腕時計投資の伏兵・カルティエの“不人気モデル”が高騰したワケ。11万円の時計が「7年で50万円超」

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2024年10月13日 16:21  日刊SPA!

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知人に勧めたステンレスのサントスガルベ
―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―
◆高級腕時計市場は値下がりしている?

 腕時計投資家の斉藤由貴生です。

 最近、腕時計は値下がりしているといわれることが多いように思います。しかし、長年相場を追っている私からすると、必ずしも現在の相場は「値下がり」というわけではなく、値上がりしている時計と、値下がりしている時計が混在しているといえます。

 また、値下がりとなっている時計を例としても、3年前や5年前の水準と比べると「だいぶ高値」といった状態をキープ。2022年春という時期に「ものすごい上昇」となった経緯があるため、その時点と比べると値下がりでも、2021年春といった時期と比べると“値下がりではない”というケースが大半だといえます。

 そういった値動きとなっているモデルは、いわゆる「人気モデル」です。人気モデルなのに値下がりしている(2022年春と比べて)という点が、「腕時計は値下がりしている」という印象を強く与えているのだと思います。

 しかし、先にも述べたように、現在相場は必ずしも全体的に値下がり傾向となっているわけではないのです。ということで今回は、今値上がりしている腕時計をお伝えしたいと思います。

◆値上がりしている腕時計はサントスガルベ!

 その値上がりしている腕時計の最たる存在が、カルティエのサントスガルベであります。サントスには様々なシリーズがありますが、「ガルベ」はブレスレットを中心としたモデル。デビューしたのは1980年代ですが、バブル期にコンビモデルが流行っていたといえます。当時、カルティエは日本で「カルチェ」と呼ばれていたわけですが、その「カルチェ」の腕時計といえば、まさにこのサントスガルベだったといえるでしょう。

 バブル期に流行っていたサントスガルベは、コンビモデルだったわけで、当時幼かった筆者目線でも、それをつけている大人をよく見かけた記憶があります。おそらく、1990年代前半頃までサントスガルベのコンビモデルが流行っていたと推測でき、後の中古市場でもそのぐらいの年式のコンビモデルを多く見かけたといえます。

 しかしながら、1990年代後半の流行は、バブル期とは正反対となります。

 その頃、日本では「ロレックスブーム」が起こっていたのですが、当時の人気モデルは、エクスプローラーの14270。シンプルなステンレスモデルが好まれたのです。そのため、サントスガルベ、特にコンビモデルは、「バブルの遺産」のような存在感となり、1990年代後半からしばらくの間、はっきりいえば「ダサい」という印象があったように思えます。

 ちなみに、サントスガルベ自体はその時期にも現行モデルとして存在していたのですが、若干のマイナーチェンジを受け、ケース形状が変更。この世代は、サントスガルベの「後期」に当たる世代なのですが、不思議と後期ではステンレスモデルの方が多く、コンビが少ない傾向があります。

 こういったことからも、1990年代前半と後半とで流行が「逆」になったということが分かります。

◆不人気モデルになった後の相場は?

 バブル期に流行ってしまったサントスガルベは、1990年代後半頃から、不人気モデルに転じるわけですが、そういった傾向は数年前まで続いてしまっていたといえます。またメーカー側も、ガルベの不人気を察知してなのか、2000年代にサントスのラインナップを変化させます。2002年頃からパネライが世界的な大ブームとなっていたのですが、サントスにもパネライの要素を投入。2004年に発表された「サントス100」シリーズは、それまでのサントスガルベとは異なり、大きなケースが採用。また、ストラップも革ベルトを中心とした展開でした。

 サントスガルベは、メンズサイズでも約29mmと小ぶり。ストラップはブレスレットが基本でしたから、サントス100は、巨大ケース&革ベルトという真逆の存在だったといえます。ちなみに、2005年にサントスガルベにも「XL」というそれまで以上に大きなサイズが追加されたのですが、その頃のサントスの中心的存在は「サントス100」になっており、ガルベの存在感は薄かったといえます。

 そしてその後、サントスガルベは「女性向けが中心」というラインナップに変更。2010年代中盤頃までには男性用サイズ(LM)が廃止となり、女性向けのSMといったサイズのみの展開になっていたのです。

 2016年頃の中古相場では、男性用サントスガルベはどういった相場だったかというと、LM自動巻(後期ステンレス W20055D6)が24万円程度、LMクオーツ(W20018D6)が11万円程度といった状態でした。

 2016年時点で、ロレックスなどの人気モデルは、既に「異常な値上がり」という意見が見受けられたといえます。私は、2015年に「腕時計投資のすすめ」という本を出したのですが、その頃書かれたレビューを見ても「高くなりすぎている」とか「今が天井」などと書かれていた様子があったぐらいでした。それぐらい、当時の相場は「高い」という印象だったのです。

 しかし、そういった時期において、サントスガルベはクオーツが11万円程度、自動巻が24万円程度といった相場。これはリーマンショック後の時期(全体的に安価な相場だった頃)とそれほど大きく変わらないといえた水準だったのです。

 ちなみに、2015年時点でロレックス「異常に高い」などといわれていましたが、現在相場は、2015年頃と比べて2倍以上であることを付け加えておきます。(例:エクスプローラー14270 2016年水準:約38万円、現在:約74万円)

◆パテックフィリップノーチラスのような“強い個性”

 サントスガルベは、2016年頃といった時期において、全く値上がりといった印象はなかったのですが、それでも「買う」という人は少なかったといえます。というのも、当時の印象も、1990年代後半同様に「バブル期に流行った時計」という感じだったからでしょう。

 実際、私もその頃までサントスガルベに興味を持てず、良い印象はありませんでした。しかし、そういった印象を抱いていた私は、ふとした時に、サントスガルベには「パテックフィリップノーチラス」のような“強い個性”があると感じたのです。

 この“強い個性”こそ、ある時期には「ダサい」「古臭い」といわれてしまうものの、そののちその“強い個性”がたまらない存在になっていくという変化をするのです。まさに、珍味のような存在で、子どもが食べると「まずい」となる一方、大人が食べると「たまらない」となるような味だといえます。

 私は、この感覚こそが「ノーチラス」と似ていると思い、2016年12月に腕時計投資新聞で「ノーチラスのような可能性を秘めているかも」という記事を執筆。それから私は、サントスガルベに興味を持ったため、知り合いにもサントスガルベを勧めるようになっていきました。

 ただ、その後もしばらくサントスガルベの相場は変化せず。私が「ノーチラスのような可能性を秘めている」と言い出してから4年後の2020年12月になっても同様です。ちなみに、サントスガルベのXLサイズだけは、早い時期から相場が変化しており、2017年まで30万円程度だったのが、2018年なると40万円以上になっていました。

 その一方で、まさにバブル期に流行っていたLMサイズは、相場変化せず。2020年頃になっても、相変わらず自動巻モデルでも25万円前後といった価格で購入可能だったのです。

◆サントスガルベの相場、2022年に大きく変化

 そんなサントスガルベですが、2022年になると大きな変化を遂げます。

 まず、2018年頃から先陣を切って値動きしていたXLサイズが上昇し、70万円以上という状態になったのです。また、それまでほぼ値動きしなかったといえるLMサイズでも目立った上昇に転じ、それまで25万円前後だったステンレスは40万円以上、27万円前後だったコンビモデルは50万円以上という水準に達しました。

 そして、その後もサントスガルベの上昇は継続。現在では、LMサイズのクォーツモデルにおいても目立った上昇傾向が見られており、その現在水準は50万円程度に達しているのです。2016年頃に約11万円で購入可能だったわけですから、約5倍になったといえる状態であります。

 さらに、LM自動巻モデルについては、ステンレスが70万円程度、コンビが80万円程度といった状態になっているわけで、メンズサイズのサントスガルベは、数年前では考えられないぐらいの相場に達しているのです。

 実は私、大学の友人と、行きつけの焼肉屋さんのマスターにも、このサントスガルベを勧めたのですが、彼らは「買う」という決断を実施。大学の友人はコンビモデルを約26万円で購入。現在相場は約80万円といった状態になっています。また、焼肉屋さんのマスターは、ステンレスモデルを約24万円で購入したのですが、その現在相場は約70万円であります。

 というわけで、今回は、サントスガルベというモデルが値上がりしているということをお伝えしたわけですが、情報をきちんと掴むことが、時計選びで重要だといえるでしょう。

 今は全体的に値下がりと漠然としたイメージにとらわれず、情報を精査して、中古腕時計を楽しんでいただきたいと思います。

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

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