サッカー日本代表のバーレーン戦勝利を「決めた」上田綺世の「ストライカーの流儀」

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2024年09月11日 14:01  webスポルティーバ

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 今シーズン、スペインではバルセロナが目覚ましい攻撃力で開幕4連勝を飾っている。

 バルサは、下部組織ラ・マシアから育った"ボールプレーに優れた選手"を数多く擁する。ラミン・ヤマルの技巧×スピードはほとんど超人的で、フェルミン・ロペス、マルク・カサド、マルク・ベルナルの戦術眼は出色。ダニ・オルモの技術は「魔術師」のレベルで、パウ・クバルシはセンターバックの域を超えたパス出しを見せる。

「スペクタクルの美学」

 それがバルサの土台にあるのは間違いない。

 しかし、最強の攻撃力を完結させるには、やはりストライカーが求められる。過去を振り返っても、フリスト・ストイチコフ、ロマーリオ、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、そしてルイス・スアレスなどを外から連れてきた。それはリオネル・メッシのような怪物がいた時代も変わらない。

 ストライカーは「育てられない」特別なポジションなのだ。

 現在、その仕事を担うのは、ポーランド代表ロベルト・レバンドフスキである。レバンドフスキは36歳で、かつての俊敏性や活動量はない。バルサの俊敏な選手たちと比べれば技量も劣る。しかし、ストライカーの嗅覚と経験は健在で、ここまで4得点を記録。たとえこぼれたボールでも、ゴールに叩き込むのは簡単ではない。"ゴールの異能"は周りが何かを補っても、生かすべきものなのだ。

 日本代表の上田綺世(26歳、フェイエノールト)は、バルサにおけるレバンドフスキと重なるところがあるかもしれない。

 9月10日、2026年W杯アジア最終予選のバーレーン戦で、上田は2得点を記録している。

 ひとつ目は先制点だった。レーザーポインターを顔に照射されながら、少しも動揺していない。任されたPKを豪快に決めた。ふたつ目は、後半立ち上がりだった。味方がつなげたボールに、最後は伊東純也のパスに少し下がりながらコントロールし、右足を振り抜いた。

 上田は「点を取る」という、最も単純で、最も難しい仕事をやり遂げている。ストライカーとしての剛毅さを身に纏う。その域に達している選手は多くはない。

【ゴール以外でも存在感】

 日本のように技量やスピードに優れ、コンビネーション力も高い選手を多く擁する場合、ストライカーを使わない0トップのような考え方も出る。ボールをつなげることだけを考えれば、「うまい選手」が都合よく思える。実際、鎌田大地、南野拓実がトップを務めたこともあった。

 ただし、0トップの成功例は少ない。なぜなら、対峙したセンターバックが「うまさ」には対応できてしまい、真の怖さを感じず、心身ともに擦りきれることがないからだ。

 上田は、決して「うまい」選手ではない。エレガントな足技や意外性のあるコンビネーションを得意とする選手ではないだろう。しかし、バーレーン戦も局面で「強さ」を示していた。相手のディフェンスは、体を合わせた時にやや力負けし、心理的ストレスを抱えていたに違いない。上田はその回数を重ね、相手守備を自らに引きつけ、やがて足を止めさせた。

 バーレーン戦、上田はゴール以外でも存在感を出していた。たとえばダメ押しの3点目。守田英正の縦パスを受けた上田は相手を背負いながら、外側に走り込んだ守田にリターンし、フリーでシュートを打たせている。上田のマークについていたのは右サイドバック(センターバックは逃げたに近かった)で、バックラインに絶望と混乱を呼び起こしていたのだ。

 上田が貪欲に論理的にゴールを狙う姿勢は、相手を脅かす。常にゴールを追求し、思考する。それこそ、ストライカーの資質だ。

「自分は頼られる存在でなければならないし、そのためには味方を頼れないといけない」

 以前のインタビュー、上田はストライカーの流儀をこう語っていた。

「お互いが信頼を得て、得られて、ストライカーは成り立つ。一匹狼はダメ。ましてや、僕なんて動き出しが武器で、いくら評価してもらっても、パサーがいないと生きない。自分のゴールは最後の1割、組み立ててくれる9割は別にある。他の選手が自分の色を発揮し、それを成功に終わらせるのが僕の役目。それが自分のなかでのストライカーだと思います」

 2023年6月以降、日本代表では14試合に出場し、12得点を記録。ストライカーにとって、ゴール数は何より雄弁である。仲間に頼られているし、仲間を頼れているのだろう。その関係性が、相手ディフェンスに緊張を走らせる。ストライカーは周りとの連係が欠かせないが、同じような「うまさ」でなくてもいいのだ。

「ゴール」

 そこに特化した異能をチームメイトと結びつけることができれば――。上田は日本サッカー史上最高のストライカーとなるだろう。

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