『L.A. TIMES』公式・独占本『OHTANI’S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』より大谷翔平 写真:WILFREDO LEE/AP通信 シーズン50本塁打、50盗塁(50-50)。ドジャースの大谷翔平が米大リーグ(MLB)初の大記録を成し遂げたのは9月20日。それも6打数6安打、3本塁打、2盗塁10打点という凄まじい活躍での到達だった。
【写真】名場面…始球式での大谷翔平&デコピンのハイタッチ エンゼルスへの移籍前から大谷の取材を重ねてきた、アメリカ最大の日刊紙でドジャースお膝元の地元紙・Los Angeles Times(ロサンゼルス・タイムズ)は、5000字超に及ぶロングリポートを掲載。ドジャースの監督・コーチ・チームメイト、相手チームの監督などからコメントを引き出し、この歴史的瞬間の裏側を詳細に描いた。
地元紙ならではの肉薄した視点から、100点を超える写真と13万字以上の詳述で大谷の足跡を記した「L.A. TIMES」公式独占本『OHTANI’URNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』(L.A. Times編/児島修訳、サンマーク出版刊)。今月24日の日本発売を前に、本書から「50-50」達成の歴史的瞬間を描いたリポートの一部を届ける。
■本文(一部抜粋)
(ジャック・ハリス 2024年9月20日)
6回の打席が、転機だったのかもしれない。おそらくこの試合、あと2回しか打席は回ってこない。この日に「50-50」を実現するには、この打席でホームランを打たなければならない(この時点で48本塁打)。
右投手のジョージ・ソリアーノの投げた変化球が、甘いコースにすっぽ抜ける。大谷は内角のスライダーを力強く打ち返し、打球が右中間の最上階に向かって舞い上がるのを立ち止まって見つめた。
438フィート(約133.5メートル)の特大ホームラン。2001年にショーン・グリーンが樹立した球団記録に並ぶ49号だ。
次のイニングで、グリーンはこのリストの2番目に順位を下げることになる。
「ショーン、すまない」と、元ドジャースのチームメイトとして、2002年にミルウォーキーでグリーンが4本塁打を放った歴史的な試合を目撃したロバーツ監督は、試合後に冗談交じりに言った。「まったく、こんなことは見たことがないね」
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前日・水曜日の夜、相手マイアミ・マーリンズの投手マイク・バウマンの「大谷攻略法」は成功していた。
ドジャースが8対4で勝利したこの試合、2アウトランナー二塁の場面で、バウマンは大谷に速球を2球投げて2ストライクを奪い、続いて地面すれすれのカーブで三振を奪取。この29歳の投手が2度のMVPに選ばれた大谷をアウトにしたのは、キャリア4度の対戦で初めてのことだった。
木曜の夜、7回表の再戦で、バウマンは同様の攻略法を試みる。彼が大谷への勝負を許されたのは、相手マーリンズの監督の指示のおかげだ。
この試合、ドジャースがすでに11対3でリードし、一塁は空いていた(2アウト、ランナー二三塁)。「50-50」への挑戦の最中ではあるが、大谷をここで敬遠してもおかしくない場面だ。
しかし、マーリンズのスキップ・シューメーカー監督は腕を組んだまま、ベンチに向かって強い口調で自らの決断を伝えた。彼は試合後にその理由を説明した。
「あの場合、野球的に考えても、因果応報的に考えても、野球の神様的に考えても、彼を敬遠するのはよくないことだ。勝負を挑んで、アウトにできるか試すしかない」
反対側のベンチでは、ドジャース関係者がシューメーカー監督の決断を評価していた。
「彼は、ファンやショウヘイから、その瞬間が起こる可能性を奪うことの意味を理解していた。敬意を表するしかないね」とロバーツ監督は語った。
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大谷は毎打席しているように、三塁線の延長上の地面にバットを置き、後ろ足の位置を確認した。
1球目、カーブをファウルチップ。
大勢の観客たちは立ったまま、拍手と歓声を上げ、その瞬間をカメラに収めようとしている。大谷は表情を変えずに、投球の合間にバットを触っている。
2球目、高めの速球。後ろへのファウル。カウントは0-2。大谷はタイムを取り、ヘルメットを脱いで髪に指を通した。再び打席に立った大谷に、バウマンは決め球となるスピンを効かせたボールを準備していた。前夜と同様に、2ストライクから低めのカーブ。しかし今回は、大谷は手を出さなかった。
ワイルドピッチ。ドジャースに得点。
バウマンはひるむことなく、もう一度カーブを投げた。だが、このカーブは効きが弱かった。
甘く入って来た絶好のボールを、大谷のバットが思い切り叩いた。
50号ホームランは、逆方向へのスタンドに向かってロケットのように飛んでいった。打球速度は109.7マイル(約176.5キロ)で、飛距離は推定391フィート(約119.2メートル)。
「ファンと同じような気持ちでその様子を見ていたよ」とネクストバッターズサークルでその光景を目の当たりにしたムーキー・ベッツは語った。
ベースを回った大谷が、チームメイトから抱擁を受ける。テオスカー・ヘルナンデスからお決まりのひまわりの種のシャワーを浴び、観客からは大歓声が上がった。
「最高だった」とヘルナンデスはその雰囲気について語った。「観客の数以上の、すごい盛り上がりだった」
チームメイトにカーテンコールにこたえるよう促され、大谷はダグアウトの外に出た。次の打席のピッチクロックが切れる直前だった。
だが大谷が階段を上り、スタンドに向かって右手──来シーズンは再びピッチングがしたいと願っているその手──を振った瞬間、バウマンはマウンドを外してピッチクロックがカウントされないようにし、大谷にカーテンコールにこたえる時間を与えた。
球審のダン・イアソニャは、ピッチクロック違反を無効にする合図を出した。
「野球にとっては良い日だった」とシューメーカー監督は後に語った。「マーリンズにとっては悪い日だったけどね」