一般論として、自分の“愛人”を仕事でも引き立てようとする男の心理とはどういうものなのだろうか。
「オレってすごいでしょ」アピール男
「私、以前、10歳年上の直属の上司と不倫していたんです。1年ほど付き合ったところで、上司は私をとあるプロジェクトのリーダーに押し上げた。でも当時、私は26歳で、仕事ができるタイプではなかったし、正直言って本気で仕事に取り組んでもいなかった。とてもリーダーの器ではないから断りましたよ。それでも上司は、半ば強引に私をその地位につけてしまった。『な、オレが一言口を利けば、きみを出世させるくらいのことはできるんだよね』と言われた時は、キモいと思いました。ただ自分の力を誇示したいだけで、組織のことも私のことも考えていない彼に対し、急に気持ちが冷めました」
苦笑しながらそういうのは、チサトさん(33歳)だ。上司としては彼女をリーダーにし、さらにその後もバックアップすることで自分の力を見せつけようとしたのかもしれない。だが、今になって振り返れば当時は彼もまだ30代の中堅どころ、それほどの権力はなかったはずだ。彼女に対して自分を大きく見せたかっただけだろう。
「オレの顔をつぶした」と激怒
結局、彼女はリーダーになって1カ月で自らその役を降りた。
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だけど私は彼の駒として動かされるのは嫌だった。部長に不倫のことも洗いざらいぶちまけて会社を辞めました」
もちろん彼との不倫も解消。さっさと転職したという。上司は降格となり、挙げ句、異動で地方の営業所に飛ばされたとチサトさんは噂で聞いた。公私を分けられず、不倫相手に自分の仕事上での権力を誇示する男は、仕事も恋もうまくはいかないようだ。
「愛人兼ホステス要員扱い」の会社役員
ブラック企業で働いていたマリさん(35歳)が、時々行くようになったバーで顔なじみになったのがサトルさん。当時、彼女は30歳、彼は50歳を越えたところだった。「私の仕事の愚痴も聞いてくれるようになり、彼なりに私の職場のことも調べてくれたりしたんです。知り合って半年ほどたったころ、酔いも手伝って彼とホテルに行っちゃったんです。そんな年上の人と、しかも不倫なんて……と思ったんだけど、関係を持ったらどんどん彼に惹かれるようになって」
彼は美術や芸術に詳しかった。マリさんはたいてい土曜日も出社して仕事をしていたが、彼から「これから美術館に行こう」と電話がかかってくる。仕事そっちのけで彼の元へ駆けつけたこともある。言われるがままに残業ばかりしても、ろくに残業代も入らなくて、そんな日常に嫌気がさしていた。
法的に許されないから労働基準局に訴えたほうがいいと彼に言われていたが、そのうち「そこを辞めてうちに来ないか」と言われるようになった。
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その後、彼の勤務先で簡単な面接を受けて転職した。彼女は営業職を望んでいたが、仕事は彼の「秘書」だった。
「秘書の仕事なんてしたこともないし、そもそも彼には秘書がいます。第二秘書みたいになったけど、仕事といえば彼の接待についていくこと。もとからいた秘書にしてみれば、私が愛人だと分かっていたでしょうね。会社が針のむしろみたいでした」
「1日中、一緒にいたいから引き抜いた」
彼に他の仕事をさせてほしいと頼むと、「僕は1日中、きみと一緒にいたい。だから引き抜いたんだ。そもそもきみは僕の私設秘書なんだから」と言った。つまり、彼が個人的に給与を払って彼女を雇うという雇用形態になっていたのだ。「愛人のお手当ですよね。しかも正しい愛人なら家を与えられて働かなくていいのに、私の場合は出社して恥さらしみたいに彼のそばにいるだけ。接待ではお酌させられて彼の愛人兼社外の人向けのホステス要員みたいなもの。ブラック企業よりひどいかもと思いました」
彼に悪気がないのが解せなかった。とにかくペットのように自分のそばに置いておきたかったのだろう。1年もたたずに彼女は、会社も不倫も自ら辞した。
「嫉妬深くて支配欲が強い」実業家
「とある実業家の男性と不倫していたことがあるんです。彼は嫉妬深くて、私が浮気するのではといつも疑っていた。自分が不倫しているから他人も信じられないんでしょう。私は彼を心から愛しているつもりだったけど、あまり信じてくれなかった」マイカさん(37歳)はそう言った。知り合って2年ほどたった頃、彼は突然、自分が経営している飲食店の店長になってほしいと言い出した。5年前のことだ。彼女は彼の経営するグループ会社に勤務はしていたが、本部採用で人材関係の仕事をしていた。飲食店店長は畑が違いすぎる。
「それでも、きみなら大丈夫だからと言われて、違う仕事にチャレンジするのもいいかなと全力で頑張ったんです。彼は心配だったのか、毎日顔を出して激励してくれて。半年くらいは苦労しましたが、1年たったころにはある程度、業績も上がった。すると副店長が『社長がたくさんサクラを回してくれたから』と、ふっとつぶやいたんです。
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「社長はあなたを支配したいだけ」
どういうことか聞いてみたら、『社長はあなたを支配したいだけですよ』って。みんな、私と彼が付き合っていることを知っていたし、『今は彼女に入れあげているんだ』と分かっていたんだそう。他にも女性はいくらでもいますからと副店長に言われてめまいがしました」彼は関係を持った女性たちに仕事でも責任を持たせて、自分から離れないよう、そして自分がいつでも支配できるようにしているのだという。副店長は「自分に実力があると思わないほうがいいですよ」と皮肉たっぷりに言ったそうだ。
「なんだか腹が立ちましたね。仕事で見返してやろうと思った。彼と私的な関係は断ちましたが、そのまま今も店長を続けています。本気で仕事をして、店独自のサービスも次々展開させてサクラが来なくても業績は上がるようになった。彼は今も『また恋人関係に戻ろうよ』と言ってきますが、それだけは固辞しています」
当時の副店長とは今は腹を割って話せる仲となっている。かつての男女関係を逆手にとっても、「私は仕事で、いつか彼に自分は間違っていたと言わせたい」とマイカさんは力強く言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))