将来起こり得る親の介護や看取り、それにかかる費用、そして相続の心配。今は大きな不安がなくとも、年老いた親の健康や生活は常に気がかり……。そんな悩みを抱える人は多いはず。
親が元気なうちのほうが始めるメリットが大きい
「でも、大丈夫!それらすべて“実家片づけ”を行うことで解決できます」
そう力強い言葉をくれるのは、片づけのプロとしてこれまで1500人以上の家の片づけを成功に導いてきた石阪京子さん。人生100年時代といわれる今、親も子も健康かつ幸せに生き抜くために、実家の片づけは欠かせないと話す。
「そうはいっても、親のことが気になり始める50代は、仕事や子育てなどで忙しい世代。実家のことが後回しになるのは仕方がありません。親が元気であればなおさら。
実家の整理は、親が亡くなってから、もしくは介護が始まるときに……とぼんやり考えている人も多いと思います。でも、親が自活できているうちに行うほうが、格段にメリットが大きいです」
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石阪さんが「親の健康なうちに実家の片づけを!」と強くすすめる理由は大きく3つ。
1つ目は、お金の安心。
「急な入院や介護が必要になったとき、親が加入している保険も預金通帳などの場所もわからず、かかった費用をすべて出すことになったという人はすごく多いです。親の財産を把握するということではなく、片づけをきっかけに必要なものの“在り処”を共有しておくことでいざというときに慌てません」
また、親任せにしていたら、高価な貴金属類を不用品回収会社へ二束三文で売却していたという事例も。知らないうちに大損をしている可能性もある。
2つ目は、時間に余裕があること。日々の生活に追われている現在のほうが時間に余裕がないと感じるかもしれないが、必要に迫られてから片づけを行う際は、“いつまでに”というスケジュールの制約ができるため過酷さがアップする。
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例えば親が亡くなった場合、10か月以内に相続税の手続きが必要となるので、それまでに必要書類をそろえるといった作業を終えなければならない。
「どこに何があるかわからず、仕事を休んで何度も帰省するハメになったという人も。親が賃貸住宅に住んでいた場合は、1日でも早く片づけて退去しなければ家賃を払い続けることになります。自分で片づけていては間に合わず、仕方なく業者に頼んだら何十万円もかかったという例もあります」
最後は、片づけによって今後の親の生活の質を上げられること。室内を歩きやすいように家具の配置をかえたり、高いところに物を置かないようにすることで事前にケガを防ぐこともできる。
「家の外まわりの片づけは空き巣などの抑止になります。親が安全で元気に過ごせる空間をつくることは、いちばんの親孝行。さまざまなトラブル回避につながるので、子どもにとっても安心です」
親子だからこそ、優しい言葉で片づけを促すべし
とはいえ、一筋縄ではいかないのが“実家片づけ”。石阪さんは、自分の家の片づけと違い、“親子だからこその難しさ”があると指摘する。
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「いざ片づけようと思っても、“親が話を聞いてくれない”という相談は非常に多い。帰省して久しぶりに会う親と無駄にもめるのが嫌だから諦めたという悩みもよく聞きます」
石阪さん自身も“片づけなんて必要ない”という父親と対峙(たいじ)し、心が折れそうになった経験を持つ。
「母の介護が始まり、必要に駆られて実家の片づけを始めようと父に提案しましたが、まったく聞く耳を持ってくれませんでした。介護ベッドを入れる空間をつくるため、大きな家具を処分したいと言っても“もったいない”の一点張り。
娘の言うことだから少しは話を聞いてくれるだろうと高を括(くく)っていましたが、むしろ逆!娘だから聞いてくれないのだとわかりました」
いつまでたっても親は親、子は子。たとえ親自身が片づけの必要性を感じていたとしても“子どもに言われたくない”というプライドが枷になるのだ。
さらに、きょうだい、同居世帯も多かった親世代のほとんどが“実家の片づけ”と無縁だったことも簡単に理解してもらえない理由だ。スムーズに進めるためには“親の側に立つマインド”が必須だと石阪さんは語る。
「物であふれすぎていると、つい“捨てて!”と言いたくなりますが、そこはグッとこらえて。“最近、友達のお母さんが家の中でつまずいて骨折したから、私も心配。少し整頓してもいい?”といった優しい声かけにするとうまくいきます。
“どうせ使わないでしょ”ではなく、“今、結構な値で売れるらしいよ”など親が手放すことにメリットを感じるような提案に変換するのも手。いつまでも元気で楽しく長生きしてほしい、そのための片づけなんだよ、というメッセージを伝えながら行うことが大切です」
焦らず、気長に片づけを楽しむことが成功の鍵
“見た目にキレイな部屋”を片づけのゴールにしないことも重要だ。
「片づけの目的は終活ではありません。安心・安全に暮らせることを前提に、親が余生を楽しく過ごせる場所でなくては意味がないと思います。スッキリさせたいからといって殺風景な部屋にするのは避けてほしい。
また、片づけのタイミングやスピードも親に寄り添う心がけを。帰省時にできるだけ進めたいという気持ちはわかりますが、気になるところから少しずつ進めたほうがうまくいきます。そのほうが自然と親も片づけモードになっていきますよ」
さらに、親の健康状態やできることも年を追うごとに変化するので、“1度やれば終わり”ではないと留意する。
「足腰が弱くなったり、食事を作るのが困難になったり、介護が必要になったり……。その時々の親の状態に合わせる形で実家の片づけは続きます。だから大変。でも、片づけをすることでお金の不安がクリアになり、親の心身の健康と安全を守ることができるのですから、結局は自分のためになると腹を括ってやるしかない!
それに、片づけをしながら“子どものころ、この皿でよくホットケーキ食べたよね”など、物を介して思い出を共有するのは、何物にも代えがたい親子の時間になりますよ。特に年末の帰省はよいタイミング。大掃除の手伝いを口実に実家の片づけをスタートしてみてください」
実家片づけの心得7か条
1:片づけの目的とメリットを伝える
「生前の片づけ=終活と捉えてしまう親世代も。片づけは、これからも自宅で健康に楽しく暮らし続けるためにお金や物を整理する手段だとしっかり伝えることがポイント」
2:見た目のキレイを重視しない
「オシャレで整った状態を目指すのではなく、親が快適に過ごせるかどうかを指針にすること。毎日欠かさず飲む薬などは収納せず、机の上などあえて見える場所に置き場をつくる」
3:大変でも結局は自分のためになると理解する
「親を説得し、休日を返上して片づけをするのはかなりの労力。でも、先延ばしすれば数倍もの骨折り仕事になって降りかかってきます。将来起きる苦労の先払いだと考えましょう」
4:一気にやろうとしない
「年齢を重ねると生活空間の大きな変化が負担になりかねません。少しずつ進めることが大事です。毎日使う台所は片づけの効果を感じやすいので、最初の一歩におすすめです」
5:親にとって大事な物は大事にする
「不用だと思っても、無理に手放すことはせず、生活の邪魔にならない場所に保管すること。親は“私の気持ちを大事にしてくれている”と感じ、片づけが進めやすくなります」
6:片づけ状況はきょうだいと共有する
「勝手に片づけを進めると実家にある貴金属やブランド品などを独り占めしていると疑われることも。一緒に作業をせずとも、もめ事を回避するために状況を動画に残して共有を」
7:親の説得は1度や2度で諦めない
「親が“片づけようかな”と思うまで、何度もコミュニケーションを図ることが大切。また、帰省時に急に提案するのではなく、事前に電話などで伝えるほうがうまくいきやすいです」
教えてくれたのは……石阪京子さん●片づけアドバイザー。絶対にリバウンドしない独自のメソッドで多くの支持を得る。自身の経験をもとに実家片づけのノウハウをまとめた著書『実家片づけ「介護」「看取り」「相続」の不安が消える!』(ダイヤモンド社)も。
取材・文/河端直子