『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、「シンプルな白いご飯」の魅力について語る。
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世間では低糖質ブームが続いてるのに。いや、低糖質ブームが続いてるからこそ? 最近、やけに白米がうまい。つくづくうまい。この夏にニュースになった米不足も収束して、スーパーの棚に米袋が安定して並ぶようになった今、シンプルな白いご飯の魅力を再認識しています。
日本米たるもの、基本的においしくないものはそうそうないですが、たまに格別においしい一杯に出合うことってありますよね。何げなく入った定食屋さんで、お米が茶碗の中からとてつもないオーラを放っているとき。ただ者ではないツヤ、見るからに水分を含んだみずみずしい輝き、はちきれんばかりの粒立ちを目の前にすると「生きる感謝がここにある!」とニヤニヤしてしまいます。
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シンプルな白米を意味する「銀シャリ」とは、よく考えられた言葉で、炊きたての白米は本当に銀色に輝いて見えます。「シャリ」はお米の真っ白でツヤツヤしている様子がお釈迦(しゃか)様の遺骨である「仏舎利」に似ていることに由来しているらしく、炊きたての白米から尊さとはかなさを感じとれる表現。
個人的には、パツーンと炊かれた、張りがあってみずみずしいお米が好みです。ちょっと硬めだけど水分がしっかり閉じ込められていて、噛み締めたときにお米の甘みがじんわり残るような炊き方が最高。もっちり派、粘り強め派、柔らかめ派など、炊き方の好みはさまざまでしょうが、炊きたてのつややかな白いご飯に神々しさを感じるのはみんな一緒なんじゃないかと思います。
おいしいお米を看板メニューのひとつにしている料亭で、初めてこだわりの銀シャリをいただいたとき、人間としてのレベルが上がった気がしました。究極のシンプルさなのに、それは宇宙を噛んでいるような、すべてが詰まった味! 糖度もあって粘度も高いのにシャキッとしていて、ミネラル分が感じられながらもうまみも喉越しもあって、宝石のような輝きがあるのに透明感も素晴らしくて。人生の神髄に一歩近づいた気になりました。
ミニマルなものこそ情報量がとてつもない、というか。現代アートに近い感覚ですね。白いキャンバスを描き続けたロバート・ラウシェンバーグ(20世紀のアメリカの美術家)は、お米を目指していたのかもしれない。
お米はパワフルでもある。以前、「最強のごはんのおともは何か」を発表する番組に出ましたが、実は一番のご飯のお供は、フワッと立ち上る湯気なんじゃないかと。
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他人のお米に対するこだわりを聞くのも面白い。お米の品種やブレンドはもちろん、精米の速度や温度、お水の種類や土鍋の構造、すべての組み合わせを微調整して、お水だけで50種類試したという料理人さんの話を聞いたとき、奥深さを痛感しました。もちろん、丹精込めたお米農家さんの存在にも。
自分ができることは、おいしいお米をたくさんいただけるよう、胃袋を整えることだけですね。寒い季節に体が温まる料理といえば鍋料理が定番ですが、お米本来の味や食感を楽しめる、土鍋で炊いたご飯もオススメです。「食欲の秋」にぜひ!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。温かい食べ物を好むのは人のさが。公式Instagram【@sayaichikawa.official】