韓国の尹錫悦大統領が「非常戒厳令」を一時出したことを受け、日本政府は事態の推移を注視する方針だ。政治的な混乱は当面続くとみられ、改善が進む日韓関係への影響は不可避な情勢。政府内には尹政権の先行きを危ぶむ声も出ている。
「特段の、かつ重大な関心を持って注視している」。石破茂首相は4日、韓国の政情不安を受けて記者団にこう説明。来年1月上旬で調整している自身の訪韓に関しては「何ら具体的に決まっているものではない」と述べるにとどめた。
この後、首相は首相官邸で林芳正官房長官、岩屋毅外相、中谷元防衛相と会談し、韓国情勢への対応を協議した。
戒厳令の発出は1987年の民主化以降初めて。日本政府内からは「驚いた」「想定外」との声が上がっており、尹氏の狙いを測りかねているのが実情だ。
来月の首相訪韓については、実現は難しいとの見方が一気に広がった。政権幹部は「韓国の様子を見ないと調整もできない」と語り、外務省幹部は「無理だ」と断言する。
超党派の日韓議員連盟は今月中旬に予定していた訪韓の取りやめを急きょ決定。議連幹部は「この情勢では行けない」とため息をついた。
日韓は来年、国交正常化60年の節目を迎える。日本としては尹氏の下で関係改善の流れを維持したい考え。尹政権が元徴用工問題の解決策を打ち出したことが契機となり、首脳の相互訪問「シャトル外交」が再開し、北朝鮮の動向を踏まえた日米韓防衛協力が進んだ経緯があるためだ。閣僚経験者は「尹氏だから改善できた」と指摘する。
しかし、戒厳令が「不発」に終わったことで、「尹政権は持たない」(自民党ベテラン)との観測も日本側に少なくない。尹氏が辞任に追い込まれれば、韓国側が元徴用工や元慰安婦の問題などで再び対決姿勢に転じ、日韓関係が急速に悪化するリスクもはらむ。
「政権が代われば歴史問題はちゃぶ台返しだ。日米韓の連携も難しい」。日本政府筋はこう漏らした。