クルマのサブスク「KINTO」は黒字化が見えてきた? 現時点での課題とは

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2024年09月13日 11:30  マイナビニュース

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クルマのサブスクリプションサービス「KINTO」は累計契約者数が徐々に増えてきており、保有台数も増えたため「黒字化も見えてきた」という状況にあるそうだ。2023年には契約後のクルマを後からアップデートさせられる新たな取り組みも始まった。KINTOの現状は?


そもそもKINTOとは?



音楽や動画の配信サービスの拡大で、すっかり我々の生活にも定着してきたサブスクリプションだが、クルマの分野でいち早く始めたのがトヨタ自動車の「KINTO」だ。取り扱い車種にはトヨタ車、レクサス車に加え、先ごろスバルのクルマが加わった。



その特徴は、欲しいクルマをオンラインで契約し、一定の期間、定額料金で利用できるところ。定額料金には車両代、選択したオプション代、税金、任意保険、メンテンナンス費、購入諸費用のすべてが含まれているので、車両の維持費も明確となる。もちろん、納車やメンテンナンスは最寄りのディーラーで行われるので、ネット販売でも安心だ。ユニークなのは、契約満了時に車両の返却を必須としたこと。返却後の車両は、状態の良いものは中古車KINTOで活用する。



KINTOの新サービスとして、2023年1月に登場したのが進化するクルマ「KINTO Unlimited」(キントアンリミテッド)だ。新型「プリウス」から始まった新提案だが、少しずつ新たな取り組みが追加され、文字通り、購入した愛車の機能が高まることを実現させている。



KINTO Unlimitedもサブスクであることは共通だが、「進化」と「見守り」の機能を加えることで、クルマの価値をできるだけ高く維持するようにしている。その価値を月額利用料の引き下げにあらかじめ充てることで、よりリーズナブルなカーライフの実現を目指す。ユーザーにとって機能がプラスとなる上、さらに月額料金が下がるというのはちょっと驚きだ。


発売時に公表されたデータによれば、第1弾となる新型プリウスの専用グレード「U」とKINTOの先代プリウス同等価格のグレードを比較すると、3年間の月額定額料金の場合、Uが4万9,940円であるのに対し、旧型が5万6,650円で6,710円も安くなっていた。



もちろん、新型プリウスの他グレードよりも安価なのはいうまでもない。そのお買い得感もあって、新型プリウスのUグレードは、KINTO契約の全車種の中で20%を超えるシェアを持つほどの人気車となっている。



その成功を受けKINTOでは、2024年1月からKINTO Unlimitedの専用グレード「U」をコンパクトカー「ヤリス」とコンパクトSUV「ヤリスクロス」に拡大させている。


進化するクルマとは?



KINTO Unlimitedの強みは、ソフトとハードの両面でのアップデート(進化)を可能としたこと。さらには、コネクテッド機能によりドライバーの運転能力向上を図る「コネクティッドドライブトレーナー」や、クルマの消耗品の劣化を見守り最適なメンテナンス入庫を提案する「コネクティッドカーケア」によるサポート(見守り)も提供している。乗員の安全に加え、クルマの状態を良好に維持することも狙いとするサービスだ。



ユーザーが希望すれば、後付けで装備をアップグレードすることもできる。

装備のアップグレードとは、通常であれば新車購入時にメーカーオプションとして選択しないと装着できなかった機能を後から追加できるというもの。プリウスUの場合、駐車支援機能「アドバンストパーク」や大画面の「12.3インチディスプレイオーディオ」、車線変更時の後側方からの接近車を知らせる「ブラインドスポットモニター」などを後付けできる。しかも、契約期間に合わせて、追加機能の利用料金を月額払いと一括払いの費用負担が少ない方法を選ぶことができるのだ。特に、先進安全機能の追加ができるのは画期的といえるだろう。



さらに、衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全機能「トヨタセーフティセンス」は、ソフトウェアをアップデートすることで、より安全性能を高めていくことができる。これもKINTO Unlimitedの魅力だ。


見守り機能である「コネクティッドドライブトレーナー」は、ドライバーのペダルやステアリング、ウィンカー操作などから運転状況を判断し、安全でエコな運転を促す。実際に、KINTOユーザーでアプリの利用者と非利用者のデータを比較してみると、事故時の修理費の低減やより低燃費な走行などの良い効果につながっている傾向が見られるという。

最先端の技術も取り込むKINTO



さらにKINTOでは、新たな取り組みとして、得られたユーザーの運転データとブロックチェーン技術を組み合わせた安全運転の記録作りを始めている。将来的には、安全運転ユーザーへの何らかの還元も検討してくそうだ。KINTOの車両についても修理履歴や修理の内容、メンテンナンス記録、利用者の安全運転歴などを中古車の評価に結び付けることで、クルマの価値向上に取り組んでいくという。



KINTOの中古車の価格が上がれば、新車でKINTOを利用する人の料金への還元も期待できるため、今後が楽しみな取り組みといえよう。



ユーザーの使い勝手を考慮した独自の取り組みもある。それが、KINTO Unlimited用アプリに加えられたARを活用した機能「これなにガイド」だ。簡単に言えば、使い方の知りたい車載機能にカメラを向けると、機能説明が表示されるというもの。文字情報だけでなく、動画による説明も準備している。説明書を引っ張り出さなくとも運転に必要な機能が分かるので、非常に便利だ。現状はプリウスのみだが、年内にはヤリスとヤリスクロスにも対応していく。この機能にはトヨタ側も注目しているそうで、今後の拡大が期待される。


KINTOの累計契約件数は?



2024年7月末時点でのKINTOの累計申し込み数は12.5万件。保有台数が増えたことで、いよいよ事業の黒字化も見えてきたという。



課題もある。KINTO Unlimitedの主力車であるプリウスUで、売りのひとつであるアップグレードサービスの利用者が2%と伸び悩んでいることだ。



サブスク利用者の堅実さの反映ともいえるだろうが、まだ取り組みは始まったばかり。そもそもKINTOがサブスクを始めた時も、利用者は徐々に拡大していった。まずは、KINTOならばクルマを買った後も気軽に機能を増やせるというメリットを知ってもらうことが重要だろう。



そのため、KINTOでは現在、11月30日までハードウェアアップデートの購入費を最大8万円分補助するキャンペーンを実施している。まずは機能を追加できる魅力を体験してもらい、その後の利用拡大につなげたいようだ。



多くの人は、サブスクでの愛車の購入後には、メンテナンスなどの維持費以外にお金をかけるという考えを持たないだろうから、その常識を打ち破れるかどうかが重要となりそうだ。



大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)

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