自然光に観葉植物……「自然を取り入れたオフィス」がはやる、納得の理由

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2024年05月14日 08:30  ITmedia ビジネスオンライン

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(提供:ゲッティイメージズ)

 皆さんのオフィスに、観葉植物はあるだろうか。何気なく置かれているかもしれないが、そこには深い理由が存在する。本コラムでは、観葉植物を置くことで期待される効果や、「公園のようなオフィス」を構築すべき理由について解説する。


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 本記事のテーマは、「自然への愛」だ。「総務向けの連載で、いきなり何のことだ」と思われるかもしれないが、お付き合いいただきたい。


 「バイオフィリア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。社会生物学者のE・O・ウィルソンが提唱した概念で、著書『バイオフィリア: 人間と生物の絆』では下記のように説明されている。


 人間が自然や他の生物に抱く愛着は、生物多様性に富んだ自然環境の中で進化することにより生み出された生得的な性質。生物としてのヒトの遺伝子に組み込まれている可能性がある。人間は進化の過程で、生存のために利益をもたらしてくれた生物に対して肯定的な情動反応、行動が起こるように適応進化し、その反応は現在の人間にも残っている。


 つまり、われわれは生まれながら、人類の生存に利益をもたらしてきた生物に対して好感を抱いており、それが遺伝子に組み込まれている可能性がある、ということだ。人間は、本能的に自然とのつながりを求める。


 歴史を振り返ると、ホモサピエンスが東アフリカで誕生したのが、約20万年前。約6万年前から、その他の地域に進出し、人口の建造物に住みだしたのは、約2万年だ。人間はその長い歴史のほとんどの時間を、自然の中で暮らしてきた。「サバンナ仮説」というものを紹介したい。


 人類は、祖先が一番長い間生息し、進化を続けたアフリカのサバンナのような環境を好む。人類の誕生以来、樹木は植物の供給源や避難所であったため、人間はサバンナ特有の樹冠が横広がりの樹形を好み、植物景観に治癒効果を示す──というものだ。


 公園の大きな木の下に人が集まるのは、この理由だと納得できる。


●バイオフィリアをオフィス構築に活用するには


 こうしたバイオフィリアをオフィス構築に活用するためには、観葉植物の設置の他、どのような要素が考えられるだろうか。


 バイオフィリアを実現するオフィスを、バイオフィリックデザインという。その構成要素を、効果が高いものから並べると、以下のようになる。


・自然光


・観葉植物


・静かな就労環境


・海の見える眺望


・明るい色(緑、青、茶色 ナチュラルカラー)


 まず検討したいのは、自然光の採り込みだ。オフィス内の蛍光灯の明かりではなく、窓から降り注ぐ自然光を体感できるオフィスが良い、というのだ。つまり、窓際のスペースである。


 島形のオフィスが主流だった時代、窓際を陣取るのは部門長だった。しかし、今多くのオフィスで見られるのは、ハイカウンターを設置してのソロワークスペース、あるいはミーティングスペースだ。成果を上げるためのスペースとして位置付けられている。


 採光のみならず、オフィス内の明かりが、サーカディアンリズム(概日リズム)に合わせて調整されている事例も増えてきた。昼間は白色、夕方は暖色系の明かりに変化するというものだ。時の経過を体感でき、より自然環境に身を置いている状態に近づける。


 次に観葉植物、室内にグリーンを配置することが効果が高いと言われている。ただ、たくさん置けば良い、というものでもない。というのも、環境変化が少ない居室内に配置できるグリーンは制限される。亜熱帯地方に生えている、日本では普段見られない、肉厚の葉の大きな植物となってしまう。日本人にはなじみの薄いそうした植物がオフィス内に多数配置されると、どうしても違和感、圧迫感を感じてしまう。ある外資系の日本法人が、数多く設置してしまい、日本人社員が不調を訴えたという事例もある。


 このためグリーンを配置する際には、緑視率という概念を用いて調整する。目の前に見える緑色の割合で、その最適解は10〜15%とされる。とにかく置けば良いというものではないのだ。


 また近頃は、木目調の什器を目にすることがある。木目調も含めた木を置くに当たっても、木視率という概念がある。30〜40%でリラックス、45〜50%で気持ちが積極的になると言われているので、これも意識して配置したい。


 海の見える眺望は都心ではなかなか難しいが、地方であれば検討の余地はあるかもしれない。淡路島に移転したパソナホールディングスのオフィスを何度か取材したが、窓の下がそのまま海というオフィスもあった。そこにはハイカウンターのソロワークスペースを設置していて、社員のお気に入りのスペースとなっていた。


 その他、自然音をオフィス内に流す企業も多い。足元からは小川のせせらぎ、上からは鳥のさえずりが聞こえてくる。その会社の発祥の地の森の音を流している事例もある。香りをたく会社もあるが、個人の好みが分かれる分野であるため、反応を観察して導入する必要があるだろう。


 自然そのものではないが、通常より暗くした空間に、人工的に焚火を模したスペースを作っている企業もある。キャンプファイアのようなそのスペースで1on1を行うと、本音が出やすいとのことだ。


 ユニークな事例としては、受付に池を配置した企業もある。上から水滴が定期的に落ちて、水面に波紋ができる。訪問した人は、しばしその波紋に見とれてしまう。公園のような効果を狙っている。


 ロバートソン・クーパー社が発行した「ヒューマンスペース・グローバル・レポート」によれば、オフィスにバイオフィリックデザインを取り入れると、幸福度が15%、生産性が6%、創造性が15%向上する。多くの企業が取り組んでいる、生産性を高めるためのDXに匹敵するような効果を期待できるのだ。オフィス環境の改善に、バイオフィリアの考え方を活用してみてほしい。


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