牛尾憲輔(agraph)の「15の夜に読んでたマンガ」は「彼氏彼女の事情」(津田雅美)

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2024年11月06日 12:04  コミックナタリー

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15の夜に読んでたマンガ第11回| 牛尾憲輔(agraph)
コミックナタリー15周年を記念して展開中のコラム「15の夜に読んでたマンガ」。人間で言えば15歳とは中学から高校に上がる節目であり、服装から言葉づかいまで心と身体の成長に合わせてありとあらゆるものが変化していく思春期の真っ只中だ。マンガ読みとしても、思春期を境にそれまでと読むマンガの趣味がガラッと変わったという経験を持つ人も多いのでは? そんな15歳の頃に読んでいた思い出深いマンガについて、このコラムではさまざまな人に語ってもらう。

音楽家・牛尾憲輔(agraph)が15歳の頃に読んでたマンガ

第12回は音楽家・牛尾憲輔が登場。agraph名義でテクノ、エレクトロニカの楽曲を発表する一方で、「平家物語」「チェンソーマン」などアニメ作品の劇伴を多数手がけており、コミックナタリー読者にも馴染み深いアーティストだ。そんな牛尾が語る「15の夜に読んでたマンガ」は津田雅美「彼氏彼女の事情」。また「今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガ」も記事末で紹介している。皆さんも、自分の「15の夜に読んでたマンガ」を思い出しながら読んでもらいたい。

取材・構成 / コミックナタリー編集部

■ 15歳の頃に読んでたマンガと、読んでた当時のことを教えてください
□ 津田雅美「彼氏彼女の事情」(白泉社)
いろいろ読んではいたんですが、15歳──高校1年生の記憶を辿ったときに当時の風景とセットで思い浮かんだ作品は「彼氏彼女の事情」(津田雅美)ですね。自分は男子校に通っていたんですが、高校生にもなるとみんな学校にマンガを持ち寄るじゃないですか。それでクラスの後ろにマンガの学級文庫みたいなゾーンができていくわけですけど、うちのクラスはそのラインナップがなぜか全部少女マンガだったんです。エロ本もなければ、少年マンガもない。筋骨隆々の、野球部で真っ黒に日焼けした奴も白泉社花とゆめコミックスを読んでいて。すごくやさしい男子校だった(笑)。「花ざかりの君たちへ」(中条比紗也)とか、その頃にはもう「フルーツバスケット」(高屋奈月)も始まっていたかな。作品ごとに単行本を買ってくる人が決まっていて、自分は「カレカノ(彼氏彼女の事情)」係だったという記憶が今も思い出深く残っています。

そもそものマンガ遍歴を振り返っていくと、幼い頃からマンガ好きだったけれど、そこまで少女マンガに強かったわけではなくて。どちらかというと少年マンガや美少女ラブコメを嗜好していたんです。一番影響の強かった体験は、今でも忘れない幼稚園の年長さんの頃に友達の家で読んだ「ああっ女神さまっ」(藤島康介)。5〜6歳の頃だけど、それを読んでなんかモヤモヤしたんですね。「なんだろうこの気持ちは」って。ただ「ああっ女神さまっ」って青年マンガだったから、これを買ったらエッチだと思われるかもと思って、親に買ってとも言えないから我慢していた。小学校に上がっても、ずっとそのモヤモヤは抱えたまま。そんなある日、小学校3〜4年生くらいでお母さんに連れられて行った美容院にマガジンSPECIAL(講談社)がなぜか置いてあって。大人のマンガ雑誌だーと思って手に取ったそこに「A・Iが止まらない!」(赤松健)が載っていたんですよ。それを読んで「あ! あのとき感じたあれはこれだ!」となって。そっから自分はラブコメ、その中でも「落ちもの」系──女の子が落ちてくるマンガが好きなんだってのを自覚したんです。幼稚園のときのリビドーを小・中学生で回収し、かたや男の子らしく「多重人格探偵サイコ」(大塚英志/田島昭宇)や「HELLSING」(平野耕太)のような殺人とセックスのあるマンガも摂取し、兄貴の部屋に忍び込んで読んだ桜玉吉先生の「しあわせのかたち」「漫玉日記」シリーズで大人の世界を学び(笑)。マンガではないけれど同時期にライトノベルのブームも巻き起こっていたので、しっかり「ブギーポップ」シリーズ(上遠野浩平)の洗礼も受けました。

そんな少年時代を過ごし、あまり縁がなかった少女マンガの「カレカノ」を手に取ったきっかけは、庵野秀明監督によるアニメ版があったから。「新世紀エヴァンゲリオン」を見てアニメオタクとして深化していた時期に、庵野監督の次回作はこれだって聞いて原作を手に取ったら、見事にハマってしまって。面白おかしくてかわいい恋愛ものだったはずが、読み進めるうちにどんどん雲行きが怪しくなっていくじゃないですか(笑)。その影を帯びた人間関係を、ちょっと大人っぽいものとして当時の自分は楽しんでいたし、そうした少女マンガ的な価値観に多感な時期に出会えたことは、すごく大事なことだったと思います。

自分の中の「少女マンガ感」を解体していくと、アニメの「少女革命ウテナ」(幾原邦彦監督)の存在も外せないと思います。遡れば「ベルサイユのばら」(池田理代子)などにも言えることだと思いますが、あの演劇的な、コマの後ろにお花が描いてあるみたいな表現のヤバさ。現在、創作活動を行ううえで大事にしているケレン味みたいなものは、あの頃「ウテナ」的な感性に触れた影響があると思います。「HELLSING」みたいな少年心をくすぐるカッコよさがある一方で、そことは違う価値観のカッコよさがある。少女マンガを読んでなかったら、それがわからなかったかもしれない。その中には「カレカノ」から受け取ったものも確かにあります。やっててよかった「カレカノ」係(笑)。

■ 今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガはありますか?
□ 和山やま「女の園の星」(祥伝社)
なに言ってんだって思われるかもしれないんですが、今よりも当時のほうがずっと本気でマンガに向き合っていたので、あのときの濃かった自分に今の俺がマンガをおすすめするなんて「おこがましい」っていうのが本音ですね。今の自分があるのは、あのときのおかげって気持ちが強いんですよ。「AKIRA」(大友克洋)も「風の谷のナウシカ」(宮崎駿)もあの時期に原作を読んでてえらい。「ねじ式」とかのつげ義春作品も全集で読んでたんですよ、桜玉吉が好きだから。ちゃんとインプットをしてるな、えらいぞって褒めてやりたい(笑)。

そんな中で、少女マンガを読んでいた15歳の自分に言えることがあるとしたら「お前、少女マンガと青年マンガは別だと思ってるだろうけど、将来的にお前の好みに合うその中間みたいなのたくさん出てくるよ」っていうことかな。僕、和山やま先生の作品がすごく好きで、あえて1つ挙げるなら「女の園の星」なんだけど。当時の自分は女性的な線を持つ青年作品に対して一歩身を引いた感じはあったと思うんです。和山先生がそうだと思わないけれど、でも「夢中さ、君に」「カラオケ行こ!」で描かれている内容には、あの頃の俺も感じ入るものがあるんじゃないかな。「(新しい世界が)あるぜ、まだ」って、そっと差し出してやりたいですね(笑)。ほかにも田島列島先生の作品とか、少年少女向けと青年向けの狭間みたいな作品が今はいっぱいあって「そこを掘るとすげえおもしろいよ」っていうのは、将来の展望として託しておいてあげたい。あとは桜玉吉先生を信じ続けること。桜玉吉を追いかけているのはすばらしいことだから、今後もがんばんなさい。桜先生の財布として生きる人生は正しいぞっ。

■ 牛尾憲輔(うしおけんすけ)
1983年生まれ。2008年12月にソロユニット・agraphとしてデビューアルバム「a day,phases」をリリースする。2011年、新バンド・LAMAを結成。電気グルーヴのサポートメンバーも務めており、2024年で20周年を迎えた。
劇伴作家としても活躍しており、2014年にTVアニメ「ピンポン」(湯浅政明監督)で初めて劇伴を担当。同年にアニメ映画「聲の形」(山田尚子監督)の劇伴を手がけ、2018年にアニメ「DEVILMAN crybaby」(湯浅政明監督)、同年公開のアニメ映画「リズと青い鳥」(山田尚子監督)、映画「モリのいる場所」(沖田修一監督)の音楽も担当する。2020年にはアニメ「日本沈没2020」(湯浅政明監督)の劇伴が大きな反響を呼び、全米でもCD発売・配信される。2021年には映画「子供はわかってあげない」(沖田修一監督)、2022年にはTVアニメ「平家物語」(山田尚子監督)、TVアニメ「チェンソーマン」(中山竜監督)、2023年にはTVアニメ「天国大魔境」(森大貴監督)、「僕の心のヤバいやつ」(赤城博昭監督)の音楽を担当した。2024年にはアニメ映画「きみの色」(山田尚子監督)、TVアニメ「ダンダダン」(山代風我)の音楽を担当し、海外でも人気の話題作に数多く携わる。
2023年に、欧州最大のダンスフェスに劇伴を中心としたライブセットで出演。2024年はアムステルダムで単独公演「チェンソーマン Live set」を成功させる。同年11月には「behind the dex」と銘打ち、牛尾憲輔としての初の単独ライブを行う予定。

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