「ライバルはムー?」バイク雑誌の顔した“サブカル旅本” 『モトツーリング』神田英俊編集長に聞く編集論

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2024年08月22日 13:01  リアルサウンド

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『モトツーリング』の神田英俊編集長。バイク好きに愛読されているのかと思いきや、多くの歴史愛好家やオカルト好きからも評価の高い異色の雑誌だ。

■とにかくクセが強いバイク雑誌


 編集部員が全国を走り回って作る、ちょっとおバカでとことん役立つ”元祖"雑記帳的バイクツーリング専門誌――。そう標榜するのが、内外出版社から刊行されている「モトツーリング」である。


(参考:【写真】え!? バイク雑誌なのにUFO? オカルトや歴史、旅行グルメ好きにも人気の熱量たっぷりな誌面を見る


  オートバイ雑誌や旅行雑誌は数あれど、「モトツーリング」ほど、独特でインパクトのある誌面を作っている雑誌は他にないだろう。温泉巡りなどの王道な旅行が特集されたと思いきや、UFOが表紙に描かれた“日本不思議探訪ワンダートリップ”など、どう見ても“某オカルト雑誌”では……と思わせる企画もある。


  こうした個性的(すぎる)誌面が、従来のバイク雑誌や旅行雑誌では満足できない読者から熱い持を集める要因になっているのだ。そんな唯一無二の雑誌を送り出す神田英俊編集長にインタビュー。雑誌を作り続ける原動力から、今後の紙メディアとネットメディアの在り方まで、示唆に富んだ話を聞いた。


■コンセプトは“旅のサブカル本”


――「モトツーリング」はオートバイと旅行を扱う雑誌でありながら、サブカル雑誌として取り上げられることもある異色の存在です。現在の読者層を知りたいです。


神田:読者の年齢層はおそらくご高齢の方が多いと思います。オートバイの購入者層と変わらないのかな、と。性別はほぼ男性がメインです。温泉の特集などを組むと、バイクに乗っていない幅広い層からの問い合わせもあったりしますね。また、弊誌はコロナ禍の影響は割と少なくて、むしろコロナ禍真っ只中のほうが需要は高まっていました。


――雑誌の歴史は、2010年に「ヤングマシン」の別冊として創刊されたことに始まるそうですね。


神田:当初は季刊でしたが、2017年の13号から隔月刊になりました。僕はもともと別の出版社でとあるツーリング専門誌の広告営業をしていました。ところが、色々あって雑誌が休刊してしまったんです。。そんなとき、内外出版社の広告営業の酒井正樹さんから話があって、こんな雑誌をやれないかと話し合いを重ね、出版することになったのが「モトツーリング」です。


――神田さんは広告営業をやりながら、編集経験はあったのでしょうか。


神田:いえ、編集業務は未経験でしたね。ただ、広告営業ではプロデューサー的な立場でもあったので、経験を活かせばなんとかなるんじゃないかなと思って始めました。当初の企画書はオートバイに特化したものではなく、旅全体に焦点をあてたものでした。ただ、マネタイズという意味で、何か雑誌の柱になるものがあったほうがいいということで、オートバイに特化した誌面に“表面上”はしていこうと決めたのです。


――編集コンセプトはどう決めたのですか。


旅のサブカル情報が満載の創刊当時の誌面。食情報や旅コラムなどが誌面いっぱいに細かく記載されている。読者は情報量の渦に飲み込まれていく。見ているだけでもお腹いっぱいの熱量溢れる誌面は現在もさして変わらない。


神田:ずばり、“旅のサブカル本”です(笑)。あと、先ほど特集によってはオートバイを持っていない人も買い求めることがあるとお話しましたが、オートバイに関心がない人でも読んで楽しめる誌面にしています。取り上げる目的地は公共交通機関で行っても楽しめるものを選んでいます。


■地図とにらめっこして面白い場所を探す


――神田さんが“クセありB級ツーリング専門誌”と自ら語っておられるように、個性的すぎる特集が魅力的です。例えばオカルト的なネタも見られますが、これは神田さんの趣味なのでしょうか。


神田:完全に僕の趣味ですね(笑)。弊誌があの有名なオカルト雑誌「ムー」と違うのは、「人類が2000年に滅亡する」のようなパワーワードがなく、純粋な旅行記になっていること。もちろん、妄想も入っていますけれどね。以前、諏訪地方で大昔に大戦争があったという記事を作成したことがあります。現在も残っている神社や地形を、神話や古伝承と照らし合わせながら構成しました。


――マニアックなスポットの情報は、どのように集めているのでしょうか。


神田:ネットから情報を集めることもありますが、普段から地図とにらめっこして、面白そうな場所がないか探すんです。地図を眺めていると、ここには昔、道があったんだろうな……と見えてくるんですよ。また、宿場町や休憩所など、残された文化財や地域の風俗を調べていくと何らかの痕跡が見つかったりして、いろいろな仮説が浮かび上がります。ここから記事の軸になるストーリーが生まれてくるわけです。盛大な妄想を語ることもありますが、綿密にそのバックボーンを調べて記事を作り上げています。


――妄想力だけでなく、想像力も重要ですし、何より歴史に対する造詣の深さも求められるわけですね。地図以外にも参考にする文献などはありますか。


神田:その土地に伝わる民話や伝承なども参考にしていますね。ただ、あまりにコアにやってしまうといけないので、バランスが難しいのですが。本当はもっと書きたいなと思うほどなのですが、なにぶん文字数の制限もありますからね(笑)。


――そして、実際に編集部のみなさんも足を延ばしているのが、魅力的な誌面に繋がっていると思います。


神田:そうですね。おおまかな企画のベクトルを僕が指示しますが、編集部員はそれぞれのセンスで企画を考え、現地に行って写真を撮ってきます。前職時代の上司が、編集やライターをやっている例もあります。何しろ編集長経験があるライターですし、同じ社で働いていましたからお互いの空気感がわかっている。長年の信頼関係があるので、ふわっと投げてもいいものができあがってくるんですよ。


■デジタル全盛のなか、雑誌の強みはどこにある


――ネットメディアもある中で、雑誌ならではの強みはどう考えているのでしょうか。


神田:100年経っても変わらないことを言うと、雑誌は非常に素晴らしいガジェットだということです。何しろ電源がいらないガジェットですから、どんな状況下でも見ることができるわけでしょう。また、紙の強みは信用度の高さです。100%ではありませんが、個人のWEBコンテンツとチームプレイで組織的に制作する雑誌を比較すると、取材力や組織的バックボーンの影響で紙メディアの信憑性が高いケースも多い場合があります。発刊上の責任もありますしね。正しい情報を綿密に取材し、適切な形で届けるという面ではこの雑誌の強みは未だ健在なんじゃないかと思います。


――神田さんの紙に対する情熱を感じますね。


神田:紙は好きですし、紙じゃないとできないことを常に模索していますよ。かといってWEBメディアを否定するわけではなく、むしろウェルカム。お互いの良いところを伸ばして、お互いに高め合えるようなことができればいいと思います。


――まさに理想的な関係ですね。


神田:それに、ネットの検索機能もまだまだ不完全なのです。上位にあがってくるものはAIで抽出していると思うのですが、例えば「東京」「美味しいラーメン」などで検索すると、割といい加減な情報が出てくるじゃないですか(笑)。ましてや、かなり突っ込んだ「クラッチ・オートバイ」「分解方法」などで検索すると、とたんにとんでもない情報が出てくる。他人が書いた記事を丸パクリしているミラーサイトもたくさんあります。


――お話いただいたことは、未だにネットが抱えている問題です。


神田:そして、ネットで検索しても出てこないようなオリジナリティのあるネタを考え、構築していくことも求められると思います。ちなみに、弊誌が勝手に道路の名前を付けたりすると、何かのメディアにその名前で出たりするんですよね(笑)。


■今後も編集方針を変えることはない


――マニアックな名所を、オートバイで旅行する醍醐味はどんな点にあるのでしょうか。


神田:オートバイは他の交通手段と比べて、移動そのものがアミューズメントになる乗り物です。オートバイで体感できる最たるものは、気温や湿度でしょう。標高が高くなっていくと気温が下がり、峠を下るとどんどん熱くなっていく、これはクルマで移動していては味わえないと思います。


――おっしゃる通りですね。


神田:そして、ライダーはオートバイに乗っている自分に酔っているわけですよ。ミラーに映っている自分をかっこいいと思っている(笑)。だから乗っていること自体が喜びだし、すれ違うライダー同士であいさつする文化もあったりして、全世代を通じて非日常感を味わえる乗り物だと思います。


――今まで作った特集で、特に印象に残っているものはなんですか。


神田:巻頭特集はすべて自信作です。なかでも反響が大きかったのは、先ほどお話した諏訪の特集でしょうか。長野県の辰野町には大きな断層があるのですが、この地で、諏訪を統治していた守矢氏と、出雲大社の大黒主命の息子であるタケミナカタとの大戦争があったという説をまとめたのです。この地には戦の痕跡が神社跡として残されており、さらに現在は辰野市街となっている場所にあった古辰野湖と大きな関係があったのではないかという内容です。現実とファンタジーを織り交ぜた構成が良かったのか、とある学会内でで発表される学術論文に、記事と画像を引用したいと言われたほどです。


――反響の大きい記事を生み出せるのは、創刊の頃から編集方針がぶれないことも大きいと思います。


神田:そうですね。だから、今後も編集方針を変えることはありません。もしかすると、オートバイのみではなく他のモビリティも含めた内容となる可能性もあるかもしれませんが、旅のサブカル本としての位置づけは絶対に変わる事はありません。移動手段は、時世に合わせてフレキシブルに考えても良いのかなと思います。


■オートバイに乗らない人にも読んで欲しい


――キャッチーな表紙やコピーからも、神田さんの編集者としてのこだわりを感じます。
UFOが飛んでいる、バイク雑誌。こんな雑誌は他にはない。とにかく中面は、徹頭徹尾、本気の面白さが詰まっている。


神田:表紙を見たときに、特集の内容が1秒以内にわかるように心がけています。これを見せたいというポイントを、読者にわかりやすく届けたい。あと、有名なスポットでも位置を変えて写真を撮ったら、まったく別の風景が見えたりしますよね。王道でも見方が変わると面白いということを、現地に赴いているからこそ誌面で伝えたいと思っています。ちなみに、絶景特集を組んだとき、現地に行ってみたら絶景よりも人の多さが気になった場所があって、「その絶景、本当に絶景?」という記事を作ったこともあります(笑)。


――読者にとって役立つ本質的な情報ですね。


神田:あとは、自分が買いたくなる雑誌をつくる、というのが一番ですね。読みたくなるではなく、買いたくなる本です。あとは、それほど大層な題目は考えていないんですよね。


――神田さんの個性が爆発している「モト ツーリング」は、むしろオートバイに乗っていない人にこそ手に取ってもらいたいですね。


神田:そうですね。僕も、オートバイに乗らない人にもっと読んでほしいと思います(笑)。僕がこの雑誌で伝えたいことは、日本にはまだまだミステリーや謎がたくさんあるということ。雑誌はぶっちゃけ買わなくていいので、まずは書店で手に取っていただき、立ち読みして、こういう世界もあるということを知っていただければありがたいです。そして何か刺さるポイントがあったら、そのままレジに持っていってくれたら嬉しいですね。


(文=山内貴範)



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