森口将之のカーデザイン解体新書 第49回 「カローラクロス」に「カローラらしさ」はある?

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2021年10月19日 11:01  マイナビニュース

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トヨタ自動車の「カローラ」に第4のボディが追加となった。SUVの「カローラクロス」だ。いくつかの部分で兄弟たち(既存のカローラ)とは違う部分が見られるが、このSUVも「カローラの一員」と認められるのか。メーカーからの説明も確認しつつ、デザインを見ていくことにしよう。


○まずは海外で発表が現行「カローラ」のやり方



トヨタ自動車が9月14日に日本で発売した「カローラクロス」は、通算12代目となる現行「カローラ」の4番目のバリエーションであり、初のSUVでもある。


ここで「現行カローラ」と書いたのは、10代目以降のカローラは国内向けと海外向けで車両が異なるからだ。国内では12代目「カローラ」のほか、先代モデル(11代目)の「アローラアクシオ」と「カローラフィールダー」もグレードを絞って販売を続けている。



現行カローラで最初に姿を見せたのは、ハッチバックの「カローラスポーツ」だった。2018年4月のニューヨークモーターショー(米国)が初披露だ。続いて同年10月、パリショー(フランス)でワゴンの「カローラツーリング」がデビュー。翌月の広州ショー(中国)でセダンが発表となった。


日本で最初に出たのもスポーツで、発売は2018年6月だった。セダンとツーリングは2019年9月に日本に上陸している。SUVのカローラクロスは2020年7月にタイで発表となり、日本での販売は今年9月に始まった。



こうしてみると、カローラはいずれも日本国外で最初にお披露目され、遅れてわが国にやってくるという順序をたどっている。カローラがグローバルモデルに成長した証だ。

○海外と日本で異なる「カローラ」のサイズ、クロスは?



カローラクロスは現行のセダン、ツーリング、スポーツ同様、トヨタの新しいクルマづくりである「TNGA」から生まれた新世代プラットフォーム「GA-C」を採用している。ホイールベースも全車2,640mmでほかのカローラと同じだ。


このGA-Cプラットフォームは「プリウス」および「C-HR」の現行型も採用しているが、ホイールベースはプリウスのみ2,700mmとやや長い。ちなみに「RAV4」「ハリアー」は「カムリ」と同じ「GA-K」プラットフォームを使っているので、ひとクラス上のSUVという位置付けだ。



現行カローラの4つのボディを見てみると、国内向けと海外向けのデザインがほとんど同じなのはスポーツだけであることに気づく。



セダンとツーリングは、ホイールベースと全長が海外向けよりも短い。海外向けのホイールベースはプリウスと同じ2,700mmだ。全長はセダンの日本仕様で145mm短い。さらに全幅も、前後のフェンダーの張り出しを控えめにすることで1,780mm(海外)から1,745mm(日本)に抑えている。



カローラは国内で長年にわたり大衆車の代表として親しまれてきたためもあり、5ナンバーにこだわったアクシオやフィールダーの販売を継続するとともに、現行型も海外向けより小さめに仕立てたのだろう。


ところがカローラクロスの外寸は、海外向けとほぼ等しい。ホイールベースはもともと2,640mmだったので変更はなく、4,490mmの全長はセダンやツーリングとほぼ同じであるものの、1,825mmの全幅、1,620mmの全高はともに現行カローラで最大だ。


背の高さはSUVだから当然としても、全幅については1.8mを超えた初めてのカローラになる。このクラスの日本製SUVにはマツダ「CX-30」やスバル「XV」などがあり、クラスは下になるもののサイズの近いホンダ「ヴェゼル」もあるが、これらのクルマはほとんどが横幅を1.8m以下に抑えている。なので、カローラクロスの車幅については意外に思えた。

○海外向けとは異なる顔の意味は?



でも、カローラクロスは「海外向け」がそのまま日本に入ってきたというわけではない。フロントマスクは日本独自のデザインだ。



トヨタの広報部に尋ねると、タイや中南米などではタフでラギットなSUVが求められていたので、力強さを押し出したデザインにしたとのこと。日本では都会的な上質さ、洗練されたSUVが求められていたので、少しフォーマルなイメージにしたという。


実車を観察すると、特にヘッドランプやアッパーグリルの処理には、ほかのカローラとの共通性を持たせていることがわかる。海外向けが新しいカローラの姿を表現しているのに対し、国内向けはカローラシリーズの一員であることを強調しているように感じた。



ボディサイドはひとクラス上のSUVであるRAV4に似ている。最初に写真を見たときは、ドアやサイドウインドーの一部を共用しているのかと思ったほどだ。


よく見比べるとそうではないことがわかるのだが、海外向けカローラクロスのグリル、横長のコンビランプを据えたリアビューはどことなくRAV4に似ている。米国でもっとも売れているトヨタ車になるなど、海外で圧倒的な人気を誇るRAV4の弟分という位置付けも持たせたのかもしれない。

○インテリアは「カローラ」そのもの



対象的なのがインテリアで、ほかのカローラと共通する造形が多い。とりわけインパネは、ドライバーの前のメーターパネル、センターの大きなディスプレイ、矢尻のような形状のエアコンルーバー、オーソドックスなレバーを用いたセレクターレバーなどにより、カローラらしい空間になっている。


インテリアカラーをブラックのみとしたことを含めて、オーセンティックという印象が強い。ただし、ベース価格が200万円未満というロープライスから想像するような安っぽさはなく、クオリティはほかのカローラと同レベルだった。


キャビンの広さはこのクラスのSUVの平均値といった感じだが、荷室は広大だ。5人乗車時で487リッターという数字は、「C-HR」の318リッターの1.5倍以上になる。開口部の高さを720mmとするなど、使いやすさにも配慮している。


パワーユニットは1.8リッター直列4気筒ガソリンエンジンと、これにモーターを組み合わせたHV仕様がある。後者のみ日本独自の仕様として、モーターで後輪を回す4WD「E-Four」が選べる。前輪駆動のリアサスペンションが、ほかの現行カローラのマルチリンクからトーションビームになることも特徴だ。



今回はHVの前輪駆動車に乗ったが、加速は静かで余裕があり、乗り心地はまろやかであるなど、快適性を重視したSUVだと感じた。しかしハンドリングが不安というわけではなく、ステアリング操作に対しては素直に曲がってくれた。



気になるボディサイズは、着座位置が高いことに加え、キャビンがスクエアでボディサイドの抑揚も少ないので、走行中は気にならなかった。ただし都市部の駐車場では、全幅を意識することもあった。このあたりは試乗で確かめてほしい。



トヨタ広報部によれば、現時点で約3万台の受注があるなど人気は上々とのこと。購入者の特徴としては年代による偏りがなく、20〜60代という幅広い年齢層から均一に選んでもらっているという。



この売れ行きも、カローラクロスのキャラクターを表していると感じた。前に挙げたライバルたちがデザインやパッケージング、走りで独自性を強調する中、カローラクロスはあらゆる性能をバランスよくまとめており、カローラの名にふさわしいクルマだった。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)
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