かつて、日本にも驚異のストライカーが存在した。
釜本邦茂である。
公称179cm。いやいや、180cmの筆者より明らかにでかい。全体的にがっちりしており、釜本に反則覚悟のタックルを仕掛けて逆に跳ね飛ばされた都並敏史(現ブリオベッカ浦安監督)は、次のように語っていた。
「まるで樫(かし)の木にブチ当たったかのようだった」
右45度からのシュートは強烈、かつ正確。ヘディングも無敵に近い。日本サッカーリーグで7回、1968年のメキシコオリンピックでも得点王に輝いた猛者だ。肝炎さえ患わなければ、日本人初のプロサッカー選手になっていたに違いない。
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「しょせんアマチュア」との指摘も聞こえてくるが、「史上最強の日本人ストライカーは誰か?」と問われれば、筆者は釜本邦茂一択だ。
マンチェスター・シティのアーリング・ハーランドは194cm・88kg。高度なスピードとテクニックを併せ持ち、なおかつ守備面にも貢献する大型日本人ストライカーは、今のところ見当たらない。
来年1月、プレミアリーグの列強が獲得を目論むヴィクトル・ギェケレシュ(スポルティング)は187cm・90kg。力強さではハーランドに及ばないものの、決定力は同等で、俊敏性では上回る。彼もまた特殊能力者のひとりだ。
残念ながら、日本人にこのタイプは存在しない。ほかの競技を見渡しても、ロサンゼルス・ドジャーズの大谷翔平、プロレスラーのオカダ・カズチカなど、大型の有能アスリートは数少ない。
ただ、ハーランドやギェケレシュは稀有な例であり、世界のトップランクに位置するストライカーが特に大きいわけではない。キリアン・エムバペ(レアル・マドリード)は180cm、ラウタロ・マルティネス(インテル)は174cm、リバプールのモハメド・サラーは175cmだ。
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彼らはスピード、ポジショニング、ペナルティボックス内の狡猾さでゴールを量産する。3選手とも体幹が強く、強度の高いチャージにもバランスを崩さない。さらに、常時ゴールを意識したプレーを選択することによって、コンスタントに得点の快感に酔いしれる。見ていて楽しいストライカーだ。
【来年1月の移籍市場で動く可能性も】
また、今シーズンのプレミアリーグで8得点のブライアン・ムベウモ(ブレントフォード)は176cm、同僚で7得点を挙げているヨアヌ・ウィサも176cmと上背には恵まれていない。1シーズンふたケタ得点が約束できるソン・フンミン(トッテナム)も183cm。超大型ではない。
こうした事実をふまえると、決して大柄ではない日本人ストライカーがプレミアリーグで活躍できる可能性は十二分にある。胸が躍るじゃないか。
では、ストライカーとしての特殊能力の開花が期待できる23歳以下の選手を探っていこう。
ブレンビーの鈴木唯人(23歳/175cm)はすでに日本代表だ。センターフォワードの一番手を上田綺世(フェイエノールト)とするのなら、小川航基(NEC)とともに二番手を争う存在。今シーズンは17試合6ゴール。所属するブレンビーでも監督、同僚の信頼を集めている。
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彼のストロングポイントは、マーカーを無力にする絶妙のファーストタッチ、スピード豊かなドリブル突破、そして厳しいチャージにも屈しない強靭なフィジカルだ。特に頑健な肉体にはヨーロッパの列強も注目しており、この夏には移籍がささやかれもした。
「あまりにもアンフェアな額だった。ユイトを甘く見るな」
ブレンビーのディレクターを務めるカールステン・イェンセンもオファーを認めつつ、決して安売りしない覚悟でもあることを明らかにしている。
いずれにせよ、移籍市場のレイダーが鈴木を捉えた。デンマークリーグよりもレベルの高い戦場に身を投じれば、先述したストロングポイントが牙をむく可能性は大きくなる。移籍市場が再開する来年1月に適正価格のオファーが届いた場合、積極的に耳を傾けるべきだ。
ボルシアMGの福田師王(20歳)は、178cmと長身ではないものの、天性のジャンプ力を利した高い打点のヘディングがストロングポイントだ。3年前、英国の有力紙『ガーディアン』がネクストジェネレーションのひとりに選んだことでも、そのポテンシャルがうかがい知れる。
福田のようにヘディングが強みのアタッカーが成長すると、日本代表の強化に直結する。ここ数年、前線のストロングヘッダーを欠いているだけに、彼の成長が待ち遠しい。名門ボルシアMGで研鑽を積む20歳の若者が、日本サッカーの行方を握るかもしれない。
【オランダで赤マル急上昇中の19歳】
いわきFCの熊田直紀(20歳/181cm)も、天性のジャンプ力を利した空中戦に秀でている。クロスに飛び込むタイミングも申し分ない。
「筋トレが好きです」と公言するように、日々の鍛錬を惜しまない。ただ、過剰なトレーニングと栄養の摂取が、サッカーに不要な筋肉を身にまとうリスクも小さくはない。監督やコーチのアドバイスに耳を傾け、適度な休養を挟みながらプロ仕様の身体を作ることだ。
今年1月、FC東京からベルギーのゲンクにローン移籍したのち、8月にはいわきFCに新天地を求め、ややトーンダウンした印象もある。しかし、まだ20歳。若い時の苦労は買ってでもせよ──との諺(ことわざ)もある。2023年のU20アジアカップでは5得点で得点王に輝いた。熊田の決定力は伊達ではない。
さて近ごろ、NECの塩貝健人(19歳/180cm)の名前が突如としてクローズアップされている。
今シーズンからオランダのNECでプレーする19歳の新進気鋭は、10月29日のカップ戦、ズヴォレ戦で衝撃的なゴールを決めた。ペナルティボックス内の右端で、塩貝はボールに追いついた。ゴールとの角度をふまえると、プレーの選択肢はクロス。ところが彼は、ニアサイドを強烈にぶち抜いた。GKは一歩も動けない。
この強引さこそが、いい意味での自己満足感こそが、日本人ストライカーに求められて久しい感覚だ。シュートを撃つ場面でパスしたり、周囲を見回したり、ペナルティボックス付近になると「石橋を叩いても渡らない」者が少なくない。
相手守備陣が最も嫌がるのは、多少ラフでも積極的にシュートを撃つ荒くれ者だ。決断力に乏しいタイプは簡単に対応できる。塩貝は生まれながらにして、ストライカーの要素をすべて備えているのかもしれない。
現在の日本代表は高度な技術を誇っている。12月1日現在でFIFAランキングは15位。多くの主力が年齢的にピークを迎える2026年の北中米ワールドカップでも、世界をさらに驚かせるかもしれない。
ここに、ひとりでも肉体派のストライカーが加われば、さらにさらに驚かせることも十分に可能だ。鋼の肉体を持つ若者の覚醒に期待する。