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コンビニ大手のセブン-イレブン(以下、セブン)は4月9日、2025年2月期決算を発表。その際、2025年に注力することとして「高付加価値商品の拡充」を挙げた。その一つが「セブンカフェ ティー」だ。
実は、折しも今年2月には、大手カフェチェーンとして知られるスターバックスが2000店舗目を「ティー専門店」として出店。2000店舗という節目の出店が紅茶業態であることからも分かる通り、近年スタバは「ティー」に注力している。また、スタバ以外のカフェチェーンも紅茶業態を拡充しており、ここに来て各社が「紅茶」に注目している。
なぜ「紅茶」なのか。そしてこの「紅茶戦争」の行方はどうなるのか。
●盛り上がる「ティー」市場
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セブンは2023年から「セブンカフェ」の一環としてティーの提供を始めている。茶葉はダージリンブレンド、アールグレイ、アッサムブレンドの3種類から選べ、それぞれホット・アイスがある。アールグレイとアッサムブレンドはミルクティーにもでき、合計で10通りの紅茶を用意している。
これらは、「セブンカフェ コーヒー」と同じように、レジ横にある機械で、ワンボタンで入れることができる。ただ、茶葉の抽出にはこだわっており、1分半ほどかかる。
現在、全国約90店舗で試験的に展開しているが、今回の決算発表資料では2025年度下期に2000店規模に拡充することを発表した。2026年度にはさらに8000店舗に広げる予定で、本格的な全国展開を見据える。
一方、カフェチェーンのティー商戦も、ここ数年で盛り上がってきている。その一つがスターバックスだ。
スタバは国内2000店舗目を「ティバーナストア」という「紅茶専門店」とした。「ティバーナ」とはスターバックスのティーのブランド名で、同店では紅茶や抹茶などが売られている。スターバックスは、この「ティバーナストア」をはじめ、紅茶専門店である「スターバックス ティー & カフェ」を2020年ごろから積極的に展開。特に2024年は一気に4店舗を展開し、現在は全国に15店舗を構える。
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スターバックス コーヒー ジャパン商品本部本部長の加藤桜子氏は、インタビューのなかで、既存のスタバ店舗の近くにあえてティー専門店を配置することで、相乗効果でその双方の店舗の売り上げが伸びると述べている。コーヒーとティーでシナジーが発揮されているわけだ。
また、コーヒーチェーン店の「ティー」進出でいえば、「タリーズコーヒー」も同様だ。
同社では2017年から紅茶専門業態である「タリーズコーヒー&TEA」の出店を開始し、3月6日現在は34店舗になっている。
ちなみに「&TEA」の客単価は、通常のタリーズコーヒーの客単価に比べると1〜2割ほど高いという。実際、商品を見るとデパ地下の本格スイーツのような600円以上するケーキなども売っており、こうした商品とのセットで客単価が上がっているのだろう。
そもそも、タリーズコーヒーの運営元は伊藤園であり、「お茶」の会社だ。それゆえの品質を生かし、高品質・高単価というビジネスモデルを確立させているのが、「&TEA」なのである。
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●飽和市場の中で「紅茶」が起爆剤に?
では、なぜ今「紅茶」なのか。
コンビニとカフェチェーンではそれぞれ事情が異なるものの、両者に共通するのは「市場の飽和」である。
まずはコンビニ。このところ、コンビニの売上高は微減傾向が続いており、市場の飽和が見えている。この背景にはフランチャイズオーナーによる争議が頻発して、本部も無茶な出店を控えざるを得なくなったことがある。流通アナリストの中井彰人氏は「最近は日販の向上に依存した成長に頼っているのが現状である」と言う。
そうであるならば、これまでとは異なる商品やサービスを取り入れ、顧客の来店回数や一度での消費額を増やすしかない。セブンは紅茶以外にも、焼きたてのパンなどもレジ横商品として拡充していく予定であり、紅茶と合わせて購入することが見込まれている。
カフェチェーンも同様である。
日本国内の喫茶店市場はここ20年ほど、ほぼ横ばいの状態が続いている。1999年度が1.2兆円で2008年度が1.04兆円、そしてコロナ禍が明けた2023年度が1.18兆円と、だいたい1兆円あたりをうろついている状況だ。
一方で、1981年以降は喫茶店全体の数は減少を続けているというデータもある。おそらく小規模な個人経営店が減り、それよりも広めの商圏を持つカフェチェーンが台頭してきているのが現状だろう。いずれにしても横ばいの市場規模の中で顧客を食い合っている状態で、「紅茶」という選択肢が出てきたものと思われる。
ただ、市場を拡大したいだけなら、紅茶でなくても良いはずだ。しかし、紅茶は市場拡大にちょうど良かった。
セブン-イレブン・ジャパンのマーチャンダイザー櫻井宏子氏はインタビューに対し「コーヒーが苦手な人が多数いるほか、若い女性の間で紅茶が流行っており、ホテルなどのアフタヌーンティーを楽しむ活動『ヌン活』をする人も増えている」と述べている。
実際、2024年7月のマイボイスコムの調査では「コーヒーを全く飲まない」と答えた人は10%。1割はコーヒーを飲まない、あるいは飲めないのだ。しかも、同じマイボイスコムの2012年の調査によれば、この数値は5.6%だったので、年々増えている。このままいけば、やや大げさな言い方かもしれないが、「コーヒー離れ」がさらに進む可能性もある。そして、「ティー」の需要が高まるのである。
「ヌン活」人気も継続中だ。この言葉は2022年に新語・流行語大賞にノミネートされたが、いまだに都内を中心としたホテルではアフタヌーンティーの需要があるという。ある程度高価でも、友人などとゆったり時間を過ごしたい需要があるからだろうが、特にコンビニやカフェのティーで少しライトな「ヌン活」を……という層もいるはずだ。
●「紅茶戦争」はそもそも起きるのか?
では、今後「紅茶戦争」はどのように展開されるのだろうか。
一ついえるのは、セブンが紅茶に進出したからといって、カフェチェーンの紅茶業態が大打撃を受けるとは考えにくいということだ。そもそも、紅茶を買う場面と、カフェでゆっくり紅茶を飲む場面は基本的に重ならない。そのため、商材は同じでも利用場面を考えると完全な競合にはならない。
しかし、根本的に私が感じるのはこの「紅茶戦争」自体が成立しない可能性だ。
そもそも、コーヒーと比べたときの紅茶の市場規模はまだまだ小さい。2022年度のコーヒーの市場規模が約7500億円だったのに対し、紅茶は約1720億円。4分の1程度の規模しかない。つまり、市場規模がそもそも小さいため、拡大にも早々に限界が訪れる可能性がある。
経済評論家の加谷珪一氏は、コンビニコーヒーが成功した理由として、潜在的な需要も含めて市場規模が大きかったことを挙げている。事実、コンビニコーヒーが本格的に登場した2013年以後、日本のコーヒー消費額は増加した。これは、コーヒーを飲みたかったが機会がなかった人たちがある程度いたということだ。
それに対して、紅茶はどうか。実はこれまでもカフェチェーンは紅茶を主軸にしようとして、うまくいかなかった経験がある。例えば、米スターバックスは「ティバーナ」を拡大させようとしたものの、2017年に379店舗を閉鎖し、ティー事業が「失敗」に終わった。
それだけでなく、そもそも潜在的に紅茶への需要が高ければ、すでに日本には紅茶を主軸とする全国規模のカフェチェーンがあってもおかしくはない。しかし、今までそれが現れなかったのは、紅茶の広がりが限定的なものに止まっているからではないだろうか。ちなみにファミリーマートもレジ横で紅茶を販売しているが、コーヒーほどには広く受け入れられてはいないようだ。
始めてみたものの、あまりうまくいかず各社が静かに撤退……なんて未来もあるかもしれない。
●セブンの紅茶が紅茶市場の起爆剤になるか?
ただ、セブンの紅茶は受け止めによっては、今後の紅茶市場も変わるかもしれない。
セブンカフェ ティーはただ単にティーバッグにお湯を注ぐのではなく、機械を使いながらも、実際に人が入れるのと同じような工程で抽出される。より本格的な味わいを楽しむことができ、紅茶好きの中でも評価が高い。もしかすると、セブンの紅茶を飲んだ人が「紅茶ってこんなにおいしいんだ」と気付き、スタバやタリーズなどで紅茶を買うきっかけになるかもしれない。
これまで発掘されていなかった「紅茶」の需要を、セブンが広げることも考えられるのだ。
セブンが2013年からレジ横で提供したコーヒーは、「コンビニコーヒー」という一大ジャンルを築き、既存市場を拡大して、コーヒーをより一般的なものに押し上げた。
潜在的に市場の小さいティーにおいては、「戦争」よりも「協力」によって、市場を拡大していくことが重要だと思われる。その意味で、セブンの紅茶がどのように受け入れられていくかは、今後の紅茶市場を見る上で非常におもしろい視点を提供してくれている。
セブンの紅茶販売が拡大するのは2025年度の下半期から。いったいどのような展開を迎えるのか、楽しみでならない。
(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)
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