深刻な「従業員へのセクハラ問題」企業で対策進む "声かけ"男性が「出禁解除」求め提訴も

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2024年07月27日 08:30  弁護士ドットコム

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小売やサービス業におけるカスハラが問題視される中で、従業員が客からの「セクハラ行為」に苦しめられている状況が明らかになってきた。


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接客中に卑猥な言葉を投げかけられたり、従業員の名札に記載された情報からメールアドレスを探り当てて連絡を送りつけられたりするなど、精神的な苦痛を感じるケースが生じているという。



専門家は、「セクハラ」が重大な性犯罪事件に繋がる危険性を指摘する。企業側は従業員を守る姿勢を明確にするとともに、あまりに悪質な場合は警察や弁護士などに頼るべきと強調した。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)



●名札の名前が変わると「結婚したの?」 尻や胸を指差し「触っちゃお」

「勝手に写真を撮られたり、テーブルに行く度に腕を触られたり、常連さんだと思って話しかけたら腰に手を回されたりした」 「名前からメールアドレスを特定し、何件もメールを送られた。電話をしてきても毎回指名で、かつ1回の電話が長い」



これらは、産業別労働組合UAゼンセンが6月5日に公表したカスハラの実態調査(2024年1月〜3月実施)に寄せられた声だ。この調査では「最も印象に残っている顧客からの迷惑行為」として、セクハラ行為と答えた人が573人(3.7%)にのぼり、前回2020年調査の350人(2.3%)から1.4ポイント増加する結果となった。



弁護士ドットコムの法律相談にも、男性客からのセクハラ行為に「本当に気持ちが悪く、精神的にもつらい」と悩む女性従業員の話が寄せられている。



男性客はレジで対応する従業員らの尻や胸を指して「触っちゃおうかな」と言って来るという。また、本名を知られたくないと考え、名札の姓を偽名に変えたところ、「結婚したの?」と私生活の情報にまで踏み込まれたそうだ。



●「女性店員に挨拶しただけだ」マクドナルドに出禁解除を求め…男性客が提訴

先日、ある裁判の判決があった。



行きつけだったファーストフードチェーンの店舗から「出禁」とされたと主張する東京都在住の男性が、入店許可を求めて裁判を起こし、却下されたのだ。



判決文などによると、男性は「こんにちは」と声をかけただけで入店拒否されるのは違憲・違法であるなどと主張したが、5月の東京地裁判決は訴えを却下した。



弁護士ドットコムニュースの取材に、男性は「近所の店舗に週に5〜6日通っていた」と話す。ある若い女性従業員に店の外などで声をかけたところ、店側から「出禁」にされたという。名前は名札に書かれていたと説明した。



警察沙汰にはなっていないと答えていた男性だったが、質問を重ねると、交番に連れて行かれたことを認めた。(日本マクドナルドは取材に「本件と推測される案件は把握しておりますが、お客様とクルー保護の観点から詳細な回答は差し控えさせていただきます」と回答した)



日本マクドナルドによれば、マクドナルドの店舗の従業員(クルー)は基本的に名札をつけて働いているという。本名だけでなく、希望すれば偽名(ビジネスネーム)も選択可能か尋ねたところ、「店舗ごとに様々な事情を考慮のうえ運用しています」とした。



カスハラへの対策をめぐっては、同社は次のように答えた。



「当社では常にお客様の店舗体験や従業員の安全を第一に考え、従業員向けのガイドラインをアップデートしております」



●航空会社が「セクハラ」にNO。従業員守る姿勢が企業に求められる

客によるセクハラ行為から従業員を守るためにはどうすればよいか。飲食業を手がける元検事の中村浩士弁護士は「カスハラの中でも、従業員へのセクハラ行為は、生命・心身への重大な危険を与えかねない重大なリスク事象と捉えるべきです。従業員の安全配慮義務を負う企業は、その予防策と発生時の対応体制を整備しておく必要があります」と指摘する。



中村弁護士によれば、企業には次のような対応が求められる。



・防犯カメラの設置(問題行動が生じた際の録音・録画の証拠保存の検討) ・セクハラ被害の回避方法と被害に遭った場合の対処方法に関する研修の実施、及び従業員への周知・徹底 ・従業員からの相談窓口の設置、調査のための体制マニュアルの策定 ・被害従業員のメンタルケア体制の確立と、必要に応じた部署移動など人事上の配慮



「『セクハラ』の中には、性犯罪やストーカー行為として刑事罰に該当する重大な行為も含まれています。行為の程度に応じて、重大な被害結果を招く前に速やかに、警察と被害者支援に詳しい弁護士に相談する危機意識を持っておくことも重要です」(中村弁護士)



カスハラ対策への企業の動きも進む。ANAグループとJALグループは6月28日、「カスタマーハラスメントに対する方針」の共同策定を発表した。この中で、はっきりと「セクハラ」をカスハラとして盛り込み、盗撮、わいせつな行為・発言、つきまといなどを具体的に示している。




【取材協力弁護士】
中村 浩士(なかむら・ひろし)弁護士
刑事弁護及び犯罪被害者支援のほか、一般企業法務を数多く手掛ける検事出身の弁護士。 札幌弁護士会・犯罪被害者支援委員会元委員長、日本弁護士連合会・犯罪被害者支援委員会元委員、利酒師、ワインコーディネーター、上席フードアドバイザー。
事務所名:弁護士法人シティ総合法律事務所
事務所URL:https://city-lawoffice.com/


このニュースに関するつぶやき

  • 従業員へのセクハラは、カスハラと違って故意にやってる(カスハラは企業側に非があることも。過剰要求など線引きが難しい部分もある)ため、一切の容赦は不要。
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