テクノロジーだけに頼らず人の力を使う! TOKIUMの導入企業数がうなぎ登りなワケ

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2024年08月29日 12:31  ITmedia PC USER

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ITmedia PC USER

歌舞伎座(東京都中央区)のそばにあるTOKIUM本社で黒崎賢一 代表取締役にお話を伺った (「崎」は正しくは「立」となります)

ポストコロナ時代に入ったが、世界情勢の不安定化や続く円安など業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。前編の記事はこちら。


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 TOKIUMの黒崎賢一氏は、「TOKIUMは、ソフトウェアの会社ではない」と断言する。「SaaSをやっている企業ではなく、SaaSもやっている企業」と定義し、「ソフトウェアの力だけでなく、そこにハードウェアや人の力を組み合わせてオペレーションの強さを生かし、SaaSだけでは解けない課題を解決する企業」と位置づける。


 そして目指している企業の姿は、「時間メーカー」だという。その狙いは何か。インタビュー後編では、TOKIUMの強みを改めて深堀りするとともに、同社が目指す将来の姿や、「時間メーカー」としての企業像などについて、黒崎氏に聞いた。


●泥臭く“最適な”テクノロジーでスマートな体験を提供する


―― TOKIUMのビジネスは、請求書や領収書などのペーパーレス化が軸になっていますが、単にデジタル化を推進するという手法とは異なっていますね。


黒崎 当社の製品を導入している企業の多くは大手企業であり、社内ではペーパーレス化が進んでいます。しかし取引先の状況を見ると、まだ紙が多く使われているのが実態です。


 例えば大手不動産デベロッパーは、社内のペーパーレス化は推進できていても、取引先となる地場の工務店などでは、紙で請求書が発行されているといった具合です。今のDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れですと、工務店にデジタル化を強要するといったことが行われていますが、TOKIUMを活用することで、そのつなぎの部分は当社が担うので、これまでのままでいいですよという提案が可能になります。


 SaaSを導入する際には社内オペレーションを一新したり、多くの社員にトレーニングをしたりといったことが起きます。しかし、当社に丸投げしてもらえれば、これまでのやり方を変えずに、デジタル化やペーパーレス化ができます。お客さまの目的はデジタル化そのものではなく、働きやすくなって業務の効率性を高めることです。デジタル化などの内側の部分は当社が担当するというのが、私たちの提案です。


 TOKIUMが課題を解決するために活用するのは、最新テクノロジーではなくて最適なテクノロジーです。解けない課題があれば、昔ながらのやり方でやればいいと思っていますし、人の力で解決することが最適であるのならば、人の力を利用します。


 そこに無理やりAIやOCRを持ち込む必要はありません。課題が解くことが最優先であり、そのためには、泥くさい仕事もやりますし、面倒な仕事も請け負います。それが当社の特徴です。


―― TOKIUMのアプリの強みについて教えてください。


黒崎 スマホアプリは全て自社で開発しています。スマホアプリを使って、請求書の支払い申請を行えるサービスは、TOKIUM以外にはありません。また、スマホアプリを利用して経費精算ができるサービスも国内では数が少なく、そのうちの1つとなっています。


 支払い申請の手続きを迷わずに行えるようにするために、申請のボタンを押すだけで、システム側でこれは交通費の手続きであるのか、交際費の手続きであるかを自動認識し、それにのっとったワークフローで処理が進むようになっています。これもTOKIUMだけが提供する唯一の機能です。


 そして、これらのアプリをB2Cクオリティーで提供できる点も大きな強みだといえます。B2Bアプリでありながら、申請が終了すると画面の中で、紙吹雪が舞ったり、ニコニコマークが表示できたりするのはTOKIUMだけです。面倒な申請業務を楽しく行ってもらうための工夫です。


 さらに、レシートをスマホで撮影した後に、税区分や支払先入力なども全て完了した状態でデータ化してお客さまに戻すまでに、24時間365日の平均値で10分以内を実現しています。これを2000人以上のオペレーターが、ダブルエントリー方式でデータ化していますので、ほぼ100%という高い精度でデータ化することができます。


 オペレーターは、セキュアな環境で利用できる当社独自の専用エントリーシステムを用いており、データベースから逆引きして入力するといったことも可能で、短時間で正しくデータ化できる仕組みが構築されています。


 月末に営業マンがヘトヘトになっていても、スマホで領収書を撮影するだけで、10分後には全てデータ化されて、申請ボタンを押すだけで作業が完了します。こういった体験を提供できるのはTOKIUMだけです。今後は、OCRなどを活用することで精度を維持しながら、人力で行う部分を半減することも考えています。


●デジタル企業ではなくトランスフォーメーションを支援する会社だ


―― TOKIUMは導入支援や運用支援に力を注いでいますね。


黒崎 多くのSaaS導入や運用に共通している課題は、専門知識を持った人がいる企業は利用しやすいのですが、デジタルにあまり詳しくない人ばかりの企業だと、効果が最大限に発揮されなかったり、あるいはだんだん使われなくなってしまったりということが起きがちであるという点です。


 一律に提供されるマニュアルだけが配られて、それを読んでやってほしいというSaaSが多いこともその一因となっています。企業ごとに困り事は違うため、本来は、そこにフォーカスした対応が必要です。


 また、忙しい経理部門の人たちが、全社員に向けて使い方を指導するといったことも現実的には不可能です。TOKIUMは導入支援や運用支援に力を注いでいますから、その部分も当社に任せてもらえば済みます。当社の社員が直接支援することも可能です。


―― 新たなサービスとして、2024年6月から「TOKIUM契約管理」の提供を開始しました。この狙いは何ですか。


黒崎 TOKIUM契約管理は、電子帳簿保存法の要件を満たした上で、締結済みの契約書の管理に特化したクラウド契約書管理サービスです。紙の契約書はTOKIUMに郵送するだけでスキャンを代行し、取引先名や契約期間などの契約内容を、GPT-4oが自動で抽出し、データ化します。そして、紙の契約書そのものは、TOKIUMが保管します。


 もともと、契約書の管理は支出を最適化するという観点から行うべきであるという課題意識を持っていました。経理部門の人たちに聞くと、請求書の金額はなぜその金額なのか、来月もこの請求書が発生するのかということが分からないことが多く、それを営業部門の担当者に確認するといった作業がよく発生しています。


 しかし、その作業は時間と工数をかなり無駄にしています。また、請求書の内容は、契約書を見れば理解できるのですが、経理部門には契約書が保管されておらず、請求書と契約書をひもづける作業も煩雑となっています。こういったことに悩んでいる企業が多く、そこに当社が貢献できると考えました。


 大手企業からは、グループ全体の契約書を預けたいという商談もいただいています。契約管理業務の効率化だけでなく、企業のガバナンス強化を実現し、契約内容を元にしたコスト削減の取り組みにもつなげることができます。


 この2年間でTOKIUMのユーザーは1500社増加し、現在、2500社が当社の製品を利用しています。上場企業は250社以上ですが、規模や業種を問わず幅広く利用していただいています。


 新たなお客さまに対してTOKIUM契約管理を切り口にした提案を行う一方で、既存のお客さまにも積極的に提案をしていきたいと思っています。2500社のうち、TOKIUM経費精算と「TOKIUMインボイス」の両方を利用しているお客さまは約50%です。そうしたお客さまに、3つめの製品としてTOKIUM契約管理を併用していただくことで、複数の製品を利用するお客さまを増やしていきたいですね。


―― インボイス制度の施行や電帳法改正も追い風になっていますか。


黒崎 インボイス制度の施行だけでなく、コロナ禍で働き方が変化したこと、ペーパーレス化に対する動きが加速していること、2024年10月1日から郵便料金が値上がりするといった要素も組み合わさって、TOKIUMを導入する機運が高まっているのは確かです。


 ただ、インボイス制度では、領収書に記載されたインボイス発行事業者の登録番号の扱いなどによって現場の業務が増えていますし、電帳法の改正も現場のニーズに合わせてどんどんいい方向には向かっているものの、それに合わせた対応が追いつかないという課題もあり、ベンダー任せにしたいといった動きが見られています。


 今はデジタル化やペーパーレス化に向けた過渡期であり、そこでは当然ながら課題も生まれます。現場の作業が増えるといったことも起こるでしょう。これが落ち着くまでに5年ぐらいかかるかもしれませんね。とはいえ、ここにも当社のビジネスチャンスがあると思っています。


 インボイス制度も電帳法も、ペーパーレス化やデジタル化する際にも課題があったり、作業が面倒だと思ったりしたら、それらは全てTOKIUMに任せてください、TOKIUMが過渡期のエラーは全て吸収しますという気持ちで、サービスを提案していくつもりです。


 制度が改正されて現場がスムーズに動くようになったら、TOKIUMのサービスを解約すればいいわけです。そのときには、また別の課題が生まれているかもしれませんし、きっと、そこにも当社は新たなサービスを提供することになるでしょう。


 日本の企業はDXが遅れていると言われ、デジタル(D)には関心が高いが、トランスフォーメーション(X)がうまく行っていないとも言われます。その点では、当社はデジタル化を支援する会社というよりも、トランスフォーメーションを支援する会社だといえるかもしれません。


―― TOKIUMは、ソフトウェアを提供するデジタル企業ではないと。


黒崎 純粋なテクノロジーカンパニーやデジタルカンパニーではないですね。SaaS「も」やっている企業という感じでしょうか(笑)。ソフトウェアの力だけでなく、そこにハードウェアや人の力も組み合わせてオペレーションの強さを生かし、SaaSだけでは解けない課題を解決することができます。当社が大手企業に選ばれる理由はそこにありますと思っています。


●支出管理プラットフォームに市民権を そして「時間メーカー」に


―― TOKIUMが必要とする社員はどんな人ですか。


黒崎 現在、当社の正社員は約200人ですが、面接のときには私が全員に会っています。ですから社員のことは全員知っています。当社が必要としている社員の特性は、仲間思いであること、自分で解決する力を持っていることの2点です。


 私は企業がサービスを終了する理由として最も多いことは、競合に負けるというよりも、仲間割れが原因で終了せざるを得なくなったケースだと思っています。これは、ビジネスだけに留まりません。世界や日本の過去の歴史のあらゆる出来事が、仲間割れでおかしくなってしまうといったことが繰り返されてきました。


 ですから、当社では仲間意識を持ち、長期的視点で仕事をしたいと考えている人を採用したいと思っています。そして、自分で解決する力を持っていることも大切です。私たちがやっている仕事の多くが、これまでに経験をしたことがないものばかりです。新しいことに挑戦しなくてはならない環境にありますから、降りかかってくる課題を自分で解決し、乗り越えていかなくてはなりません。


―― 今後、TOKIUMはどんな会社にしたいと考えていますか。


黒崎 今後数年の目標は、支出管理プラットフォームを完成させて、会計ソフトや営業管理ソフトと同じ市民権を持つカテゴリーに育てることです。企業が成長したら、会計ソフトや営業管理ソフトに加えて、支出管理プラットフォームを入れないと経営が成り立たない。そのスタンダードになりたいと思っています。


 また、働く人がTOKIUMのIDを持ち、経費精算や請求書手続きといった日々の業務を行うことでデータが蓄積されますから、将来的にはそのデータを活用することで、TOKIUMに問いかければ答えが返ってきたり、アドバイスをくれたりといった環境も構築したいですね。


 契約書を元に、サプライチェーンに参加している企業の平均値よりも高い契約内容になっているものを抽出し、そこからコスト削減の余地があることを提案したり、ネットでの風評が悪い場合には調達先を複線化した方が事業リスクを減らせたりといった提案により、経営支援もできるようになります。


 さらに、データに基づいた取引先とのコスト削減交渉などは、TOKIUMが代行して行うといったサービスが提供できるかもしれません。面倒な仕事は全てTOKIUMがやりますという提案がここでも可能になります。先進のテクノロジーだけに頼らず、人の力を使うところにTOKIUMの特徴があり、ビジネスチャンスがあります。


 ペーパーレス化がますます進んでいけば、TOKIUMが今行っている領収書をスキャンして、紙の原本を保管するという仕事はなくなるでしょう。しかし、新たな困りごとが出てくることは明らかです。そこに当社のビジネスチャンスがあります。


―― 黒崎社長が描いているTOKIUMの将来の姿を教えてください。


黒崎 自動車メーカーや家電メーカー、食品メーカーという言い方がありますが、当社は、日本初の「時間メーカー」だと言われたいですね。祖業としては、支出管理プラットフォームを社会インフラとして普及させた会社だが、それを作った仲間たちが次のチャレンジとして、全く別のアプローチで豊かな時間を生むための事業を行い、時間メーカーという観点から見ると節操がなく、手段を選ばずにソフトウェアもハードウェアも人の力も活用しながら、さまざまなことに取り組む会社になりたいと思っています。


 「時間をたくさん生んでくれる会社だな」と言われたいですね。目指しているのは、時価総額で2兆円以上の企業です。日本には100社程度しかありません。60歳までにそれを達成するならば、あと20年ありますから、その目標に向けてがんばります(笑)。



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