有村智恵に聞く優勝争いのプレッシャーに打ち勝つ方法  メンタルが強い女子プロは?

0

2024年09月10日 18:20  webスポルティーバ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

【連載】有村智恵のCHIE TALK(第6回・後編)

過去の連載記事はコチラ

 有村プロが考える、メンタル最強の女子プロゴルファーとは? 前編から引き続き、ゴルフにおけるマインドセットについて、JLPGAツアー通算14勝の有村プロに話を聞いた。

>>前編:プレッシャーのかかる場面でのマインドセット 心を整えるためにすることは?

◆インタビュー完全版はこちらから

――ミスや緊張を受け入れることが大事だと仰っていましたが、プロゴルファーであれば、ミスも試合中に修正できてしまうものなのでしょうか。

 長年ゴルフをやってきた実感としては、2、3回同じようなミスが出た時は、試合中に、何かひとつのきっかけでいいショットが打てるようになるくらいまで調子が上がることは、ほぼないんですよね。「もう今日はこういう日」と思って割り切る方が早いし、「どうやったらまっすぐ飛ばせるだろう」と考え込むと、そのまま試合が終わっちゃうんですよ。

 自分の出球の傾向を、私はその日の朝の練習場で確認しているので「今日は結構右に出るな」ということがわかれば、最初からその想定でプレーしています。アマチュアの方は、ラウンド前に練習をしない方もいると思うのですが、その場合は1ホール目や2ホール目で、その日の自分の大体の出球を把握して、それをしっかり受け入れた上でマネジメントしていくのも大事かな、と思います。

 自分の中で「これはもう厳しいな」と思うのは、出球が左右にブレる時です。「右に曲がったな」と思った次のショットで、何も考えずに打っても左に曲がった場合は、相当調子も悪いので、その日のうちにショットを立て直すのは難しいですね。

【ショートゲームまで不調だと、もうどうしようもない】

――では、本当に調子が悪いと短期間での修正は難しいんですね。

 でも、自分の調子の悪さを受け入れるようになっていれば、"今の状態でどうスコアメイクをするか"に集中できます。たとえば、パッティングさえ入ってくれれば、パッティングを重点的に調整して、ショットは少し散らばっているけれど、次の日はどうにかパットでスコアメイクできたっていう経験もありました。

 パッティングは特に一番大事かな、と思います。ショットでどんなに大きなミスをしたとしても、ピンに寄せてから2、3メートルのパットが入れば、なんとかパーで上がれることも多いんです。特にプロのレベルだったら、グリーンの近くにさえ行けば、アプローチとパターでスコアは作れるので。

 そのショートゲームの調子が悪い時は、本当にもうどうしようもないな、と思います。ショットの不調だけであれば、ショートゲームでカバーはできます。

――先日、有村さんがこの連載でも言及されていたルーキーの政田夢乃選手が、NEC軽井沢72ゴルフトーナメントで最終ホールまで優勝争いを演じるも、18番ホールのミスで惜しくも初優勝を逃しました。初優勝というプレッシャーもあったと思うのですが、どんな印象を持たれましたか?

 ショットもキレていますし、パッティングもしっかり打てるタイプの選手だなと、特に(最終日の)17番ホールのパットを見て感じましたね。(17番ホールのバーディーで単独首位に立ちながらも、2打目をグリーン左横の池に落としてしまった)18番ホールの第2打は、「ちょっとクラブが深く入ったかな?」とは思うんですけど、それが緊張からのミスなのか......。でも、その後の(グリーンを捉えられなかった)リカバリーショットは、ちょっと緊張もあったのかもしれませんね。

 でも、彼女は今年たくさん試合に出ていたわけじゃないですよね。今はリランキング(※)でツアーに出ていると思うのですが、まだそんなにレギュラーツアーの試合数をこなせてないなかで、あそこの位置で戦う経験ができたのは、すごく大きいと思います。優勝を逃してしまったという悔しさ以上に、「自分も優勝できるかも」という気持ちを強く持てた試合になったんじゃないかな、とも思うんです。

※QTランキングに基づき付与されたJLPGAツアーの出場資格を、シーズン途中のリランキング基準競技終了後にメルセデス・ランキング上位順に並び替える制度

 「優勝できるかも」っていうレベルまで持っていって、その先を埋める方が圧倒的に時間は短く済む可能性が高いので、すでにそこのレベルまで持っていけている時点で手応えもあったでしょうし、私たちも彼女に対して「実力も伴っていて、攻めるプレーができる選手」という印象に変わりましたから、これからどんどん化けていってほしいですね。

【有村プロが考える、メンタル最強女子プロとは】

――政田選手のように、優勝争いを演じながらもあと一歩届かない、という時に考えることはありますか?

 優勝する時って、運の要素も大きいんです。私も、優勝した時と2位になった時で、ゴルフの内容に大きく差があったかって言われたら、そうでもなくて。「なんで今のが入ったんだろう」っていうパットが入ったりとか、ミスショットが「なんであんないいところに?」と思ってしまうほどのバーディーチャンスについていたり、ということが結構あったんですよね。

 強いて挙げるとすれば、自分が勝てない時期や、優勝争いをしながらも優勝を逃してしまった時などは、「勝負に勝つ練習」をしていましたね。たとえば、子どもと遊ぶ時も勝負をしたりするじゃないですか。何事も勝負だと思って、そういう時も絶対負けないし(笑)。練習ラウンドでも、キャディーさんとゲームをしたりしていました。このホールでバーディーを取ったら私の勝ち、取れなかったら罰ゲーム、みたいにゲーム性のある練習を通して、「勝つ経験値」をどんどん増やすことを意識していました。

――ちなみに、有村さんから見て「メンタルが強いな」と思う選手は?

 申ジエ選手と小祝さくら選手、ですね。私の場合、自分を強く見せていないとメンタルを保てないんです。普段の自分のままだと、絶対緊張に負けてしまうので、強い自分を演じていないと、(ゴルフも)崩れやすいって思ってしまうんですけど、ジエとかさくらちゃんは、試合中も普段と全然変わらない、常にリラックスしているように見えるじゃないですか。そういう選手って強いなって思うし、笑顔でずっとプレーできる選手ってやっぱりすごいなって思います。そういう選手は、一緒に回っていても嫌ですよね。「この人緊張してないんだ」って思っちゃって、プレッシャーにもなりますし、平然と強気に攻めている選手を見ると、「こんなに攻めてくるんだったら、こっちも攻めなきゃ」って気負っちゃいますよね。

 それでマインドを揺さぶられてしまうこともあるので、優勝争いをしている時は、私も攻め方は意識していました。「このパットをショートしたらダメかも」とか、「このショットをセーフティーに行ったら優勝できないぞ」っていう攻めの気持ちは、優勝争いならではの駆け引きというわけじゃないですけど、最終日最終組の全員で優勝を争っている時などは、持ち続けるようにしていました。

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定