そんなある日、私は夫の異変に気が付くのです。トシキが仕事休みの土曜。遅い朝食を食べた後、突然トシキは出かける身支度をしはじめました。
トシキはやたら早口でしゃべり続けます。「取引先の社長が急に日程ずらしてくれとか言ってくるからさ〜。これから会社行かなきゃなんだよ。打ち合わせのあとメシとか行かないとだしさ〜。あ、打ち合わせ用の書類も準備しないとだから早く出ないとだよな〜。そうだ! サンプルまだ会社に残っていたかな……」ゴニョゴニョとつぶやく様子を怪しく思いながら、私は笑顔で送り出します。「いってらっしゃーい」
まだ「怪しい」と感じただけで、何の確証もありません。本人に問いただすときは証拠をすべて揃えておいて、言い逃れできないくらいまで一気に追い詰めないと……。そう思っていました。しかしトシキは思ったより早く、夕方になる前に帰宅しました。
トシキは何やら挙動不審で、家のなかをウロウロしています。「何か落ち着きなくない?」「えぇ!? なんで? 全然? 全っ然フツーだよ?」そう返すトシキの声は明らかに動揺していました。
トシキは私に促されてお風呂に向かいました。まるで怪しい行動を隠すかのように、わざわざ自分のスマホを脱衣所まで持っていきました。しかし私はトシキのカバンを探り、パスケースを取り出します。
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トシキとは高校の同級生だったこともあり、お互いに何でも遠慮なしに言い合える関係性です。とはいえ「怪しい」という気持ちを直球で夫へぶつけるほど、私も単純ではありません。ぶつける前に確実な証拠を押さえなければ。まずは夫がどこに行っていたかを探るため、私は最寄りの駅で乗車履歴を入手したのでした。A駅は隣の県の中心部の駅です。夫の仕事とはまったく縁のない場所なのに……? 私はこの証拠を握りしめ、帰路についたのでした。
※交通系ICカードの履歴確認方法は、カードによって異なります。
【第2話】へ続く。
原案・編集部 脚本・渡辺多絵 作画・りますけ 編集・井伊テレ子