。もともと誰かを助ける目的で犬を飼い始めたのではなく、普通のご家庭の飼い主さんが、愛犬と一緒に始めた趣味が救助犬の訓練です。『救助犬の訓練』といっても、特別な公的機関でどうこうするものではなく、犬と一緒にする遊びの一環です。
なので、救助活動のない日と同じく、犬たちは引退後も普通の家庭犬として、飼い主さんの家で毎日のお散歩を楽しんだりして、のんびりと過ごします」
活動資金は?
ーー命に関わる作業なのに、「救助犬団体の活動資金」は公金じゃないの?
「私たちは自発的に動いている民間ボランティアですので、自分たちで活動資金を賄うのが基本だと思っております。ただ、近年は大きな災害も増え、活動の範囲も頻度も増し、それに伴い個人のボランティアだけは見合わない大きな責任も伴って参りました。
イベント参加への依頼があった際はご寄付として交通費などの諸費用を含めていただきますが、団体の運営にかかわる費用はまるっと自費です。例えば、令和6年能登半島地震での活動で割れた道路のせいで我々の車が壊れましたが、修理費の20万ももちろん自費でした(痛い!)。
あくまでもボランティアの団体ですので、長く続けられるよう肩ひじ張らずに犬たちと楽しくのんびりと……ですが、万が一に備えて訓練はしっかりとやっていきたいと思っています」
「犬たちに無理をさせないで」←「むしろ犬は…」
ーー救助犬の活動を応援したい!寄付先は?
「ご支援については随時、HDS K9のプロフィールに記載されている公式サイトよりお願いしております。ですが、基本的に私たちが好きで始めた活動ですので、応援のお言葉や、活動内容にご理解いただけるだけで本当に嬉しく思います。
例えば、お住まいの地域にある救助犬団体様や被災地で救助活動をされている方々へのご支援や、私たちに応援のお言葉をいただけるだけでも巡り巡って力になります!」
ーー救助犬さんたち、無理しないでね!
「むしろ、犬たちが嫌がることを無理強いするのは不可能なんです。なので訓練も、”飼い主と行う楽しい遊びの一環”として行われています。10〜15分くらい“遊んで”、後は休みます。それをせいぜい2セットくらい。犬は賢いので、それでもちゃんと覚えてくれます。大変なのはそれを毎日少しずつ続けるハンドラーさん(人間)の方かもしれません」
◇ ◇
今回、多くの質問や反響が寄せられたことについて、「少しずつではありますが、救助犬の存在が知られてきているようで嬉しいです」と、 HDS K9 愛知さん。
「ありがたいことに、『災害現場では犬に靴を履かせてあげてほしい』といった、犬たちを気遣ってくださるお声も多くいただきます。状況に合わせて最善と思われる選択をしておりますが、それでも受傷の恐れは払拭できません。
犬たちの安全については、世界中の誰よりも、犬たちと一緒に暮らす家族である私たちが、『怪我をしないで!』と強く願っております。犬たちが無事に活動できるよう、皆さまにも祈っていただけますと幸いです」(「捜索救助犬 HDS K9 愛知」)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)