松たか子、杉咲花、河合優実、伊藤沙莉の共演CMで話題になったサントリー『クラフトボス 世界のTEA』 コーヒーやビールに「クラフト」を冠した商品が浸透し、もはや一過性のブームではなく、ジャンルとして定着した感のある“クラフト系飲料”。そのブームに火をつけたのは、2017年に、サントリー食品インターナショナルから発売された『クラフトボス』だった。多様性の時代に見事にフィットした“クラフト系”の概念を紐解きつつ、『クラフトボス』のさらなる可能性や次なる一手について、同社担当者に聞いた。
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■「コーヒーは”濃さ”にこそ価値がある」からの脱却…時代によって変わる”働く人”のニーズに対応
サントリーのブランド『ボス』は1992年に誕生。主に男性を対象に“一服のお供”として、長らくショート缶で展開してきたが、2017年に『クラフトボス』としてペットボトルコーヒーを発売。その結論に至るまでには、働く人の変化に柔軟に対応してきた背景がある。
「缶コーヒーは、5分、10分の短い休憩時間の間にキュッと飲む、年齢高めの男性ユーザー様に支えられてきました。そんな中、コンビニではカウンターコーヒーの伸長がみられ、缶コーヒーにあまり馴染みのない若年層の飲用も増えていました。元々ボスというブランドは”働く人の相棒”と定義していましたが、『缶コーヒーという一つの形態に留まっていては、真の意味で働く人の相棒になれていないのでは?』と考え、そこからクラフトボスの開発が始まりました」(サントリー食品インターナショナル ブランドマーケティング本部 課長・久米さやかさん/以下同)
もちろん短い休憩時間に缶コーヒーを飲むニーズは変わらず存在していたが、『クラフトボス』開発当時、同社が着目したのはIT系の人々の働き方だった。
「休憩時間が5分、10分という働き方ではなく、ずっとパソコンの前に張り付いて作業するという働き方が増えていくなか、仕事中にも寄り添ってくれるコーヒーとして500mlのペットボトルを開発しようと思いました。もちろんボトル缶もデスクワークのおともになりますし、ちびちび飲み続けながら集中力を高める効果もあります。ただIT系の方には、ずっと画面の前で作業をしている閉塞感から解放されたいというニーズがあったので、それなら中味身の見えない缶よりも、ガラス瓶のような透明感あるペットボトルの方が、より気持ちの開放感につながるのではと思いました」
ペットボトルコーヒーの開発に際しては、2010年代から台頭してきたコンビニのカウンターコーヒーの“見た目”がヒントになったという。
「アイスのカウンターコーヒーについて『氷が溶けた時にストローで吸い上げると爽快感があり、リフレッシュできる』というお客様の声がありました。コーヒーは本格的で濃いものに価値があると思っていた開発チームとしては驚きでした。そこで『香りがあり、味わいとしても飲みやすい』飲料を目指して、それまでのコーヒーとは全く別の中味に仕上げていきました」
■『クラフトボス ラテ』が初年度で1,000万箱の大ヒット、”ごくごく飲める”コーヒーで難関だった女性層を取り込む
クラフトボスの最初の商品として、2017年に『クラフトボス ブラック』が登場。抽出して出したコーヒーをさらにブレンドする行程を繰り返し、実に200以上の工程を擁する商品だったという。
「缶コーヒーとは違う、香りはあるけど、ごくごく飲みやすい点をポイントにしました。でもシャバシャバして水っぽいとコーヒーである意味合いがないので、そこにかなりの技術を詰め込んでいます。複数のコーヒーを抽出し、それぞれを最適なバランスでブレンド。手間暇かけていろんなキャラクターの良い味香りだけを集め、雑味がない形に仕上げています。ブランド名に『クラフト(=手間暇かけている)』と掲げたのも、『ちゃんと手間暇かけたものを作るぞ』という意気込みを表しています」
ブラック登場時は「あのボスがペットボトルを出した」とユーザーからの驚きの声があったが、その3ヵ月後に『クラフトボス ラテ』が登場し、初年度で1,000万箱(2億4,000万本)を超える、ヒットを記録することに。
「ここが、ボスとしての転換点だったと思います。それまでの缶コーヒーのお客様は男性が多かったのですが、新たに女性も入ってきてくださいました。従来のボスファンだけではない、新しくボスに触れるお客様がどんどん拡大していった時期です。缶コーヒーとは違う年齢層、働き方のお客様を取り込むという点では狙い通りでしたし、我々の想定以上に、幅広い方々に手に取っていただけました」
男女比では、缶コーヒーの『ボス』は65:35ぐらいで男性が多かったが、現在は55:45ほどに男女の差がならされてきているという。依然男性が多いのは変わらないが、同一のブランドで10%も数字が動くことはなかなかないことだと久米さん。
「発売当時はデスクワークという点に着目していましたが、その後、コロナを経て人々の働き方が変わってきました。テレワークが進み、自宅やカフェ、ワークスペースなど点々と移動しながら働くという形が多くなってきていると思います。ペットボトルのクラフトボスは再栓できるので、移動時も一緒に持っていってもらえる点が大きいと思います」
■ペットボトル飲料に”嗜好性”を求める時代、いかに「日常的に飲まれるものにするか」の課題も
『クラフトボス』発売以降、カフェ文化はさらに発展していく。コーヒーや紅茶だけではなく、フルーツ・花々・スパイスなど様々な香りをまとった“アレンジティー”が登場。“健康志向”が高まり、自分好みの味や香りを楽しむ“嗜好性”も同時に求められていった。「働く時にコーヒー以外の選択肢が欲しい」という声が強まり、同社でも2019年から『クラフトボス』の無糖紅茶やミルクティー、レモンティー、フルーツティーなど、ペットボトル飲料の質をさらに上げる挑戦が続いているが、現状の日本において、紅茶は、コーヒーや緑茶ほど日常的に飲まれていない課題もある。その習慣や概念をいかに変えていくのか。今年3月に発売し、同社が押し進めているのが、『世界のTEA』シリーズ4アイテムとなる(※)。
「コーヒーは集中や覚醒、それを伴った開放感を提供できますが、ティーはさらに気持ちを明るく軽やかにさせてくれるところがあり、コーヒーとはまったくキャラクターが異なるものです。ティーは2019年に発売してから7年目になりますが、さらに働くときの新しい選択肢として、“アレンジティー”という新しい提案をしていく。この楽しみ方をいかに認知させることができるか、今後の課題になっていきます」
クラフトボスのヒットにより「ペットボトルコーヒーのパイオニア」と評価されてきたサントリー。今回『世界のTEA』が発売されたことで、ユーザーからするとまだまだ一般化していないアレンジティーの市場を新たに作り、拡大していくことが命題となる。中期的に1000万ケースの展開を目指していくという。「アレンジという新しい提案によって働く人の気分や視点を軽やかにすることを目指しています。だからこそ働く人々のニーズの変化をきめ細やかに捉える目線と、新鮮な提案をし続けるための広い視野の双方を持ち続けなければなりません。今までのクラフトボスブランドの開発のように、双方の視点で開発を続けることで結果的にアレンジティーという新たなカテゴリーを定着させたい」と久米さん。
「働く時って『今日はちょっとやる気出さなきゃ』『今日はちょっと緩くていいかな』など、様々なモードがありますが、その日のお客様のモードに合わせて嗜好のあり方も変わっていくはずなんです。その変化に寄り添うアレンジティーを提供できたらと思います。クラフトボスはペットボトルコーヒー市場を作ってきました。今回アレンジティーでヒットが生み出されれば、また新たな市場を創造することができます。ぜひ市場の活性化の一役を担いたいと考えています」