「カプセルトイショップ増えすぎ問題」は解決できる? 谷頭和希が話題書『パークナイズ 公園化する都市』を糸口に考える

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2024年10月12日 08:00  リアルサウンド

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photo:fah(unsplash)

  筆者は仕事柄、地方のショッピングモールを歩くことが多い。そのとき、ここ数年で顕著に思うことがある。


 「カプセルトイショップ増えすぎ問題」だ。


  場所にもよるが、ショッピングモールでは100を越すテナントが入ることも珍しくない。これだけ多いと、それらがすべて安泰なわけではなく、撤退するテナントもある。特にコロナ禍において空き店舗が増える場合も多く、ワンフロアで不自然に何もない空間が生まれることも増えている。私が調査した例だと、イオンモール高松は2024年7月の段階で空きテナント率が17%で、かなり寂しい状況。高松の例はちょっと極端かもしれないが、日本全体として人口の減少が問題になっている現在、多かれ少なかれこのようなショッピングモールの空きテナント問題は各地で顕在化している。


  そんな状況を救う救世主が「カプセルトイショップ」。その名の通り、カプセルトイがぎっしりと並べられた店のことで、ここ数年で専門店が爆増している。「ガチャガチャの森」「ガシャポンのデパート」「#C-pla」「ガシャココ」などブランド数が多く、総店舗数は1000店舗を超えている。市場規模も800億円に達しているが、その少なくない数が、ショッピングモールの空き店舗に入居している。中にはモール内で2店舗の専門店がある場合も増え、やけにカプセルトイショップが目につくようになったのだ。


  この急増には、いろいろな事情がある。「第5次カプセルトイブーム」ともいわれるカプセルトイ熱の高まり、さらには「推し活」ブームの後押しもある。一方、テナント側に立ってみると、ガシャガシャは電気工事が全く必要なく、ただマシンを置くだけで済むことも大きい。コストを少なくしたまま、寂しい空き店舗を埋めることができるのだ。こうしてカプセルトイショップは、ショッピングモールのお馴染みのテナントになった。


  ただ、筆者はこうした状況について少しの寂しさも覚えてしまう。


  カプセルトイショップを否定するわけではないが、空き店舗を埋めるパターンがあまりにも一様だと感じられてしまうからだ。だからこそ、これを「問題」とちょっと誇張して呼んでいる。ショッピングモールに生まれた「空きスペース」をもっと生かすことはできないのか。


『パークナイズ 公園化する都市』が紹介する最先端の「公園」

  そんなことを考えていた折に出会ったのが、今回紹介する本『パークナイズ 公園化する都市』だ。これ、「カプセルトイショップ増えすぎ問題」を考えるときの大きなヒントをくれる。


  まず、大前提としてめちゃくちゃ面白い本なので、今の都市空間に疑問を持っている人や「コミュニティ」「公共空間」に興味がある人は読んだ方がいい。


  同書はOpenAと公共R不動産が編集を行った本。OpenAは建築設計会社であり、都市空間への大胆かつ自由なアプローチで知られている。公共R不動産は「公共空間をオープンに」を目標に、パブリックスペースのさまざまな活用事例や方法を紹介するメディア。そんな両者が手を取り、「公園」という切り口から現在の都市の新しい活用方法を提案するのが本書である。


  こうやって紹介すると「ほほう、いわゆる街中にある『公園』についての本ね」と思うかもしれない。実際、本書の第1章では、「公園×〇〇」として、公園とそれ以外の施設をつなぎ合わせて、よりさまざまな機能を持った公園を作る試みが紹介されている。「公園」とはそこを使う目的が複数あり、その役割が決められていない自由な空間。だからこそ、さまざまな施設と柔軟に組み合わせることができる。「公園×駅」や「公園×図書館」、「公園×道の駅」など「公園と何かを掛け合わせることで、その魅力や可能性が拡張する」ような開発事例がたくさん紹介されている。OpenAが設計を行っている場所もあり、先進的な公園の事例集としてとても面白い。


「公園」の概念を更新せよ

  しかし、本書の射程はもっと広い。いや、むしろこの後にくるものこそ、本書が本当に伝え、そして目指していこうとする「公園」の姿である。というのも、このような公園を拡張する試みの果てに、本書では「公園」の意味を大胆に更新しようとしているからだ。


  どういうことか。


  ふつう、私たちは「公園」について、それが街の中にある「公園」と名付けられた区画だとイメージする。「公園」というものがあって、それを使っていくという発想だ。しかし、本書で述べられているのはその順序が逆だ。都市の中に偶然できてしまった「空きスペース」を逆に「公園」として捉えていくのである。つまり、都市の中にさまざまな「公園」を見つけ出していく。本書ではそれを「公園化(パークナイズ)」と呼んでいる。


  そんな「公園化」が、現実の都市空間やさまざまなアイデアとともに語られるのが第2章。駐車場や公衆トイレなどの場所が「公園」のように使われている事例を、日本のみならず海外にまで視野を広げて紹介する。


  中でも私が魅力的に感じたのは、「妄想アイデア」としてスケッチされている公園化のアイデア。地方の駅前に乱立する駐車場や、全国で爆増するソーラーパネル、飽和状態にあって閉鎖されることも増えてきたガソリンスタンドなど、日本全国に増える「空きスペース」を「公園」として見立て、利活用していく方法が提唱されている。例えばガソリンスタンドは大きな屋根が付いているから、それを活かして雨でも人々が集える場所になれるはずだし、キッチンカーなどの乗り入れも楽。ソーラーパネルも同じだ。パネルを屋根に見立てれば、その下は雨でも人々が集うことができる。暑い日でも日陰になるからとても良い。ソーラーパネルで発電した電気を少しもらって電飾を付けることもできる。


  このように、日本全国に生まれている空きスペースを、その特性を活かして人々が集う「公園」のように見立てることができるのだ。もちろん「妄想」と書いてある通り、これを実現するにはさまざまな制約や条件を乗り越える必要があるだろう。けれども、都市空間を「見立てる」発想のレッスンとして、こうした妄想アイデアは、とても魅力的に私の目に映るのである。


公園から都市の未来を考える

  さて、冒頭の話に戻ろう。爆増するカプセルトイショップの話だ。


 「公園化」の発想を使えば、ショッピングモールに空いた空きテナントも、もしかすると「公園」にすることができるのではないか。もちろん、カプセルトイショップにするのも活用方法の一つだが、そうなるとその空間は「カプセルトイをする場所」にしかならない。しかし、せっかくそこに生まれているスペースを活かして、また異なる可能性を模索することができるのではないか? あるいはカプセルトイショップの一角をもっと人々が集う場所にすることができるのではないか? 「カプセルトイショップ×公園」だ。


  全国を歩いていると、こうした「空きスペース」に出くわすことが多い。駅前のシャッター商店街は驚くぐらい人がいない、広大なスペースが広がっているし、郊外に出れば空き家だって増えている。都市部への一極集中と人口減少がこうした「空きスペースの創出」に拍車を掛けているが、本書の提示する「公園化」なる概念は、そこからどのように新しい都市空間を作るのかのヒントを与えてくれる。


  本書のあとがきで、OpenAの馬場正尊は「近代が100年かけてつくってきた都市の骨格に対し、僕らはどう付き合えばいいのか。その探求のプロセスでもある」と本書を表現している。近代の都市空間は、空間に一つの「意味」を与え、なるべく機能的に都市を設計しようとしてきた。カプセルトイショップだってそうかもしれない。そこはカプセルトイが置かれることによって、一つの「意味」が与えられる空間になった。しかし、一つの機能しかなければ、その空間は、カプセルトイが誰の興味も惹かなくなったらそれでおしまいだ。ガソリンスタンドだってソーラーパネルだって、すべて「機能」のために作られているけれども、それらがさまざまな要因で終わりを迎えると、それは「機能の廃墟」になってしまう。もしかすると、現在の都市とはそんな「機能の廃墟」が積もり積もっている空間なのかもしれない。


  だとすれば、そんな廃墟の中から、そのスキマを縫うようにして私たちは新しい都市空間を作っていく必要がある。そのヒントこそ、「公園化」にあると馬場は考えているのだ。本書の視座は、きわめて具体的な都市空間に根差しながら、より大きな「新しい都市の姿」にも向いている。その点で、「公園」だけに留まらない、広く「都市」全般に興味を持つすべての人におすすめの一冊である。




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