中谷潤人が充実のLAキャンプを終了 3階級王者になった今「さらに上を目指すため」に怠らない自己投資

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2024年10月03日 17:10  webスポルティーバ

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【キャンプ中に3度作る疲労のピーク】

 現地時間9月24日、WBCバンタム級チャンピオンの中谷潤人がLAキャンプを終えた。8月22日に日本を発ち、到着した翌日からトレーニングを開始。1カ月間のキャンプで、4名のパートナーを相手に合計162ラウンドのスパーリングをこなした。10月14日の防衛戦に向け、順調にコンディションを整えている。

 挑戦者であるタイのタサーナ・サラパットも中谷と同じサウスポーだ。今回のキャンプでは、徹底的に左利きへの対策をしてきた。

 キャンプ序盤の8月末には「オーソドックスの相手と拳を交える時には使わない箇所、背中の左側の筋肉が痛くなります」と苦笑いしていた中谷だが、ここにきて「もう痛みはありません。サウスポーに特化した練習を重ね、今後につながるでしょう」と自信たっぷりに話す。

 中谷は試合前のキャンプ中、3度は疲労のピークを作る。今回、最初のそれは9月18日に訪れた。練習終了時に座り込んでしまうほど己を追い込んだあと、WBC王者は語った。

「疲れが溜まっています。でも、ここを乗り越えるからこそ、体がキレてくるんです。手もバンバン出るようになります。いつものことなんですよ。試合に向けてこういう時期を味わうことが、とても重要です。

 確かに今日は体が疲れているので、思ったような動きができませんでした。でも、世界チャンピオンとして防衛戦を迎えられる幸せを感じる自分がいます。ピークを超えると、回復が早くなるんですよ。試合の1週間前にはキレキレになっています(笑)」

 この日は10ラウンドのスパーリングをこなした。7回以降に2人目のパートナーとしてリングに上がったのは、中谷と同じ26歳のサウスポー、ジェシー・マンダパットだった。中谷が中学を卒業後、「世界チャンピオンになる夢」だけを追いかけ、LA修行を始めた頃にスパーリングを重ねた相手である。

 マンダパットのプロ戦績は、9勝(5KO)1敗1分。2015年4月に17歳でプロデビューしてから28戦全勝21KO、世界タイトル3階級制覇を果たして日米を問わず脚光を浴びる中谷に対し、マンダパットのプロ初戦は2018年末。両者の差が埋まることは、もはやなさそうだ。

「15の時以来のスパーリングでした。久しぶりでしたね。あの頃は、ガンガン打ち合いました。ボディを狙ったことを覚えています。今はやりやすい、崩しやすい選手です。彼の動きを観察しながら、それほど力を入れずにスピード重視の連打を心掛けました」

 マンダパットと向き合ったWBCバンタム級チャンピオンは、フットワークで相手を捌き、カウンターの左ストレートをぶち込む。顎への右アッパーもヒットし、ショートの連打で動きを止めた。そうかと思うと、ノーガードにしてリング中央で静止し、マンダパットを誘った。

「向こうが出てくるところに、カウンターを合わせようと考えたんです。実は疲れていたので、ちょっと休もうと(笑)。でも、あまりこなかったですね。マンダパットにダメージを与えないように、軽めに手を出しました」

【より高みを目指すための自己投資】

 中谷はワンツー、右ボディのダブルを放ってパートナーを圧倒した。最終の10ラウンド目は、力を込めずにパンチを出し続け、上下にフックを打ち分けた。

「『ここでしっかり手を出せば、今日はサンドバッグ打ちなしでいいよ』とルディに言われたので、最後のラウンドは休まずに攻めました。力は込めませんでしたが」

 トレーナーのルディ・エルナンデスと中谷は、固い絆で結ばれている。15歳で、単身アメリカに乗り込んだ中谷を、ルディは自宅にホームステイさせた。その後、中谷は日本でプロデビューし、新人王、ユースタイトル、日本王座、WBOフライ級チャンピオン、同スーパーフライ級タイトル、WBCバンタム級王座奪取と、一歩一歩階段を上がってきた。今回も含め、試合の度にLAでキャンプを張るが、ルディはスーパーフライ級転向後の第1戦まで、中谷に部屋を用意した。

「ジュントがハッピーなら、俺もハッピーだ」

 ことあるごとに、ルディはそう言った。

 2階級を制した2023年5月20日のWBOスーパーフライ級王座決定戦、アンドリュー・モロニーとの試合に向けたキャンプから、中谷は4つ星ホテル並のバケーション・レンタル施設に寝泊まりしてジムに通うようになった。最上階にはランニングマシーンや筋トレ器具が並び、プールやジャクジーもある。

 部屋に入れば、冷蔵庫やキッチンはもちろん、洗濯機、乾燥機も備えられている。調理師のキャリアを持つ実弟の龍人がマネージャーとしてチャンピオンを支える。栄養のバランスを考え、減量も考慮した食事を用意する。さらに、鍼灸師、柔道整復師の資格を持つトレーナーが同行し、毎日欠かさずマッサージを行う。

 最終ラウンドにモロニーをキャンバスに沈めたWBOスーパーフライ級王座決定戦は、リング誌による2023年度の「KO Of The Year」を受賞したが、世界チャンプのなかでも真の実力者として讃えられる者ならでは環境だ。「さらに上を目指すため」に、中谷は準備を怠らない。

「何のために今、LAで練習するのかを考えた時、必要だと感じるものを揃えました。言ってみれば、自己投資ですね」

【危険地帯でつかみ取ってきたチャンス】

 ルディの自宅は、サウスセントラルにある。1992年に同名の映画が放映されたが、無数のギャングが縄張り争いをする危険地帯だ。住民の66.6%がヒスパニックで、メキシコ移民であるルディ家もそこにカウントされる。

 2023年にFBIが発表したデータによれば、犯罪率は全米平均の2.14倍。殺人、過失致死、強制強姦、強盗......そして、他人に身体的傷害を与えたり、人命を軽視し、故意に致命的な傷を負わせようとする加重暴行などの暴力犯罪の発生件数は、全米平均の4.96倍というエリアである。

 かつて、中谷はサウスセントラルで銃声を聞き、警官に連行されていく隣人の姿を目の当たりにした。ロードワーク中には、誰かが亡くなったことを意味する花が手向けられている様を見た。そういった地で研鑽を積んだからこそ、今がある。

「15でアメリカに来た頃は、ルディに見限られたら自分はそこで終わる。いつ『スパーリングだ』って告げられるかわからないから、対応しなきゃいけない。チャンスを逃してはいけない。『この人に認めてもらうんだ』と常に意識していました。自分をそういう状態に持っていっておかなきゃいけかったんです。

 あの頃はスパーがない日でも、ヘッドギアやノーファールカップ、スパーリング用のグローブを持っていましたね。たとえ調子が悪くても、モノにしなきゃいけなかった。その積み重ねですよ」

 今、中谷はより自分を高められる場所に移動したのだ。

 9月20日は世界タイトルマッチと同じ12ラウンド、21日は10ラウンド、23日に13ラウンド、そして最終日となった24日には6ラウンドのスパーリングをこなし、WBCバンタム級チャンピオンは機上の人となった。

 20日には一時的に疲れが取れたが、23日にまた体が重くなったと苦笑した。

 21日、23日は、マンダパットが再びパートナーを務めた。中谷はルディからの指示どおり、ガードを下げて誘い、接近戦でショートの連打を浴びせた。ただ、打ち込むことはせず、相手に傷を負わせるような内容にはしなかった。

「帰国したら、また時差などに対応しなければなりません。減量も、あと4kgくらいですね。日本で、12ラウンドのぶっ続けのスパーも2回はやると思います」

 LAキャンプを打ち上げた日、中谷はこう結んだ。

「僕にとってボクシングは、人生を費やしてきた、自分を発揮できる場所です。リング上の姿から、皆さんに何かを感じ取ってほしい。それが(自分の)表現の仕方なんですよ」

 タサーナ・サラパットでは、中谷の相手にならないだろう。どんな勝ち方をして、次につなげるか。3階級制覇中のWBCバンタム級チャンピオン、中谷潤人はさらなる高みに向かって加速中だ。

 はたして、彼はどこまで昇り詰めるのか。

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