『翔んで埼玉』若松央樹Pが明かすヒットの要因 宣伝のストーリー&こだわりの配役が功を奏す

42

2019年03月28日 10:11  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 映画『翔んで埼玉』が大ヒット公開中だ。魔夜峰央の同名漫画を実写化した本作は、二階堂ふみとGACKTがW主演を務める“埼玉ディス”映画。ご当地である埼玉を中心に話題を広げ、累計で興行収入25億円、観客動員数動員193万人を突破している(3月26日時点)。本作のプロデューサーを務めた、フジテレビの若松央樹氏に現在の大ヒットに至る軌跡を語ってもらった。


参考:『翔んで埼玉』に見る“ご当地自虐映画”の意外な奥深さ 埼玉、群馬の次に標的になるのはどこだ!?


ーーまずは大ヒットの現状について感想をお聞かせください。


若松央樹(以下、若松):もちろんヒットは願っていましたが、正直びっくりしています。想像を超えるヒットです。累計興収20億を突破、観客動員も156万人を突破(※取材日は3月18日)して、週平均の落ち率も低いので、今後も期待できるなんてことを言われてしまうと、すごいことになっているなと感じます。


ーー“ディス”というバッシングに遭いやすい題材だとは思いますが、実際に観てみると愛のある取り上げ方をされています。そのあたりがヒットの一つの要因なのかなと思いました。


若松:武内(英樹)監督も最初の頃から、埼玉県民が観ても怒らないものを作ろうと気を張っていました。現地埼玉での取材なども精力的に行って、なんとなくその温度感を掴んでいきました。原作の面白さとコンプライアンス的なラインがすごく微妙なところで、いかにディスりつつも愛があるところに持っていけるかというストーリー構想やセリフ選びに注力をしました。結果的に、“都市伝説”という形にして、何を言ってもまろやかに聞こえるようにしましたし、成立させるために大がかりなセットを組み、衣装メイクを含めて伝説の世界へと振り切りました。ようやく「さすがにこれで本気で怒る人はいないだろう」というラインに辿り着いたと思いました。


ーー『ボヘミアン・ラプソディ』と同じようなヒットの仕方とも言われていますが、データや宣伝に特徴はありましたか?


若松:製作当初は20代の男性女性がメインターゲットでした。あまり2週目が初週を上回るというデータを見たことがなくて、蓋を開けてみると世代も広くて年配の方から小学生くらいまで、幅広く観られている印象です。宣伝は、とにかく埼玉の方に嫌われないようにしようとしました(笑)。埼玉に特化した宣伝を打ち出しつつ、いかに全国に広めるかを東映の宣伝部さんと検討しました。埼玉県知事に表敬訪問をするのは当初からの目標でした。原作にも知事はコメントしているのですが、それが「悪名は無名に勝る」と名言をいただいていて、映画でも同じことをしたいと。なんとか認めてほしかったので、まず謝罪会見から始め、県の広報課などいろいろなところにお願いして、ようやく県知事にお会いできた。表敬訪問が成立できたのは大きいかなと。そこからは埼玉の魅力を伝えるために全国キャンペーンを始めました。このあたりの宣伝のストーリー作りが上手くいったのかもしれません。そして表敬訪問が成功したあたりから、情報番組で取り上げていただいて、上手い具合に埼玉県の魅力や地方創生などのニュース的なフックが生まれたのかなと。『翔んで埼玉』はフジテレビ幹事の映画ですが、自局だけでなく他局の情報番組でも取り上げていただけたのが世代が広がった理由なのかなと思います。なかなか狙ってできるものではないですが、ネタが上手くシンクロしていったのかなと思います。


ーー原作は1980年代のもので、数年前に復刻版によりSNSを中心に盛り上がりましたが、映画化に動き出したのはいつ頃でしょうか?


若松:実は、僕は武内監督とはTVドラマからの古い仲で、『電車男』で初めてご一緒して、その後『のだめカンタービレ』などもやっていました。そのうちに、それぞれ他の人たちと仕事するようになっていき、たまに飲む度に「また馬鹿なことやりたいね」と話していたんです。最初は、確か僕から違う原作を提案したんですね。その時に、監督がたまたま本屋に平積みされていた『翔んで埼玉』を見かけて、「若松、こっちやれないかな」とお持ちいただいて、僕もそこから原作を読みました。最初読んだ時は、どうやって物語を成立させようかと思案しました。原作は未完で終わっているので、結末を用意しなければいけない。それから監督と何度も飲みに行って、埼玉千葉論争など郷土ネタの話を広げていくうちに、企画として成立するんじゃないかと動き始めたのです。


ーー日本ではコメディ映画はヒットしづらい側面がありますが、企画を立てるのはスムーズに進んだのでしょうか?


若松:社内でも様々な意見はありましたし、特に埼玉に特化していて”ディス”が前面に立ってくる話なので、最初はやはり企画も難航しました。でも監督と話している時は、『電車男』をやっていた当時のノリに近かったような気がして、笑いとしての自信があったんです。日本のコメディは、数としても足りない。だからこそ独特の武内ワールドで、冒険してみたいと思いました。


ーーキャスティングにも試行錯誤がありましたか?


若松:GACKTさん演じる麻実麗役を非常に悩みましたね。高校生役なので、初めは若い男性俳優を探していたんですが、この世界観にハマる役者さんがなかなか見つからなかったんです。アイデアが浮かばず候補がいなくなってきた段階で年齢制限を取っ払ってみました、その時に「GACKTさんっていうのはありますかね」と言ったら、監督が「それだよ!!」と(笑)。座組よりもこの世界観を成立させられる人を考えてのキャスティングだったんです。二階堂ふみさんも、当初はそこまでBLを意識していなかったので、女性の役設定でラブストーリーとして成立させても良いかなと考えていました。二階堂さんは非常にコメディも上手い役者さんだと思っていました。オーラがあって、何かやることが人を引き付ける素晴らしい女優さんだと思っていて、二階堂さんには早い段階からオファーしました。オファーの際は「女性役でも成立すると思っています」とお伝えしたのですが、二階堂さんから「原作も男役なら男役で勝負したい」とおっしゃっていただいて決定しました。


ーーお二方はこのヒットにどのような反応を?


若松:おかしいんじゃない? と(笑)。「くだらない映画」というのは僕は誉め言葉だと思っています。ゲラゲラ笑って日頃のストレスを発散できる、そういうのがウケるのはすごく良いことじゃないかと喜んでいました。お互いこんなにヒットするとは信じられない様子でした。


ーー最近だと、実写の日本映画、しかもコメディ映画でここまで大ヒットするのは珍しくなってきているかと思います。本作が今後の映画製作に与える影響をお聞かせください。


若松:こんなくだらない映画が、これだけ観ていただけているというのは僕自身嬉しいです。映画って考えさせられるものばかりじゃなくて、純粋に楽しめるくだらないものもあっていいと思うんです。今後こういう作品が増えてくれればうれしいです。


ーーこれだけのヒットを受けると、どうしても続編を期待してしまいますが、可能性はあるのでしょうか?


若松:今はまだ考えていません。最初作るときは続編などは考えずに作ったので、もう少し今のヒットを噛み締めて、監督と話して、もしアイデアが生まれれば、次があるかもしれません。


(取材=宮川翔/構成・写真=安田周平)


このニュースに関するつぶやき

  • 発端はマツコだろ。
    • イイネ!5
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(23件)

オススメゲーム

ニュース設定