少子化が大きな問題となっている日本。特に2016年以降はそのスピードが加速し、それまで年率1%程度の減少だったのが、年率3.7%程度の減少となっています。具体的には、2015年までは年間100万人あった出生数が、わずか7年で20%以上減少したことになり、2030年と見込まれていた80万人割れが早くも2022年に現実のものとなってしまいました。その背景には新型コロナウイルス感染拡大による婚姻数の急減の影響があるものの、けっして一時的なものではないことを感じ取っている皆さんも多いことと思います。
それでは、どのような取り組みをおこなえば少子化対策に歯止めをかけられるのでしょうか。今回紹介する書籍『なぜ少子化は止められないのか』では、日本総研の研究員で人口問題や地域政策を専門とする藤波 匠氏が「なぜ少子化は止まらないのか」「どのような手を打てばよいのか」などについて、さまざまなデータを基に分析し、解説しています。
少子化は非婚・晩婚が原因だと思っている人もいるかもしれません。実際は、2010年代に母親となる女性の数がどんどん減っていき、その後も人口が多かった世代が結婚・出産期から出ていくという「人口要因が出生数減少の主因になっている」というのが正解です。しかも、最新の出生動向基本調査では、女性の出生意欲の低下が顕著に見られ、「結婚しても子どもはいらない」「子どもの数は少なくてよい」と考えている人が増えていることがわかります。
「結婚や出産に対する意識の低下を、時代の変化や価値観の変化で片づけてしまってはいけないと思います。若い世代を取り巻く環境の悪化が、出生意欲の低下を招いているという理解が必要」
「現代の日本が、結婚して家族をつくり、子どもを育てていこうという若い世代のごく当たり前の希望が、経済や雇用の問題によってかなえられない国になっている」(同書より)
もちろん、今の時点で対策が何もなされていないわけではありません。けれど、保育所の数を増やしても、子育て世代へのいくばくかの現金給付をしても、少子化の解決には至らないだろうと藤波氏は言います。そうした中でやはり必至となるのは、賃金の引き上げと雇用環境の改善。岸田文雄総理大臣は「異次元の少子化対策」を掲げていますが、表層的な支援にとどまることなく、日本の社会構造的な問題にどこまでメスを入れられるか、その姿勢を示してほしいものです。
少子高齢化は将来的な労働力の減少や社会保障費の増大などにもかかわるため、誰にとっても切実な問題です。同書は今後、政治が、社会が、私たちがどのように意識を変えていくべきかを考えるのに参考になる一冊だと言えます。
[文・鷺ノ宮やよい]
『なぜ少子化は止められないのか (日経プレミアシリーズ)』
著者:藤波 匠
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
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