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歌唱力、メロディーセンス、容姿…。ミュージシャンの持つ個性は数あれど、その「歌声」ほどに際立つ特徴はそうない。個性的な歌声という天賦の才能を手にするミュージシャンを今回は取り上げてみたい。
特徴的な歌声、といっても広く見てしまうと全てのミュージシャンが他とは異なる「個性的な声」になってしまうので、今回は「丸くて温かみのある優しい声」というやや抽象的な括りで話を進めようと思う。具体的には矢野顕子やクラムボンの原田郁子、コトリンゴ、相対性理論のやくしまるえつこ、moumoonのYUKA、羊毛とおはなの千葉はな、最近だとさよならポニーテールやハナエ、神田莉緒香なども挙げられるだろう。ウィスパーボイスや可愛らしい声、温かみのある声などその形態は様々であるが、総じて「優しい声」を持つミュージシャン、ポップ中毒者を虜にするシンガーたちである。
(参考:新星・大森靖子の台頭で改めて注目 “激情系シンガーソングライター”の系譜とキャリアを探る)
彼女たちの活動に目を向けるとある特徴に気がつく。外部のミュージシャンによるプロデュースや楽曲提供、共演などコラボレーションを行う機会が他のミュージシャンに比べ非常に多いのだ。先に上げたミュージシャンで言うと矢野顕子は言わずもがな、原田郁子はテイ・トウワやレイ・ハラカミ、TOKYO No.1 SOUL SETなどの楽曲に参加しているし、コトリンゴはその才能を見出した坂本龍一と共に映画「新しい靴を買わなくちゃ」のサントラを共作している。moumoonのYUKAはMAKAIやRie fu、Tiaraの作品に参加しており、少し変わったところではさよならポニーテールがイラストレーターの岸田メルとデュエット、またMVの監督をでんぱ組.incの夢眠ねむに依頼していたりもする。そんな中でも特出してコラボが多いのは相対性理論のやくしまるえつこ。坂本龍一や高橋幸宏から大友良英、フィッシュマンズ、はたまた近田春夫からECDまでジャンルを問わず数々のミュージシャンと共演、文字通り引っ張りだこで活躍している。
なぜ彼女たちは他のミュージシャンから人気なのか。共演者たちがこぞって挙げる理由はやはり「声の魅力」だ。普段とは毛色の異なる「声」を取り入れることで楽曲にアクセントをつける、それが共演者たちの多くがコラボレーションを考える理由である。ただし、その「声」の用いられ方もミュージシャンによって少々異なるように思う。例えば矢野顕子の場合は声を含めた彼女の存在感が前面に現れ、楽曲を自ら牽引していくイメージ。一方やくしまるえつこに代表される最近のミュージシャンの場合は、楽曲の中に優しい歌声がうまく溶けこんでいく、そんな印象である(彼女がボーダレスに活躍できる理由もそこにあるのだろう)。いずれにせよ自らだけの「声」という楽器をもつ彼女たちは、その稀少性ゆえコラボレーションしたい相手として他のミュージシャンを魅了する存在なのである。
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さて、これまで取り上げてきたような「魔法の声」を持つミュージシャンの中でも、期待の新鋭として業界内外から注目を集めているのがシンガーの南波志帆だ。彼女がタルトタタンと組んだユニット「THE NANBATATIN」のアルバム「ガールズ・レテル・トーク」が2月5日にリリースされる。南波志帆といえば2010年のメジャーデビューアルバム「ごめんね、私。」をリリース以来、その浮遊感かつ透明感あふれる歌声が話題となり「マジックヴォイス」と形容されることもあるミュージシャン。これまでもコトリンゴやtofubeats、羊毛とおはななど数々のミュージシャンと共演を果たしてきた彼女だが、今回のアルバム「ガールズ・レテル・トーク」においても大森靖子が作詞を担当したリード曲「ガールズ・レテル・トーク」やアーバンギャルドの松永天馬が作詞を担当した「ズレズレニーソックス」など、外部のミュージシャンを積極的にコラボレーションしている(アルバム全編のサウンドプロデュースを担当したのはふぇのたすのヤマモトショウ)。南波志帆は先に挙げたミュージシャンと比べればまだ若く、これからの更なる飛躍が期待されるシンガーだけに「THE NANBATATIN」での活動がどのようなものになるか注目である。(北濱信哉)
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