元女性の夫が4歳の娘に“秘密”を打ち明けた際の“意外な”反応「僕が男とか女とかは関係なかった」

0

2024年12月15日 07:00  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

谷藤ちさとさん、谷藤久良良さん

 生まれながらの自分に違和感を感じて戸籍を変更し、性別適合手術も受け、シングルマザーのちさとさんと結婚したのが元女性の久良良さん。双方ともさまざまな苦労があったものの、同じような悩みを抱える人や、生きづらさを感じている人たちに寄り添うようなSNSを発信している2人の笑顔の秘訣とは―。

『3年B組金八先生』を見てひとつの答えにたどりつく

 滋賀県でハウスクリーニング「にっこりピカリン」を営む谷藤さんご夫妻。夫の谷藤久良良(くらら)さんは、隅々までキレイにする丁寧な清掃技術に定評があり、妻のちさとさんは広報を担当。

 彼の仕事の様子をSNSに投稿し、個人アカウントでは娘の楓花(ふうか)さんを交えて仲むつまじい家族の日常を発信している。

 一見、ごく普通の仲良し家族に思える谷藤ファミリーだが、一家の大黒柱である“くらさん”こと久良良さんは、元女性! 身体的な性別と心の性が一致しない、トランスジェンダーの女性だった。

僕は43歳のときに、性別を女性から男性に変えました。血のつながった兄もいますが、戸籍の性別を変えると僕も“長男”になるそうです。おもしろいですよね」(くらさん)

 彼が自身の生まれついての性別に違和感を抱いたのは、幼稚園児のころだった。

当時は女の子たちとのお人形遊びに興味が持てなくて、男の子と遊ぶほうが楽しかったんです。母にスカートをすすめられても絶対にはきませんでしたが、卒園式で叔母が買ってくれたワンピースをどうしても着なければならず、すごく嫌だったことを覚えています。性別について深く考えないような年頃から、女の子らしいものに抵抗感を覚えるなんて不思議ですよね

 小学生のころには同じクラスの女子に恋をするも、その思いは胸に秘め続けた。思春期には身体が女性になっていく現実と向き合えず、バスケットボールに熱中したという。

 長年、自らの性別に疑問と不安を抱えていたくらさんが、ひとつの「答え」にたどり着いたのは、30歳のとき。

有名な学園ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系、第6シーズン、2001年)で、“性同一性障害”に悩む中学生を上戸彩さんが演じていて、ドラマを見たときに『これだ! ようやくわかった!』と叫んだのを覚えています。自分の違和感に名前があるのも知らなかったし、同じ悩みを抱えている人がほかにもいるとわかり、ホッとしました

 その後、くらさんはセクシュアルマイノリティーに関する本を読みあさり、これまでの人生の“答え合わせ”をしていった。

同じころ、両親にもカミングアウトしました。父は性同一性障害という言葉を知らないはずなのに、すべてを理解したような表情で『おまえの人生だ。おまえの思うように生きろ。お父さんは、何かあったらすぐにバックアップする』と言ってくれたんです

性別を変えても名前を変えなかった理由

 その日を振り返り「受け入れてもらえて、本当にありがたかった」と語るくらさん。

性同一性障害の人の中には『親に認めてもらえない』『親族と縁を切った』という人も多く、僕はとても幸せなケースだと思います。人によっては、戸籍が変わると同時に男性名に変えて、女性だった過去を抹消する人もいる。

 でも僕は、父が名づけてくれた『久良良』という名前が好きだし、女性として生きた過去があるから今の僕がいる。性別を変えたときも、名前を変えようとは思いませんでした

 何より「久良良って名前、カッコ可愛いでしょ」とにっこり笑うくらさん。苦悩の末に手に入れた“自分らしさ”は、彼の人生の軸となっている。

 そんな彼が、性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変える決断をした理由はただひとつ。愛する人たちと“家族”になるためだった。

妻のちーさんと出会ったのは、以前、僕が店長を務めていた飲食店。そこでパートとして採用したのが彼女でした。当時、ちーさんは離婚したばかりで、ひとりで娘を育てなければならない状況。ぜひ頑張ってほしいと思い、採用しました

 出会ったころはちさとさんに対して特別な感情を抱いていなかったが、仕事で顔を合わせ、連絡を取り合ううちに惹かれていった。そのころの彼は男性ホルモンを注射しており、顔や身体つきは“男性”そのもの。ちさとさんも「普通に男性だと思っていた」と話す。

くらさんが性同一性障害であることや、私への好意を告白してくれたときは本当に驚きました。私自身はLGBTQの知識もないし、どう接すればいいのかわからなかったんです。でも、そのとき、すでに彼のことを“人として好き”になっていたし、そばにいたかったので、お付き合いを決めました。

 交際を通していろいろなことがわかってきたので、いつの間にか不安もなくなりましたね。くらさんは私よりも女子力が高いんですよ(笑)。娘の楓花ともすぐに打ち解けました」(ちさとさん)

 そして2人は当時4歳の楓花さんに、くらさんの秘密を打ち明けることに。その事実を知った彼女の反応は、意外なものだったという。

僕が女であることよりも“自分だけ伝えてもらえていなかったこと”のほうがショックだったようで『なんでもっと早く言ってくれなかったの!? 私だけ仲間外れにしてずるい!』と怒りだしたんです。娘にとっては、僕が男だろうと女だろうと関係なかったんですよね。それからは、どんなことも3人の間で共有するようになりました」(くらさん)

価値観にとらわれない人が増えれば

 そうして、ちさとさん母娘と一緒に過ごすうちに「愛するちさとと結婚して、楓花の父親になりたい」という思いが強くなったくらさん。現行の法律では同性婚は認められていないため、戸籍の性別変更を決めたという。

くらさんが性別を変える前に3人で私の実家に行き、結婚の意向を両親に伝えました。実は両親ともに交際前から彼とは顔見知りで、くらさんが女性であることも私から伝えていたんです。ただ、母はいわゆる“オネエタレント”に苦手意識を持っているタイプの人だったので、結婚を許してくれるのかどうか、わかりませんでした」(ちさとさん)

 くらさんが、緊張の面持ちで「娘さんと結婚させてください」と結婚を申し出ると、両親は微妙な表情……。そんな空気を打ち破ったのが、楓花さんだった。

楓花が突然歩きだして、くらさんのひざの上にちょこんと座ったんです。両親は、楓花が彼を慕っている様子を見て『ダメとは言えないし、いいとも言えないけど……わかったよ』と言ってくれました。今では笑い話ですが、あのときは娘が前に進むための扉を開けてくれましたね」(ちさとさん)

 谷藤家のキーパーソンは楓花さんにほかならない。無事に結婚の許しを得たくらさんはタイに飛び、性別適合手術を受けて子宮と乳腺を摘出。帰国後、医師から性同一性障害の診断を受けた後に戸籍を変更し、ちさとさんと結婚して楓花さんを養子に迎えたのだ。

 現在、家族の日常をブログやSNSで発信しつつ、全国で講演も行っている谷藤夫妻。今後もさまざまな方法で多くの人と交流したい、と話す。

メインのハウスクリーニング業は、くらさんの天職。チャッチャッと済ませるのではなく、時間はかかるけど、こまやかで丁寧な仕事をしています。お客さんも“元女性なので話しやすいし、安心してお願いできる”と話していました。また、彼は聞き上手なので、クリーニングが終わっても長時間話し込んでしまう方もいますね」(ちさとさん)

 技術力はもちろん “元女性”という過去も強みになっているのだ。

SNSや講演活動の目標は“娘のような人を増やす”こと。僕がいる環境で育った楓花は、生まれつきの性別にこだわることはなく、家族には愛情や思いやりが何より、という考え方が、自然と身についています。僕らの講演を聞いて、楓花のようにこれまでの価値観にとらわれない人が増えれば、より多くの人が生きやすくなるはず。手始めに47都道府県での講演を目指しています!」(くらさん)

 家族の幸せのかたちに“決まり”はない。ハイブリッドな谷藤ファミリーから目が離せない!

取材・文/大貫未来

谷藤久良良さん 1978年生まれ。2015年に性別適合手術を受け、戸籍の性別を男性に変更。ちさとさんと結婚し、ステップファミリーに。現在はハウスクリーニング「にっこりピカリン」を経営。『超多様性トークショー!なれそめ』(NHK)に出演し話題に。ハウスクリーニングは「活動範囲は滋賀県大津市から100km圏内ですが、2月は東京のほうにも行きます!」とのこと。詳細は谷藤夫妻のSNSにて。

谷藤ちさとさん 1983年生まれ。パート先で出会ったくらさんと結婚。「にっこりピカリン」では広報を担当しつつ、ブログ『女×女×元女!?』やSNSにて谷藤家の日常を発信する。全国各地を飛び回り、夫婦ふたりで講演活動に励む。1月11日 岐阜県美濃加茂市、2月22日 東京都世田谷区で講演会を予定。

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定