【あの人は今】スカッシュ松井千夏は47歳の現役選手「4年後のロサンゼルス五輪に出るためには...」

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2024年09月10日 10:10  webスポルティーバ

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「あの人は今」スカッシュプレーヤー
松井千夏インタビュー前編

「松井千夏」という名前を覚えている人も、スポーツファンなら少なくないだろう。

 四方を壁に囲まれたコートのなかでボールを打ち合う、ロサンゼルス五輪の正式種目に決まった「スカッシュ」の全日本チャンピオンに4度に輝いた名選手だ。

 2000年代の初頭には、テレビや雑誌などに「美人アスリート」として多数出演。あれから十数年を経て、どんな女性になっているのか。スカッシュを世に広めた「あの人」を訪ねてみた。

◆スカッシュ松井千夏「今昔」フォトギャラリー>>

   ※   ※   ※   ※   ※

── テレビや雑誌などの取材は何年ぶりでしょうか?

「30代後半まではちょろちょろと年間、数回あったと思いますが、おそらく10年ぶりくらいでしょうか(苦笑)」

── 2000年代に日本一に4度輝き、当時はスカッシュといえば「松井千夏」でしたよね。

「もうそんなの、はるか昔の話ですよ! どこのテレビや雑誌に出たのかもほとんど忘れちゃいましたよ!」

── 昨年10月、IOC(国際オリンピック連盟)総会で野球・ソフトボール、クリケット、ラクロス、フラッグフットボールとともに、2028年のロサンゼルス五輪からスカッシュがオリンピック競技に決まりました。

「発表の日、日本時間の15時くらいに決まると聞いていたのですが、インターネットの配信をずっと見ていても、なかなか決まらなかったんです。だから息子のために夕食を作っていたら、その間に決まりました(笑)。

 スカッシュがオリンピック競技に決まった瞬間は、私もうれしかったけど、周りの人がすごく喜んでくれて......。いろいろと連絡をいただき、それに返信してと、その日はすごくバタバタしていた感じでした」

── スカッシュはロンドン、リオデジャネイロ、そして東京でも選ばれる可能性がありましたが、惜しくも正式競技に決まりませんでした。47歳の今も現役を続けられているそうですが、もっと早く決まっていたらオリンピックに出られたのでは......という悔しさはありませんか?

「やっぱりオリンピックに出たかったといえば出たかったですが、出場できなかったことを悔やんでも自分では何もできなかったですし、どうしようもないですから......。自分が競技から離れていた状態で知るよりも、それでもあきらめずに現役でプレーを続けて、スカッシュがオリンピック競技に選ばれた瞬間を喜べたということが、すごくうれしかったですね!」

【エジプトでスカッシュは国技レベルの人気】

── 特に東京オリンピックでは、正式競技に決まってほしかったのでは?

「そうですね。東京でスカッシュが種目に選ばれていれば、開催国枠で日本人選手が多く出られる可能性もありましたでしょうし......。リオもダメでしたし、毎回ギリギリで(選ばれず)悔しかったです。ただ、ロサンゼルスでスカッシュが正式競技に選ばれたのは今までの積み重ねがあってのことなので、地道に活動してきたことは無駄ではなかったと思いますね」

── スカッシュは世界185カ国で2000万人がプレーしていると言われています。その発祥地であるイギリスをはじめ、ヨーロッパやアジア、そしてエジプトを筆頭とする中東でも人気があります。正式競技に選ばれたのも、その人気が広がっているからでしょうか。

「そうかもしれませんね。現在、男女ともにエジプト人選手が世界ランキング1位で、世界ランク10位以内にも4人ほどエジプト人選手が入っています。『スカッシュは国技』と言われているみたいですよ。日本の相撲みたいな感覚のようです」

── 日本人の女子選手にも強い選手がいますね。

「渡邉聡美選手(25歳)ですね。彼女はスカッシュを始めた頃、私が拠点としていた北新横浜にある施設『SQ-CUBE(エスキューブ)』のジュニア育成スクールに入っていました。彼女は今、イギリスで練習していて、日本人選手として過去最高の世界ランキング13位。世界のトップ10やトップ5とも競った試合をしていて、自分ができなかったことをやっていてすばらしいと思います!」

── 松井選手は世界ランク、最高で何位くらいだったのですか?

「私の最高は50位ぐらい。だから渡邉選手の13位はとてもすごいことです。海外をベースにして、メンタルも強いし、実力もあります。4年後のロサンゼルス五輪に向けて、ひとつひとつ積み上げていってほしいですね」

── 松井選手は47歳となりましたが、再び本気でオリンピックを目指そうという気持ちにはならないですか?

「オリンピックに出るためには、日本国内の成績だけではなく、世界ランキングが必要になってきます。そのためには、国内で強化指定選手に選ばれないといけません。たぶん年齢制限もあるので、現実的には難しいかな......」

【オリンピックの正式競技になった影響】

── 松井選手は今、福岡・北九州市のスペースワールド駅近くに昨年オープンした施設「THE SQUASH(ザ スカッシュ)」で指導・普及活動をしながら選手を続けています。スカッシュがオリンピックの正式競技になった影響を地元でも感じますか?

「福岡市にはいくつかスカッシュコートがありますが、北九州市にはなく、スカッシュを知らない方がたくさんいました。新しくコートができたことによって、スカッシュを広めるチャンスがあると思っています。今回、オリンピックの正式競技になった影響で『ここでもスカッシュができるんだ!』という認知につながるので、とってもやりがいがあると思っています」

── スカッシュはマイナースポーツであるがゆえに、普及の難しさもありますか?

「そうですね。これまでスカッシュコートはスポーツクラブにしかなくて、時代とともにコート数も減って、ヨガスタジオや卓球スペースに代わったりしていました。ただ、今はスカッシュの専門施設を建設する流れが生まれてきたので、そこに集まってくるスカッシュをやりたい人は団結力があって、心からスカッシュを楽しんでくださっていると感じています」

── あらためてスカッシュの魅力は?

「スカッシュは暑さや雨といった天候に左右されることなくプレーできるし、年齢や性別も関係なく楽しめるので、日本に合っているスポーツだと思います。競技としての魅力は、スピーディーで、頭も体も同時に使うところ。30年近くプレーしてきて、今も熱くなれる瞬間がたくさんあります。うれしさや悔しさなどの感情を瞬間、瞬間で味わえるところが、すごく魅力的だと思います」

(後編につづく)

◆松井千夏・後編>>「美人アスリートと言われるのは、正直ちょっと嫌でした」
◆スカッシュ松井千夏「今昔」フォトギャラリー>>


【profile】
松井千夏(まつい・ちなつ)
1977年8月8日生まれ、神奈川県川崎市生まれ。中学時代はバレーボールで神奈川県選抜に選出され、バレーボールの名門・松蔭高校に進学。体育教師を目指して日本体育大学に進学した際、スカッシュと出会う。全日本学生選手権で団体・個人でタイトルを獲得し、卒業後は全日本スカッシュ選手権で優勝4度(2001年・2004年・2007年・2008年)。現在も現役を続けながらスカッシュの普及活動に尽力している。身長159cm。

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