堂本剛、30歳で人生との向き合い方に変化「自分の心の声に耳を傾けることを優先した」

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2024年10月11日 07:00  ORICON NEWS

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荻上直子監督の最新作『まる』(10月18日公開)で主演する堂本剛  写真:筒井翼(C)ORICON NewS inc.
 荻上直子監督の最新作『まる』(10月18日公開)で、約2年前からの製作陣からの熱烈オファーを経て単独主演を果たした堂本剛(45)。「.ENDRECHERI.」として独自の道を切り開いてきた彼が映画単独主演を務めるのは、実に27年ぶりのこと。荻上監督のアテ書き脚本によって、“自分が何者かわからなくなってしまった男”の心の旅路を自然体かつ鮮やかに体現している。久しぶりの役者業に飛び込んだ『まる』、そして変化の1年を通して噛み締めたのは「人生は一度きりだ」という想い。もがきながらたどり着いた境地について、堂本が語った。

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■役者人生で一番難しい芝居への挑戦 役作りで「目の下にクマを描いていました」

 堂本が演じるのは、美大卒だがアートで身を立てられず、人気現代美術家のアシスタントをしている男・沢田。独立する気配もなければ、そんな気力さえも失って、言われたことを淡々とこなすことに慣れてしまっている。そんなある日、部屋にいた蟻に導かれるようにして描いた〇(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名になる。人生が転がり始めた男の、奇想天外な物語が描き出される。堂本は準備段階から荻上監督とのディスカッションに加わり、監督が聞き取った彼自身の内面も反映させながら、脚本が完成した。

 久々の役者業となった堂本だが、「お芝居が嫌いなわけではない」と笑顔。本作では「誰と一緒に映画を作りたいかと聞かれるたびに、堂本さんのお名前を常々挙げていた」と熱望していた荻上監督が堂本に向けて主人公をアテ書きし、堂本は「荻上監督が『ぜひ剛さんで』と僕を必要としてくださって、そこまで言っていただけるのなら、と心を動かされました」と製作陣の熱意が原動力になった。

 アテ書きによる役柄とはいえ、主人公・沢田について堂本は「芝居人生で一番難しいものになる」と感じたという。「沢田は、周囲に巻き込まれていくだけで、とことん受け身の役なんです。これが非常に難しかった」と回顧し、「自分発信でことを荒立てたり、静めたりする役とは違って、沢田は周りで起こっていることに対して、“無”に近い境地でいるんです。また現場で質問をすると、『きっと』『おそらく』とお返事をいただいたりと、監督も沢田の答えを探しながら撮っているようなところもあって。それくらい、沢田は輪郭がはっきりとしていない役柄なんですね。掴みどころがないという点も含めて、難しい役でした」と語る。

 その上で、沢田について「自分が求めているものがわかっているけれど、それを実現することができていない人間」だと分析した堂本。役づくりでは「映画の最初と最後以外では、目の下にクマを描いていました。疲れ切っていて、力が入らないというか。目をキリッとさせるのではなく、崩すという感じ。お芝居や体型もボテっとしようと思っていました」とこだわりを吐露する。

■深く共鳴した沢田の“本心”「やりたくないことで多く得ても、それは楽しいのか」

描いた「〇(まる)」によって時代の寵児(ちょうじ)としてもてはやされる沢田。彼の周囲はにわかに騒がしくなり、あらゆる人がいろいろな言葉をかけてくる。堂本自身、沢田を通して考えさせられるセリフも多く、アテ書きのキャラクターに深く共鳴した様子だ。

沢田は、小林聡美演じる野心的なギャラリーオーナーから「求められることに応えるのも、アーティストの義務なのよ」ともっと○を描けと発破をかけられるが、堂本は「あのセリフは僕もいろいろな気持ちになったセリフです」としみじみ。

「求められることに応えるだけが、人生ではないよな。そうすると自分が求めているものは無視しろということなのか? 応えた先には何があるんだろうと、いろいろなことを考えました。そこで沢田は、『自分が求めることは自分で決める』と言ってもいいんじゃないかと思うようなセリフで。求められることに応えるのが好きな人は、もちろん応えることをしていけばいいし、世の中にこれが正解、これが不正解だということなんてないよなぁと感じました」と想いを巡らせ、「きっと誰もがそうだと思うんですが、『こうしなさい』と言われたことに応えていく上では、ハテナを感じることも出てきますよね。自分がある職業に就いて、『自分がやりたかったことはこれだ』と思うものが薄れていくのを感じながら、それをやり続けるというのはちょっと苦しいことでもあります。沢田もそういう心境だったと思います」とキャラクターに心を寄せる。

また沢田の高校の同級生・吉村(おいでやす小田)は「一緒に大金を稼ごうぜ!」と、金儲(もう)けを持ちかけてくる。堂本は「〇を描き続けて億万長者になればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないけれど、そうすると目的はお金になって、アーティストとして描きたいものではなくなってくるわけで。沢田は最低限、絵を描いて生きていけたらいいかと思っている男で、お金に興味や執着があるわけではない。僕自身、やりたくないことで多くを得ても、それは楽しいかと自分に問えば、ホンマにおもろないだろうと思うんです」と持論を展開。

「沢田は、“水”のようでもあるなと感じています。たとえば湖の水は、風や雨が当たったりすることで揺れたり、波紋ができたりする。熱くなれば蒸発するし、寒くなれば固まる。でもどれも“水”ですよね。沢田はそういった“水”のようで、周りが勝手に動いていることに対して揺れたりしながら、ただただ静かな湖面に戻っていく。沢田は自分の求めることに素直に生きていきたいだけで、沢田は“静”で、周りが“動”という感じ」と沢田の心の旅路を湖面になぞらえる。

■「人生一度きり」…2024年はその言葉が強烈にフィットした1年だった

今作へのチャレンジを含め、今年はまた新たな一歩を踏み出した1年にもなった。「難しい役でしたが、楽しいなと思いながら過ごしていました」と荻上監督をはじめとするスタッフ、共演者と過ごした時間に充実感をあふれさせながら、「本作のお話は随分、以前からいただいていたものです。自分も今、環境を変えて生きていますが、いろいろなタイミングがたまたま重なってしまっただけで。最終的にここに至ったという感じです」とにっこり。

「〇(まる)」をきっかけとした騒動から、観客も自分の生き方について考えられるような作品だ。堂本も「〇(まる)」に向き合い続けたことで噛み締めたことがあるといい、「僕は、常に自分の中に答えを持って生きていて。その答えに向かって生きていくだけでいいんだなと、改めて感じました」と告白する。

自分の中にある答えとは、「人生は一度きり。自分の心に素直に生きることが大事なんだ」という真っ直ぐな想い。そういった信念を強く握りしめたのは、「30歳くらいのこと」だと続ける。「今も戦っているものですが、僕はパニック障害というものを患って。患った当初は公言する人が少なすぎて、僕も公言することが難しく、ずっと自分の中で悩んでいました。エンターテインメントをやっていると、コンサート会場にお客さんがいっぱい来て下さったり、取材があるとたくさんの人に囲まれながら話をしたりすることも多い。そういった環境でパニック障害というのは、上手く過ごせないんですね。求めていただける声だけに向き合ってエンターテインメントをやっていこうとすると、もうすでに僕の心は崩壊していたから、もっと崩壊してこの身が消えてしまうなと思った。そこで自分はどうやって生きていけばいいんだろうと考えた時に、求めていただけることに向き合うためには、エンターテインメントを続けていくためには、まずは自分の心の声に耳を傾けることを優先してやっていく必要があると感じて。20代での模索の日々を経て30歳くらいで、シンプルに自分の人生を生きていこうと強く決意しました」と打ち明ける。

それからは「『人生は一度きりだ』ということを常に意識している」そうで、「自分が発している言葉だけれど、今年はその言葉に強烈にフィットしている1年だなと思います。『人生は一度きりだ』と思いながら決断していることが、とても多い。そうやって決断したことが、誰かの人生を豊かにしたり、幸せにしたりする未来につながっていったら、とてもうれしいです」と心を込める。

 もがきながら歩みを進めてきた堂本が口にするのは、やさしさと愛がにじむような言葉ばかり。「完璧に毎日、一秒一秒を完璧に生きられた自信のある人っていないと思うんです。いつも『失敗したな』『もっとこうしておけばよかった』『これでよかったんや』というのを繰り返しているけれど、人生ってそういうもんやと思う。ジタバタすればいいし、パーフェクトである必要性なんてない。本作を通して、それぞれの道を生きればいい、自分が生きてきた道やこれから生きていこうと思っている道を信じられるような気持ちになってくれたらいいなと感じています」と穏やかな笑顔を浮かべていた。(取材/文:成田おり枝)

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