新型「iPad Pro」が見せる未来の夢と「iPad Air」が見せたバランス感覚 実機を試して分かったiPad購入ガイド

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2024年05月14日 06:10  ITmedia PC USER

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5月7日のApple Eventで発表された新製品。今回、M4チップ搭載のiPad Proの13インチモデルとMagic Keyboard、Apple Pencil Proの組み合わせと、M2チップ採用のiPad Airの11インチモデルを試した

 5月7日に開催されたApple Eventで、一新されたiPadシリーズのラインアップ。最新モデルの先には、どんな展望が見えているのだろうか。


【その他の画像】


 M4チップ搭載の「iPad Pro」と「Magic Keyboard」、従来通りの11インチ版だがM2チップ搭載の「iPad Air」、そして「Apple Pencil Pro」の実機を試す機会を得たので、しっかりと検証を行い分析と推察をまとめた。


●M4版iPad Proは引き締まったスリムボディーで未来への夢を広げる


 まずは、二律背反するはずの高性能化と薄型化を同時に実現した新型iPad Proから検証したい。


 気になるのが、約5.1mm(13インチモデル/11インチモデルは約5.3mm)と劇的に薄くなった本体デザインと、明るさおよびコントラスト比が向上したディスプレイ、そしてMacでも未採用のM4チップを搭載したことだ。


 まずは薄くなった本体デザインから見ていこう。11インチモデルで約5.3mm、13インチモデルでは約5.1mmという薄さは、Appleがこれまで出してきたデジタル製品の中で、最薄でiPhoneやApple Watchよりも薄くなっている(本体が大きい分、バッテリーや部品を平たく配置できる)。


 とはいえ、従来製品との薄さの違いは1mm強しかない。見る角度によっては、それほど薄く見えないこともある。ただ100g近く軽くなっていることもあると思うが、手に取ると、その瞬間「薄い!」と感じる。これまでのiPad Proを持ったことがある人は、なおさら強くそう感じるはずだ。


 実物を触るまでは、薄くなった分、折れ曲がりやすくなったのではないかと心配していたが、モノとして引き締まったような印象を受け、ボディーの剛性に不安を感じることはなかった。


 残念ながら、今回借用した製品で本格的な耐久性テストや曲げのテストをすることはできないが、手で軽く折り曲げたり、ひねったりして力を加えた限りでは、これまでの製品と比べて特別に剛性が落ちたという印象はない。もちろん、薄い製品なだけに無理に曲げようとすれば折り曲がるだろうし、思わぬ事故で曲がってしまうこともあるだろう。


 しかし、普通に使っている際に関わる負荷に関しては、Appleも全ての製品でこれまで行ってきた耐屈曲試験などを行っているはずだ。もし日常使いで折れ曲がることが多ければ、Apple自身が製品の修理や交換などで出費がかさむことになるし、その辺りはしっかり対応できていると考えたい。


 続いて、本製品が初採用となるM4チップを検証していこう。今回、定番の性能検証アプリである「Geekbench 6」と、同じ開発者によるApple Neural Engineを用いたAI関連の処理を検証できる「Geekbench ML」の2つのアプリを使って徹底的な検証を行った。


 比較対象として、同時デビューのM2搭載iPad Airの性能を基準値に、それと比べて何倍の性能を発揮するかを検証した。テストの方法や結果については下記の囲みを参照してほしい。


テスト方法について


 今回、Geekbench 6とGeekbench MLを4つのデバイスで試した。今回のレビュー対象であるM2版iPad AirとM4版iPad Pro、前モデルのM2版iPad Proだ。そしてiPadにM3搭載モデルがないために、M3チップの比較用にM3搭載iMacでもテストを行った。


 GeekbenchとGeekbench MLの全てのスコアにおいてM2版iPad Airの性能を基準値、つまり「1」として、他の3製品が何倍の性能を発揮したかをグラフにしている。実際のスコアが知りたい人のために全スコアをまとめた表も用意した。


 コンピューター処理は、単にプロセッサの能力だけで決まるものではない。iPad AirかProかあるいはMacかによってプロセッサが利用できるメモリの容量も異なっており、それらによって厳密な比較は行えないが、今回は割りきっている。ただし、プロセッサの基礎体力とも言えるシングルコアの性能でもM4は他のモデルと比べて大きな差を見せつけた。これは遠からず登場するであろうM4チップ搭載Macの性能にも期待が持てそうだ。


●実際に試したりベンチマークテストなどで比較したりして分かったこと


 驚いたことに、M4チップは大半のテストで安定した電源に繋がれたM3チップ搭載のiMacを上回る性能を発揮した。


 特に性能が良かったのが、画像の中に写っている物体を画像認識する「Object Detection」の処理で、シングルコアつまりプロセッサ内の1コアで行う処理でM2搭載iPad Airの2.4倍、複数コア処理でも1.8倍近い性能を発揮した。同様にレイトレーシングと呼ばれる3D表現の性能も1.5倍以上だった。GPUを使った処理でも、画像などの特徴を抽出する処理や背景をぼかす処理などで1.3〜1.4倍の性能を発揮している。


 一方、AI処理に特化したApple Neural Engineを使うテストではイメージの分類、画像のスタイル変換(加工処理)、画像の解像度を向上させる処理、そして機械翻訳などの処理でいずれも約1.4倍というスコアを出し、文章を解析して分類するText Classificationのテストに至っては最大2.2倍という性能をマークしている。


 とはいえ、M4チップの最適化はまだまだこれからであり、従来のベンチマークテストのスコアは参考程度に見ておくのがいいだろう。


 別の記事でも書いたが、これからはプログラムコードではなく、AI処理によってテキストや画像、音の識別や加工を行うアプリが増えてくる。そういったアプリのAI化が進めば進むほど、M4版iPad Proを使うアドバンテージは大きくなるはずだ。


 特に、既にアドビのアプリのAI化が進んでいることからも想像できるように、今後、写真や映像加工といった分野のアプリはAI化が最も著しく進むことになるはずで、iPad Proのターゲットユーザーであるプロのクリエイターは、その恩恵を受けやすい。


 次に、M4 iPad Proのもう1つの売りであるUltra Retina XDRディスプレイを検証した。


 筆者がiPhoneで撮影した動画や、何枚かのRAW形式での写真を見比べてみた。正直、違いを見極められるか自信がなかったが、何枚かの写真でハッキリと違いが分かった。


 ハンバーガー屋のネオンと日没後の空のグラデーションをビーチ際で捉えた写真では、新型iPad Proと従来のiPad Proで明らかに空のイメージが違った。異なるのは空の明るい部分で新製品の方が空が明るく描かれていた。


 空の微妙な色のグラデーションの変化は、どちらもきれいに描写されている。しかし、明るさのピークを見比べると旧モデルの明るさは一段低くなっている。これは、やはり新モデルのタンデムOLEDの効果なのだろう。


●製品スペックで見る新旧iPad Proの違い


 各モデルのスペックの違いをおさらいしてみよう。


 ディスプレイ技術で最も難しいのが、暗いところを真っ暗に、明るいところをとても明るくみせる明るさのコントラストの表現だ。


 旧モデルのiPad Proでも、このコントラスト比が素晴らしく100万:1を実現していたが、新型iPad Proのコントラスト比は200万:1と、新モデルは旧モデルに対して明暗差の表現力が倍増しているのだ。


 では、どれだけ画面を明るくできるのかというと最大の明るさは1600ニト、実はこの輝度は旧モデルと変わっていない。ということはその分、暗い箇所の表現性能が豊かになっていると考えられる(し、実際に暗い箇所もきれいなグラデーションが描かれている)。


 ちなみに、この1600ニトの輝度が発揮されるのは、表示する写真や映像がHDR撮影されていることが条件で、これに対応していないカメラで撮影した写真や映像、iPhoneで撮影したがそこまで明暗さがなかった写真などでは、SDR(Standard Dynamic Range)というフォーマットで記録されるが、実は新型iPad ProはこのSDRの表示でも威力を発揮する。SDR表示時の輝度は前モデルでは最大600ニトだったが、新モデルでは1000ニトになっており、通常のイメージもより明るい表示で楽しめるのだ。


 おそらくタブレット史上最高のディスプレイには、映像プロフェッショナルをうならせるもう1つの機能がある。「リファレンスモード」という機能だ。


 最近では、カメラマンや映画監督などが現場で写真や映像の確認用にiPadを使うことが増えてきている。確かにこれまでのiPad Proでも、業務用のモニター機器並みに色表現などが正確で信頼性は高かったが、画面表示の色域などの調整まではできなかった。しかし、新型iPad Proでは「リファレンスモード」という機能が追加され、画面表示のホワイトポイントや輝度などを調整できるようになっている(ただし、このモードを使うと、バッテリー動作時間に影響が出るとされている)。


 さらにストレージ容量が1TBと2TBのモデルでは、反射の少ないNano-textureガラスもオプションとして選ぶことができる。


 最高峰のディスプレイと最高峰のプロセッサを備えつつ、製品としてはさらに薄くなったiPad Proは、さまざまなクリエイティブプロフェッショナルの働き方に大きな変化をもたらすことになるだろう。


 なお、新型iPad Proは全ての側面で進化しているわけではない。カメラ機能に関しては、これまで内蔵されていた超広角レンズが省かれている。ただiPad Proユーザーの多くが超広角レンズのついたiPhoneを使っており、両者がHandoff機能やAirDrop、iCloudで連携できることを考えると、実はiPad Proに超広角レンズはそもそも不要だったのではないか、という声もよく聞く。


 実際、筆者も超広角で撮る時には、小回りの利くiPhoneで撮っていることが多く、iPad Proで超広角撮影をしたことはほとんどなかった。


 カメラといえば、ビデオ会議などに使うフロントカメラは長辺の側に移動したため、本体をMagic Keyboardや他のカバー製品を使って横向きに置いた際、ビデオ会議の相手と視線の方向が合いやすくなっている。


●Apple Pencil Proはデジタルのキャンバスにブラシの表現力を呼び戻す


 新型iPad Proは、アクセサリーも進化している。別売りのMagic Keyboard(や他社製のBluetoothキーボード)を追加することでノートPCのように使ったり、Apple Pencilを追加して筆記具のように使ったりできるiPadシリーズだが、iPad Proはプロ用だけあって良質のキーボード、Magic Keyboardをオプションとして用意している。


 iPad Pro前モデル用のMagic Keyboard Folioは、肌触りの良い持ち歩きケースとしての特徴も備えており、キーボード全体をポリウレタン素材で覆っていた。


 これに対して新モデル用のMagic Keyboardは、アルミのフレームからキートップがのぞくMacのMagic Keyboardと同じ外観のキーボードを、ポリウレタンの外装で覆っただけのシンプルなスタイリングになっている。そのおかげか重量も軽くなっているようだ。あまり正確な重量計がなかったが、簡易な計測をしたところ旧モデルのMagic Keyboard Folio(12.9インチ用)が0.7kgだったのに対して、新しいMagic Keyboard(13インチ用)は0.65kgと表示された。


 Appleが公開しているスペックでは12.9インチと13インチモデルの本体重量にも100gの差があるので、キーボードを合わせた重量差は約600gとなり、これは携帯時の負担にも大きな差が出そうだ。


 ただし、素材に関しては注意が必要になる。Appleの販促用の写真では白モデルのキーボードのフレームが白く見えるが、実際には無垢(むく)のアルミ素材であり、アルミと白いキートップの2トーンで、閉じた際にも白いカバーの横にメタルの棒が飛び出たような外観になっている。


 反対側にApple Pencil Proも吸着して持ち歩く際には、すぐにペンシル位置の見分けがついて良さそうだが、前のMagic Keyboard Folioの全体が白で統一され、りんとした美しさが好きだった筆者としては個人的に少し寂しい。


 もっとも、新型Magic Keyboardは軽さ以外にも頑張っている部分がある。本体を軽量化しつつも14個のファンクションキーを追加しているのだ。画面の明るさ調整やミュート、おやすみモードといった操作に指を伸ばすだけでアクセスできるのは何ともありがたい。


 今回、衝撃を受けたアクセサリーがApple Pencil Proの登場だ。今や世界中のiPadユーザーが愛用しているApple Pencilは、まるで本物の鉛筆のような描き心地でプロの絵描きからも一定の評価を得ている。一方で2万円近い高価な製品だけに、紛失した時に見つけられる「探す」機能への対応はユーザーからも従来から要望があった。


 また、ペン側に触角のフィードバックをリクエストする声も見かけたことがある。しかし、それらに加えて、スクイーズとバレルロールという2つの操作が加わったことでデジタル手描き表現の新境地が開かれた印象を持っている。


 これまでのApple Pencilが、ボールペンのようなペン先の向きが関係のない筆記具だとしたら、Apple Pencil Proは、まるで絵画や習字で使う筆/ブラシのような表現を可能にする。


 ブラシでは多くの人が筆先が伸びる方向をうまく使って太い線と細い線を描き分けている。このブラシであれば、当たり前の筆先の回転に対応したのがApple Pencil Proだ。残念ながらApple Pencil Proの先っぽがブラシのように変形することはないが、2022年に追加された画面上にペン先の影を落とすホバーモード機能によって、今、ペン先がどのような向きになっているかを確認して太い線、細い線を描き分けることができる。


 これはiPadを使った手描き表現を大きく進歩させる画期的なアクセサリーと言えそうで、今後、このApple Pencil Proに対応した新世代の描画アプリが出てくることで、さらに大きな広がりが生まれそうだ。


 またスクイーズ機能も良い。スクイーズとはペン先を強く握る操作のことで、実行するとペン先にクリック感を感じた後に、iPad画面上にペン先や色を選べるパレットが円弧を描いて表示される。これまでは自分の描いた作品の上に、常にこうしたパレットを表示しておく必要があった。


 スクイーズ操作に対応したアプリが増えれば、Apple Pencil Proを使用している間は画面を自分の作品だけの表示にして、必要な時だけパレットを表示することが可能になる。2万1800円と通常のApple Pencil(第2世代)と比べて8000円も高いのが残念だが、探す機能も含めていずれは値下げをしてApple Pencil Proがスタンダートになることを期待したい。


 ちなみにApple Pencil Proは、M4チップ搭載の新型iPad Proだけでなく、M2チップ搭載の新型iPad Airでも使うことができる。


●iPad AirはProと標準iPadの間でどのようにバランスを取ったのか?


 iPad Airは、業務品質のディスプレイや周辺機器は不要だが、それでもある程度のパフォーマンスは欲しいというバランス重視の人のためのiPadだ。ただし、値下げで4万円の価格差が生まれた標準iPad(第10世代)との比較もかなり気になるポイントだ。


 3種類のiPadの一番大きな違いはプロセッサだ。iPad Proは既に述べたように、未来が楽しみなM4チップを装備する一方、iPad AirはiPad Proの前モデルが採用していたM2チップを搭載している。そして標準iPadは、これまでのiPadでスタンダードだったAシリーズのプロセッサ、A14 Bionicを備える。


 3モデルのもう1つの大きな違いは、ディスプレイ性能だろう。いや、ディスプレイの大きさの違いもある。標準iPadは10.9インチのモデルしかないが、iPad Airでは従来の11インチに加えて新たに13インチモデルが選べるようになった。iPad Proはもともと、11インチと12.9インチの2サイズが用意されていた。


 画面の性能も異なっていて、iPad Proのディスプレイは既に述べたように業務モニターに近い品質を実現している。


iPad Airのディスプレイは最大輝度が600ニト(13インチモデル/11インチモデルでは500ニト)で1000ニトのiPad Proほど明るくはない。また、明暗のコントラストが大きいXDRの表示にも対応していない。


 標準iPadはこのiPad Airのディスプレイと基本同じものだが、反射防止コーティングなどが省かれており、色の表現もPCで一般的なsRGBという基準に沿っている(それでも普通の人は十分満足できるきれいな表示を楽しめる)。


 他にiPad Proは、ディスプレイや高速な外付けSSDが接続できるThunderbolt端子となっているが、iPad Airは普通のUSB Type-C端子で使える周辺機器となり、スピーカーもiPad Proが4基のスピーカーで4基のスタジオ品質のマイクを備えているのに対して、iPad Air以下は横向きに構えた時だけステレオになる2スピーカーシステムになっていたり、顔認証のFace IDではなく指紋認証のTouch IDになっていたりという違いがある。こうしたことを残念に思う人たちは、少し頑張ってiPad Proを選んだ方が良い。


 では標準iPadではなく4万円多く払って、iPad Airを選ぶべき人はどんな人たちだろうか。


 まず13インチの大きな画面を選びたい人は、iPad Airを必然的に選ぶことになる。それから高速なM2チップを必要としている人もiPad Airを選ぶことになる。ビデオ編集をする人には絶対にM2搭載のiPad Airの方がオススメだし、グラフィカルなゲームを楽しみたい人にもAirをお勧めしたい。


 他にも、Wi-Fi 6Eの無線LAN(標準iPadはWi-Fi 6)やカメラ性能が少しだけ良いこともiPad Airの魅力だが、標準iPadとiPad Airの一番大きな差は512GBや1TBの大容量モデルが選べることと、最新のApple Pencil Proが使えることだと筆者は考えている。


 単に動画の再生や電子書籍の閲覧、メールやWebのチェックやノートを取るためだけであれば標準の第10世代iPadで十分だ。


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