VEが紡ぐ物語の「質感」と「色」、全てを調和させる技術で『海に眠るダイヤモンド』の制作を支える縁の下の力持ち

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2024年12月01日 09:10  TBS NEWS DIG

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ドラマ制作の現場には、カメラを回す撮影監督や光を操る照明スタッフと並んで、映像の「質感」や「色」を整える要として活躍するVE(ビデオエンジニア)がいる。日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』では、1950年代からの端島と現代の東京を舞台に、時代や物語のトーンを映像で表現するため、VEの手腕が存分に発揮されている。今回は、本作のVEを担当する岡村亮氏にスポットを当て、その役割や制作の裏側を詳しく掘り下げる。

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映像の色とトーンで物語を語る――VEが映像の世界観に込める役割

VE(ビデオエンジニア)の仕事は、撮影現場で使用する音声や映像機器のシステムに始まり、撮影データが確実に保存されるよう管理する責任を担う。ドラマの撮影において「もし撮影したデータが失われたら大問題」と岡村氏が語るように、VEの責任の重大さは計り知れない。しかし、ドラマにおいて、VEの役割は機器の管理に留まらず、ルック(色味やトーン)を決める、映像制作のクリエイティブな面にも深く関与している。

本作では物語が過去と現代を行き来する構成となっており、それぞれの時代の雰囲気を視覚的に表現する色調は重要な要素。塚原あゆ子監督から「過去と現代で異なる色味を作りたい」というリクエストを受けたという岡村氏は、過去を描く端島のシーンにはイエローやグリーンを基調にした色調を選び、人々の活気や温かさを感じさせる雰囲気を演出する。一方、現代・東京のシーンでは、「人と人とでつながる端島とは異なり、現代はモノでつながる無機質なイメージがある」という考えから、ブルーを基調に色を抑え、孤独や冷たさが際立つトーンを採用している。

時代モノが描かれる際、セピア調や彩度を抑えた映像になることが多いが、本作の過去パートは鮮やかな色使いが特徴的だ。その理由は、物語の舞台である端島が、コンクリートで造られた緑なき半人工の島であることに起因する。「グレーの建物を背景にした映像の色を落としてしまうと、見づらくなってしまうのでは」という塚原監督の言葉を受け、思い切って鮮やかな色調を採用。この試みが視聴者にとって見やすい映像を生み出している。

全国各地のロケ映像を統一、視聴者にベストな映像を届けるために

異なる時代のトーンを表現するために、VEは“LUT(ラット)”と呼ばれるカラープリセットを作成。クランクイン前に行うカメラテストの映像素材を参考に、作品に合った色を作り、本番でそのイメージを再現できるように撮影現場で調整を加えている。「今回の場合、照明スタッフと事前にイメージをすり合わせ、照明のキーライトの色や、セットとロケ映像をどのようにマッチさせるかも話し合いました」と、岡村氏。というのも、本作はスタジオセットに加え、全国各地でロケ撮影が行われているため、場所、天候や光の条件などで撮影素材に差が出てしまう。このように異なる場所で撮った映像の統一感を保つこともVEの大きな使命なのだ。そのため岡村氏は日々撮影データを持ち歩いており、各撮影現場で過去の映像を確認しながら全体のトーンがぶれないように調整。さらに、「監督から『あのシーンってどんな感じだった?』と聞かれることもあるので、すぐに映像を提示できるよう準備しています」と語り、撮影の重要な判断を支えるサポート役も果たしている。

VEの手腕は、炭鉱のような暗い環境でのシーンでも発揮される。「暗闇に長くいると、目が慣れてしまってモニター映像が実際よりも明るく見えてしまいます。監督はイメージ通りの映像を撮るために、視覚情報を頼りに明るさを落としたくなるもの。そこで僕たちVEが波形モニターで実際の明るさをチェックすることで、適切な設定を提案。撮影環境によって、明るさの度合いが変わらないように注意しています」と。視聴者が画面で見る映像が最高の状態になるよう、細部まで注意が払われているのだ。

連続ドラマと映画の違いが生むVEの存在意義

撮影現場で重要な役割を担うVEだが、同じ映像制作でも、映画制作ではVEのような役職がない場合も多い。それは映画では長い制作期間が設けられているため。撮影現場ではカメラマンと照明が一緒にルックを作り、後からじっくりと色調整を行えるのだ。対して、毎週放送がある連続ドラマは撮影から編集、放送までが短期間で進む。「撮影後の色調整に割ける時間が限られているので、撮影段階で映像のルックをある程度仕上げるVEが必要なんです」と、制作の裏事情に言及。短い制作時間で、クオリティを落とすことなく効率重視で制作する連続ドラマにとって、VEは欠かせない存在なのだ。

本作では、連続ドラマの新たな挑戦としてVFXやLEDパネル背景などの最新技術がふんだんに使われており、岡村氏もそこへの対応が求められた。ときには映像のほとんどがVFXで、リアルな風景が一部だけの場合もあるという本作での作業は、岡村氏が思わず「めちゃくちゃ大変で…(笑)」とこぼすほど。特に第1話での端島の屋上のシーンでは、前述のLEDパネルを使用して撮影しており、外の風景と違和感なくつながるように。さらに、外で撮影した映像のように見せるのが難しかったという。映像をマッチングさせるため、その場で光の方向や強さを照明スタッフと試行錯誤するほか、「より自然な映像になるように、空が明るすぎる場合には青の彩度を下げたり、手前のキャラクターが引き立つように背景全体の色味を抑える作業を行いました」と、撮影後の調整にも余念がない。

さらに驚くべきことに、ドラマ制作では撮影場所によって機種やメーカーが異なるカメラが使われているという。カメラは、メーカーによってそれぞれの性能や特色が映像に出るもの。岡村氏はそれぞれのカメラの持つ特性を理解したうえでトーンを統一する必要があり、モニターで見る色味に差が出ないように、そのカメラに合った設定を事前に調整して撮影に臨んでいるという。私たちが普段何気なく見ている映像には、彼らの見えない努力の積み重ねが隠れているのだ。

ドラマへの愛が導いたVEの道…岡村氏のキャリアと挑戦の軌跡

シネマティックな映像で描かれている本作だが、岡村氏自身もそのクオリティを強く意識をしている。「塚原監督は映画制作の経験も豊富で、たくさんのカメラマンとも仕事をしてきた方。これまで数々の映像を見てきているからこそ、それらに負けない映像を目指すぞ…という思いもあり、一種のプレッシャーを感じています」と心境を吐露。塚原監督と新井順子プロデューサーが手掛けた『MIU404』『着飾る恋には理由があって』などに加えて、映画『ラストマイル』も担当したという岡村氏は、さらなる映像美を追求するため妥協なく目の前の作品に向き合っている。

そんな岡村氏がVEを志した理由は“ドラマが好き”という純粋な思い。「映像を学び始めた当時、カメラマン志望の競争率がとても高くて(笑)。それに、自分はカメラマンや編集者には向いてないと思って、VEとしての道を選びました」とキャリアを振り返る。しかしその後、時代の変化とともにVEの仕事も進化し、編集室での調整作業にも携わるようになった。「当時は自分が編集室にこもって作業するなんて想像もつかなかったのですが、時代の変化によって求められることは変わる。それに対応していく力も必要だなと感じています」と仕事への姿勢を語ってくれた。

監督やスタッフとともに、過去と現代を巧みな色使いで表現するVE。その手腕は、進化する技術や制作環境の変化にも柔軟に対応しながら、ドラマの世界観を守り抜く。彼らの存在があるからこそ、視聴者は画面の向こう側に広がる世界を臨場感を持って体験できるのだ。

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