高級腕時計900本分、損害は20億円!? 被害者が明かす「私がトケマッチを利用した理由」

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2024年05月14日 17:10  週プレNEWS

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太田さんがトケマッチに預けたきり未返却のロレックス・エクスプローラー。現在も転売市場での高騰が続いている


高級腕時計シェアリングサービス「トケマッチ」を運営していたネオリバース社が、突然、業務の終了と解散を発表してから3カ月あまりが経過した。

同サービスは、所有者から預かった腕時計を第三者に貸出し、徴収したレンタル料の約半額を所有者に支払うという預託商法だった。ところが、受け取るべき預託使用料が支払われないどころか、貸し出した腕時計さえ返却されていないという被害を訴える所有者が続出したのだ。

【写真】国際指名手配されているトケマッチの代表

警視庁捜査2課は3月、同社元代表の小湊敬済こと福原敬済容疑者と、元社員の永田大輔容疑者に対し、業務上横領容疑の逮捕状を取得。2人はすでにアラブ首長国連邦に向けて出国していたことから、国際指名手配している。全国の警察はこれまでに、計200件以上の被害届を受理されており、総額20億円相当の約900本が未返却となっている。


ただ当初、警察はこの事件を刑事事件として取り扱うことに難色を示していたという。大手紙の警視庁担当記者が明かす。

「預託使用料の未払いや『腕時計の返還要求に応じてくれない』といった被害相談は、昨年秋ごろにすでに全国の警察に寄せられていた。ところが警察は当初『民事上のトラブル』として不介入の立場を取り、被害届の受理や本格的な捜査に難色を示していた。

しかし、今年1月末にトケマッチの業務終了と運営会社の解散が一方的に発表されたことで、被害の訴えが全国で激増。さらに、業務終了の直前に『年末年始キャンペーン』と称して、腕時計の確保に地価を入れていたことや、預け入れた腕時計の一部を所有者に無断で売却していることなどから悪質性が認められたことなどから、全国の警察もようやく重い腰を上げたという経緯。

結果、全国の警察はこれまでに、総額20億円にのぼる約900本の腕時計の未返却について、200件以上の被害届を受理している」(警視庁担当記者)

■こんな美味しい話はない

その届け出のうちの1件は、都内在住の太田慶太郎さん(仮名・49歳)が提出したものだ。太田さんが、トケマッチ事件に巻き込まれた経緯について明かす。 

「新品で購入して1年ちょっと未使用のまま保管していたロレックスのエクスプローラーをトケマッチに預けたのが2023年5月のことです。トケマッチについてはネット記事で取り上げられていたことで知り、興味本位で『仮査定』をしたところ、時計を貸し出せば毎月1万4900円の預託使用料を受け取れることがわかりました。

しかも、紛失や破損の場合も全額保証される。こんな美味しい話はないと思い、すぐに本査定を経て預託を開始しました」(太田さん)

その後、5ヶ月ほどは毎月末に預託使用料が太田さんの銀行口座に振り込まれていたという。しかし10月から振り込みが滞るようになる。

「10月末に振り込みがなく、すぐにトケマッチに問い合わせをしたところ、『早急に対応します』と言われ、その言葉通りに11月の中頃には無事振り込まれました。振り込み遅滞の理由については、システムエラーと説明されました。

しかし11月末にも振り込みもなく、問い合わせをしても『確認する』と返答されたまま、その後、連絡も振り込みもなかった。12月には解約と返還の手続きをしましたが、返答がないまま1月末のサービス終了を迎えた。

その後、運営会社の代表らに逮捕状が出たことを知り、私も警察に被害届を出しました。私の時計はいまだ帰ってきておらず、その行方も杳としてわかりません」(太田さん)


事実上、腕時計を騙し取られたに等しい太田さんの被害は、気の毒というしかない。しかし、太田さんはなぜ購入後、未使用のまま大事に保管していたロレックスを、見ず知らずの人に貸し出す選択をしたのだろうか。

「私はそもそも時計に興味はなく、預託した時計も転売目的で購入したものです。2022年春ごろ、百貨店の外商を通じて当時の定価793,100円で購入したのです。

ただ、ロレックスは製造数が限られており、百貨店の外商顧客などでない限り、定価で購入することは至難の技で、その時点で転売市場での実勢価格は90万円を超えていました。つまり、定価で購入してすぐに転売すれば、それだけで20万円の利益を得ることができた」(太田さん)

ちなみに外商とは、コンスタントに高額消費をしている一部の顧客に対し、個別に商品の販売を行うサービスだ。その対象となる外商顧客は高級時計や高級種など、入手困難な希少品や限定販売品を優先的に購入できることもある。

■トケマッチ利用の一員となった「制約」

一方で、外商との取引には制約もある。

「定価と転売市場の相場に差があるような高額商品を購入する場合、『転売はお控えください』と釘を刺されることがある。ロレックスについては特に厳しく、百貨店と『5年間は転売しない』という念書にサインをさせられていました。

ロレックスは転売行為に目を光らせており、転売市場への流出率が高い販売店には、人気モデルの在庫をまわしてくれなくなるなど、ペナルティが科される。念書はそれを防ぐためのようです。

ロレックスの正規店は、オーバーホールなどのメンテナンスの際に、時計に刻印されているシリアルナンバーを必ずチェックするので、転売の事実はやがて把握される。もちろん、念書に法的な強制力はないのですが、その百貨店の外商とは良い付き合いを続けたかったため、5年を待ってから転売するつもりでした」(太田さん)

ただ、そんな太田さんの決心もやがて揺るぎ始める。

「1年ちょっと手元で保管しているうちに、転売市場での相場はさらに高騰し、100万円を超えるまでになっていました。しかし、どう考えても価格は上がりすぎです。高級時計の市場を支えてきた中国の経済に不透明感が漂っていたこともあり、早く現金化したほうがいいという思いが募りました」(太田さん)

そうしたなか目にしたのが、前述のとおりトケマッチに関するネット記事だった。

「これなら転売することなく、カネに変えることができると思いました。残りの転売禁止期間である3年半、毎月1万4900円の預託使用料を受け取れるとすれば、総額62万円以上が手に入る。その後、転売する際には中古品になってしまいますが、それでも預託使用料と合計すれば、未使用品の売却額以上になる。そう皮算用したのが間違いの元だった......」(太田さん)

現在、複数の被害者と情報交換をしているという太田さんによると、彼と同じように、転売禁止期間中の収入獲得のために、トケマッチにロレックスを預託していたという所有者は少なくないという。

被害者の損害は回復されるべきだが、トケマッチ事件の背景には、限られた供給量に需要が集中する、高級品市場のいびつさが存在しているといえよう。

文/吉井透 写真/ネオリバース社HP、太田慶太郎さん提供

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