世界の中心でクイを食べる〜キト(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

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2024年07月27日 08:50  週プレNEWS

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エクアドルといえばバナナ

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第58話

コロナ禍が始まって以降、初めてのアメリカ出張。ラテンアメリカ・エクアドルまで足を伸ばし、G2P-Japanで共同研究した研究者を訪ねることにした。

* * *

【写真】エクアドルのスープ、ロクロ

■ラテンアメリカ・エクアドルへ

2023年10月、カリフォルニア州で開催される研究集会に参加するために、ひさしぶりにアメリカに出張することになった。コロナ禍が始まって以降、初めての訪米である。

せっかくの機会なので、ラテンアメリカ(南米)まで少し足を伸ばすことにした。2020年春の新型コロナ研究処女作(38話)や、G2P-Japanのラムダ株とミュー株の研究(45話)で連携したことがある、パウル・カルデナス(Paúl Cárdenas)に会うためである。

パウルとは、2021年のミュー株の研究(45話)がひと段落した後も折々にやりとりを続けていて、新型コロナだけではなく、いろいろなウイルスの共同研究の可能性について、メールで議論を重ねていた。それがある程度煮詰まってきたところもあるし、対面で話を詰めるにはちょうど良い頃合いだと考えた訳である。

パウルは、エクアドルの首都・キトという街にある、サンフランシスコ・デ・キト大学というところに在籍している。私にとって、初めてのラテンアメリカである。

■片道27時間(!)、キトに到着

出発の数日前くらいから、ぽつぽつと準備を始める。どこで外貨両替をしよう? というかそもそも、エクアドルの通貨ってなんだろう? そう思ってネットで調べてみると、なんとエクアドルでは、アメリカドルが使われていた。

これまでの出張旅行記からもおわかりかと思うが、私は訪れた国や街の食べ物を食すことを、海外出張の楽しみのひとつにしている。これもネットで調べてみる。......ロクロ、トストーネ、カングレホ、アロス・コン・ポジョ、チフレ、セビーチェ、そして、クイ。セビーチェくらいは聞いたことがあるようなないような?、くらいの、名前からはほとんどイメージが湧かない料理ばかり。とりあえず料理の名前だけメモしておく。

考えてみれば、エクアドルという国について、予備知識がほとんどないことに気づいた。思いつくところとしては、バナナと、ガラパゴス諸島と、一昨年(2022年)のサッカーW杯で日本と引き分けた国であるということ。スペイン語を話す。それと、国の名前が「赤道(equator)」に由来することから、おそらく赤道直下にある国なのだろう、ということくらい。そして、ネットでぽつぽつと調べてみると、「とりあえず治安悪い」みたいな情報が散見されるではないか。

......まあとりあえず、着けばなんとかなるだろう、と深く考えずに出発したのだが、飛行機に乗ったあたりから、漠然とした不安が芽生え始める。

ちゃんと考えてみるとこれは、「行ったこともない地球の裏側の国の、行ったこともない(しかも治安も悪いらしい)街に、会ったこともない人を訪ねに行くひとり旅」である。一昨年(2022年)の南アフリカ出張(15話)も不安はあったが、このときの研究集会にはたくさんの知り合いが参加していた。

エクアドル・キトまでは、深夜便のロングフライト2連発。羽田発の深夜便で13時間かけてアメリカ・ニューヨークのJFK空港へ。そこで乗り継ぎし、やはり深夜便で7時間かけて早朝に到着、である。乗り継ぎや待ち時間も含めると、自宅を出てから27時間を要した。

アメリカは、他国への乗り継ぎ便の場合であっても、入国審査をパスする必要がある。

入国審査官(以下、入)「何をしにアメリカに来たんだ?」
私「ビジネス(仕事)だ(キリッ)。すぐに乗り継いでエクアドルに行く(スマートにチケットを見せる)」
入「何をしにエクアドルに行くんだ?」
私「(面倒くさいな......)友達に会うためだ」
入「?? ビジネスじゃないのか?」
私「(し、しまった)ビ、ビジネスの友達、みたいな......」
入「??? どうやって知り合ったんだ?」
私「ネ、ネットで知り合って、一緒にビジネスを始めた友達、みたいな......」
入「???? (意味わからんけど、すぐにエクアドル行くんならまあどうでもいいか)」
――という、なんともしどろもどろな形で、4年ぶりにアメリカに入国した。

エクアドルのキトへは、「アビアンカ航空」という聞き慣れない航空会社の飛行機で向かう。そのチェックインカウンターに集まるのはおそらく中南米の人たちばかりで、その集団に紛れるのは、なんとなく不思議な、初めての感覚であった。彼らはみな(おそらく)スペイン語を話しているが、どことなく人なつっこい感じがある。アミーゴ、セニョール、の連呼である。

早朝に、キトのマリスカル・スクレ国際空港に到着。着陸に成功すると、機内からは拍手が沸いた。おそらくこちらはそういう文化なのだろう。

寝ぼけ眼で送迎タクシーに乗り、ホテルに到着。早朝すぎてまだチェックインできないので、荷物を預けて周囲を散策してみる。Google Mapsで近くにエクアドル料理屋を見つけたので、そこでさっそく「ロクロ」というエクアドルの郷土スープを食べてみる。これがすごくおいしい! これまでのコラムの出張旅行記でも紹介したことがある、私の「旅のお供」たるフォー・ボー(21話)に匹敵する、ほっとする味。

食文化もよくわからないラテンアメリカ。調べても味の想像がつかない知らない料理ばかりで、食べ物には正直一抹の不安を覚えていたが、これでさっそく「食に困ったらロクロ作戦」が確立する(しかし結局、これ以降、ロクロのお世話になることは一度もなかった)。

ロクロに満足してホテルに戻ると、気を利かせてくれて、かなり早めにチェックインすることができた。部屋に荷物を置き、ゆっくりとシャワーを浴び、ひと息をつく。

――さて、いよいよ、キトである。

※中編はこちらから

文・写真/佐藤 佳

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