Next GIGAで学習用端末のOSシェアが大きく変わる? PCメーカーやプラットフォーマーの動き【後編】

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2024年05月23日 19:01  ITmedia PC USER

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2021年7月時点における公立学校の学習用端末のOS別シェア。以前に伝えた暫定値からは大きく変わらず、ChromeOSがトップシェアで、残りをWindowsとiOS(iPadOS)が二分している状況だ(文部科学省資料より抜粋)

 2019年から始まった「GIGAスクール構想」で導入された学習用端末の置き換えが、2024年度から順次始まる。そのことに備えて、文部科学省は2023年度補正予算において、2025年度までに必要な予算措置を行った。この置き換えでは、端末の要件が一部変更された他、公立学校における端末の調達(購入/リース導入)について、原則として都道府県が市町村/特別区(※1)と共同(一括)で行うことを求めている。


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(※1)複数の市町村が「一部事務組合」を通して学校を設置している場合は、その一部事務組合も含む(以下同様)


 新しい学習用端末の調達がどのように行われるかは、都道府県が設置する「共同調達会議」によって決められる。市町村/特別区が従来使っていた端末(OS)の流れをくんで“現状維持”できるように要件が定められる可能性がある一方で、議論の行方によっては都道府県内で端末(OS)が“統一”される可能性もある。


 そのこともあってか、学習用端末のメーカーや、OSを供給するプラットフォーマーは「EDIX東京 2024」を始めとする展示会や、自社主催のイベントなどでアピール合戦を繰り広げている。この記事では、次世代のGIGAスクール構想「Next GIGA」における端末メーカーやOSの動きを見ていこう。


●学習用端末の「共同調達」の流れ


 端末メーカーやOSの動きを見る前に、都道府県における共同調達会議の流れを簡単に説明する。


 公立学校におけるNext GIGA向けの学習用端末の調達は、原則として都道府県が市町村/特別区と共同で行うことになっている。これは主に共同調達によるスケールメリットを追求するためだ。都道府県による共同調達は、基本的に以下の流れで進められる。


1. 「共同調達会議」を立ち上げ・全ての市町村/特別区は、この会議に参加する必要がある


2. 市町村/特別区にする需要調査を実施・「必要な端末数」「希望するOS」「付与したいオプション」などを調べる


3. 共通仕様書を作成・「調達する端末の仕様」「付けるオプション」の内容を都道府県内でまとめる・独自に端末など調達したい市町村/特別区は、共同調達から離脱可能


4. 仕様書に基づいて調達の公告を実施・端末の調達については「購入」でも「リース」でも構わない


5. 公告への応諾者(入札者)の審査を実施


6. 落札業者を決定し、契約を締結


 上記にもある通り、市町村/特別区は共同調達から離脱できる。ただし、以下のいずれかの条件に当てはまる場合のみとなり、前編でも触れた通り共同調達会議からの離脱はできない。


・文部科学省が提示する「最低スペック基準」や、都道府県の仕様書を“上回る”スペックの端末を調達したい場合


・学習課程単位での離脱も可能(※2)


都道府県の仕様書を“下回る”スペックの端末を導入したい場合


・ただし、文部科学省の最低スペック基準は満たす必要がある


政令指定都市、またはそれと同等の人口規模の市町村


・人口が50万人以上の「市」であれば、人口を理由とした離脱が可能(※3)


(2024年度限り)上記に関わらず、離脱せざるを得ない事情がある場合


・2024年度中に新しい学習用端末の運用を開始する場合を想定


都道府県が実施する調達契約が「特定調達契約」(※4)に該当する場合


調達年度において、あるOSを使う端末を“唯一”導入することになった場合


・基本的に、都道府県の仕様書で複数OSの選択肢を用意した場合に備えた条件


・年度内に“唯一”端末を新規調達する自治体となった場合も該当


(※2)例えば「小学校課程では『都道府県の仕様書通りの端末』を導入し、中学校課程では『仕様書よりも高スペックの端末』を導入する」という市町村/特別区は、中学校課程のみ共同調達から離脱する(小学校課程の分のみ参加する)ことができる(※3)地方自治法では、政令指定都市の要件を「人口50万人以上」としている。これだけの人口があれば、共同調達に参加しなくてもスケールメリットを生かせるため、オプトアウトを許容したものと思われる(※4)「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」の第4条に定める調達契約


 なお、オプトアウトする際の窓口も都道府県が設けることになるが、共同調達会議を窓口とすることも可能だ。


●共同調達の原則化で学習用端末のシェアはどうなる?


 公立学校における学習用端末端末は、都道府県単位での共同調達を基本とする――先述の通り、それは学習用端末(OS)のシェアが一気に変動する可能性があるということでもある。


 文部科学省によると、公立小中学校(※4)における学習用端末のOS別シェアは、2021年7月時点で以下の通りとなっている。


・ChromeOS:40.0%


・Windows:30.9%


・iOS(iPadOS):29.1%


・その他(macOSやAndroid OSなど):0.1%


(※4)義務教育学校(小学校と中学校を統合した学校)、中等教育学校(中学校と高等学校を統合した学校)の前期課程、特別支援学校の小学部/中学部を含む


 ざっくりいうと、現状ではChromebook(ChromeOS)がシェアトップで、残りをWindows PCとiPadで二分している状況だ。


 一方、端末のメーカー別シェアはどうなっているのか。MM総研が2021年1月から2023年5月にかけて行った電話アンケート調査によると、OS別でのシェア上位3社は以下のようになったという。


・ChromeOS


・1位:NEC(NECパーソナルコンピュータ):30%


・2位:Lenovo(レノボ・ジャパン):23%


・3位:HP(日本HP):14%


Windows


・1位:Lenovo:26%


・2位:Dynabook:22%


・3位:富士通:22%


 iPadOSは、Apple“のみ”が使えるOSなので「OSのシェア=メーカーのシェア」が成り立つ。そのため、メーカー別シェアでいうとAppleがダントツの首位で、その次にNECレノボ・ジャパングループ(2位にレノボ・ジャパン、3位にNECパーソナルコンピュータ)が付ける、という構図だ。


 Windows PCに絞ると、学習用端末としてChromebookをリリースしていなかったDynabook(※5)と、富士通(※6)が、そこそこ大きな存在感を示していることも分かる。このことは、少しだけ見方を変えるとChromebookがあれば、Dynabookと富士通は商機を増やせたかもしれない。


(※5)現行の学習用Chromebookは、親会社のシャープが「Dynabook Chromebook C1」として発売している (※6)関連会社の富士通クライアントコンピューティングは、コンシューマー向けに「FMV Chromebook 14F」を発売した


 このことを踏まえて、昨今のプラットフォーマーや端末(PCメーカー)の動きを見ていこう。


●OSプラットフォーマーの動き


 まず、Next GIGAを見据えたプラットフォーマーの動きを“端末”に絞って見ていこう。


Google:OSシェアトップを維持すべく日本独自の取り組みを強化


 学習用端末向けOSにおいて、ChromeOSはトップシェアを誇る。その提供元であるGoogleは、Chromebookをより普及させるべく、「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表した。


 このパッケージは、自社のWebサービス「Google Workspace for Education」、Chromebookの管理用ライセンスに利用状況ダッシュボードサービスを付帯した「Google GIGA License」、これらの運用開始や利活用をサポートする「Google for Education GIGA サポート」を一括して提供する。


 Google Workspace for Education自体は、全世界の教育機関向けに提供されている。だが、名前からも察しの通り、Google GIGA LicenseとGoogle for Education GIGA サポートは日本独自の取り組みだ。


 また、ChromeOS(Chromebook)の起動の速さとアップデートのしやすさ、CBT(Computer-based Test:コンピュータ上で行う試験)への対応のしやすさ、そして「ChromeOS Flex」による既存PCの移行など、既にWindows PCを導入している自治体を意識したアピールに余念がない。


日本マイクロソフト:端末の快適さ向上をアピール


 ChromeOSに次ぐシェアを獲得しているWindowsだが、先のGoogleのアピールにもある通り「起動が遅い」「アップデートに時間が掛かる」という大きな問題を抱えている。事実、端末のリプレースを早く開始した自治体の中には、これらのデメリットを重く見てChromebook(とChromeOS Flex)に移行したという所もある。


 そのことを意識してか、日本マイクロソフトは端末の要件が変更されたことで、Next GIGA端末ではこれらのデメリットを解消できるとアピールしている。


 前編でも触れた通り、Windowsを搭載する学習用端末では、新規導入分から原則として必要メモリが4GBから8GBに“倍増”された。搭載されるストレージの容量は64GB以上ということで変わりないが、時間の経過を受けて速度的に問題のないUFSまたはSSDを採用するモデルも出てきているので、初代GIGAスクール向け端末のような“重さ”からは解放されそうだ。


 問題は端末の価格だが、日本マイクロソフトが「GIGA Advanced パソコン」と呼ぶ8GBメモリ/64GBストレージの構成でも、補助の基準上限額である「5万5000円」に収まるモデルを複数用意しているという。


 一応、Webブラウザでの作業を前提とする自治体に向けた「GIGA Basic パソコン」(4GBメモリ/64GBストレージ)も用意されてはいるものの、この使い方ではWindowsであるメリットが薄い(≒ChromeOSでも差し支えない)ため、基本的にはGIGA Advanced パソコンを推奨していく流れになるものと思われる。


Apple:iPad(第10世代)を値下げ


 iPadを擁するAppleは、Googleや日本マイクロソフトとは異なり、Next GIGAに向けた働きかけを“直接的に”行うことは少ない。EDIX東京 2024でも自社ブースは出展せず、パートナー企業がブースを構えた……のだが、同社のリズ・アンダーソン氏(教育マーケティング部門 ディレクター)が来日し、基調講演を行っている。


 また、iPad(第10世代)を価格改定するなど、今後も学習用端末としてiPadを導入しやすくなる取り組みを行っている。


 ただ、この値下げは本体のみが対象となる上、学割を適用しても1台当たり5万4800円からとなる。Next GIGAの要件を満たすためにキーボードやペン(Apple Pencilなど)を追加すると、補助金の基準上限額に収めることは困難だ。もちろん、大量導入に伴うボリュームディスカウントも効くのだが、ChromebookやWindows PCと比べると価格が大きなネックとなることは間違いない。


 そのこともあってか、代理店は先代の「iPad(第9世代)」を主軸に据えたキット、あるいは第9世代と第10世代を組み合わせたキットを用意した上で、リース契約や旧端末の下取りを組み合わせた導入プランを提案している。


 価格は高いものの、操作のしやすさ/分かりやすさや、教育に対する効果が高い――このような切り口で、Appleは教育市場に切り込んでいくことになりそうだ。


 ここまではプラットフォーマーの動きを見てきたが、Windows PCやChromebookを販売するメーカーの動きもチェックしてみよう。


●端末(PC)メーカーは「Chromebook」シフト?


 先述の通り、初代のGIGAスクール構想向けの学習用端末では、Chromebookのシェアがトップに立っている。そのこともあってか昨今、PCメーカーは学習用端末としてChromebookに傾注する傾向が見られる。


 EDIX東京 2024のブース出展においてGoogleとのコラボレーションが多かったことや、今までChromebookを手掛けてこなかった(あるいは直接発売していなかった)メーカーが参入してきたことは、ある意味でその証左といえる。


 飛ぶ鳥を落とす勢いともいえるChromebookだが、そんなChromebookにも“ちょっとした”変化が見受けられる。


 従来、学習用ChromebookはIntel(またはAMD)のCPUを搭載するモデルが主流だったのだが、Qualcommの「Snapdragon 7c」やMediaTekの「Kompanio 520」といったArmベースのSoCを搭載するモデルが増えている。Chromebookの場合、あらゆる操作をWebブラウザ(Google Chrome)の上で行う前提なので、Windows PCとは異なりCPU(アーキテクチャ)への依存をあまり考慮しなくてもよい。


 円安などに起因する昨今のPC価格の高騰を踏まえて、少しでも手頃に端末を導入するための方策として、ArmベースのChromebookを導入する自治体も増えるのだろうか。OSシェアの争いと並ぶ注目ポイントだ。


 学習用端末にまつわる取材をしていると、全体的にはChromebookの勢いが一層増しているように感じる。日本専用の管理用ライセンスを導入したり、ChromeOS FlexによるWindows PC/MacのChromebook化を提案したりと、Googleの活動は思っている以上にアグレッシブだ。


 一方、日本マイクロソフトは「Microsoft 365」や「Copilot」を軸にWindows環境であることに優位性を訴えている。学習用端末で「できること」を突き詰めると、ChromebookよりもWindows PCの方が良いとも考えられるので、そこに不満を覚えているChromebook(またはiPad)を使っている自治体をどれだけ引っ張り込めるかが焦点となるだろう。


 そしてAppleは独自の戦いを繰り広げているようにも見える。iPadは、日本でシェアの高いiPhone(iOS)と似た操作感を備えているので、iPhoneに慣れた子どもは操作しやすく、やはりiPhoneに慣れ親しんだ教職員や保護者も操作を手伝いやすいというメリットがある。ただし、拡張性の面では他OS(特にWindows)にはかなわない上、汎用(はんよう)クラウドツールはGoogleか日本マイクロソフトに頼らざるを得ないという弱点もある。


 学習用端末を導入するに当たって、何を優先するのか――都道府県(と市町村/特別区)の判断に注目が集まる。現状のシェアはどう変わっていくのか、楽しみである。


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