《がん医療の壁》病院の“実態”を知る厚労省元技官に聞いた“再発がん”の乗り越え方と“名医の悪癖”

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2025年01月10日 07:30  週刊女性PRIME

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※写真はイメージです

 日本人の死因1位のがん。現在、日本ではがん患者が増え続け、それに伴い、がん患者の家族も増えているが、「患者さんやご家族に伝えたいことがある」と言うのは、厚生労働省でキャリア技官を務めてきた中村健二医学博士だ。

「がん患者さんは病院にダラダラといつづけてはいけません。特に再発や転移した患者さんは、治療を終えたらなるべく早く退院すべきです」

 中村先生は、慶応義塾大学医学部や米国イエール大学医学部大学院で学び、厚労省の技官として長年、がん医療の現場を行政面から支えてきた人物。その人がなるべく早く病院を出ろとはどういうことなのか、話を聞いた。

再発や転移したがんは“治せない”

 現在、がんの5年生存率はおよそ65 %。がん患者が10人いたら6〜7人は5年後も生きていることを示している。“がん=死の病”と考えられていたひと昔前と比べると格段に生存率が向上したが、“再発がん”や“転移がん”にはまだ大きな問題が残っているという。

「がんになっても手術して切り取れればいいのですが、近年、特に問題になっているのは再発や転移した患者さんです。高齢化が進み再発や転移した患者さんが増えていますが、そうしたがんは基本的に手術できず、抗がん剤によって延命するしかありません」(中村先生、以下同)

 それでも抗がん剤が効き続ければいいのだが、たいていはしばらくすると効かなくなり、使える抗がん剤の種類にも限りがあるため、いつかは主治医から「もう治療法がありません」と言われることが多い。その後は緩和ケア科に移ることになり、そこでは積極的な治療はせず、余命が短くなるのをただ待つことになるのだ。

「緩和ケアにももちろんいい面があります。医療用の麻薬などを適切に使える医師が痛みをうまくコントロールしてくれたり、メンタルケアなどでおだやかに死に向かう準備を整えてくれたりもします。でも、治療法がなくなったからといって、みんながみんな寝たきりというわけではなく、ピンピンしている人もいますので、治療をもっと続けたいと考える患者さんやご家族がいるのも事実です

 そういった人々が頼るのが“標準治療以外の治療”だが、そこにも問題があるという。

“いつか終わる”標準治療

 “標準治療”というのは、しっかりとした科学的な根拠(エビデンス)があり、専門医たちが何度も話し合って決めた現在考えられる最善の治療法のこと。これはもっとも大事な治療法なので、「標準治療が残っているうちはその治療を受けるべき」と中村先生はいう。

「ただ、再発や転移したがんは治療を続けるうちに『残念ながら標準治療がもう残っていません』と言われることが多いのです。標準治療では打つ手がなくなった場合に残っている選択肢のひとつが“標準治療以外の治療”です」

 標準治療は厚生労働省が認めた保険診療で行えるため、治療費の自己負担は1〜3割だが、“標準治療以外の治療”は全額自費だ。

「そういった治療は“保険診療”に対して“自由診療”と呼ばれていますが、がん治療においてもたくさんあります。たとえば、漢方やサプリや食事療法、ヨガといった民間療法に近いものもあれば、標準治療外の放射線治療や抗がん剤などもあります」

 でも、そういった治療はエビデンスがないから効かないイメージがあるが……

しっかりとしたエビデンスがないから標準治療に認められていないのは確かですが、エビデンスがないからといってやる意味がないとは限りません。特定の人にしか効果がないため標準治療になっていないものもあれば、がんの抑制効果はほとんどないけど生活の質を改善して患者さんの“生きる力”を支援するためにやったほうがいい場合もあります。

 患者や家族が金銭的に許容できる範囲内で行うのは自由であり、厚労省も自由診療の重要性は認識していて、それを支援するための仕組みもできつつあります。ですが、患者が望めば自由に治療法を選べるかというと、そうはいなかないのが現状なのです」

 たとえば、地域のがん拠点病院で抗がん剤治療をしていた患者さんが、「もう打つ手がありません」と言われて院内の緩和ケア科に移り、そこで、子どもが探してきてくれた漢方薬を自費でもいいから試したいと希望しても、主治医には「難しいです」と言われてしまうのだという。

 その理由は“混合診療”ができないから。混合診療というのは、保険診療と自由診療の両方を同じ医療機関で同じ患者に行うこと。緩和ケア科に健康保険を使って入院している以上、そこで漢方薬などの自由診療は原則的に行えないのだ。

あきらめられないなら退院して“在宅医療”に

 また、混合診療のルール以前に、話をまともに聞いてもらえない場合もあるという。

「『患者申出療養』や『評価療養』といった制度を設けて、国も自由診療を徐々に認めてきているものの、特に大きな病院は治療の効果判断が鈍るため標準治療以外を一切認めない傾向が強いです。そのため大病院の医師ほど標準治療を“神聖視”して、それ以外の医療をすべて“インチキ”だと考える癖があるので、漢方薬をがん治療として試したいという相談をまともに取り合ってもらえないことが多いと思います

 病院に入院しているとできない自由診療。それでも実践したい場合は、在宅医療や小さな専門クリニックへの通院に切り替えればいいと中村先生は言う。

「近年、がん患者に特化した訪問診療にも診療報酬がつくようになり、専門的な知識のある医師や看護師が自宅にきてくれるようになったので、基本的には大病院の緩和ケア科に入院していなくても心配いりません。訪問診療のクリニックは、病院とも連携しているので、いざというときには入院などのバックアップもしてくれます。

 また、標準治療が終わったとしても何かしらの治療を続けたいから少量の抗がん剤を投与してほしい、といった場合には、こちらも近年増えつつあるがん専門医が常駐している小規模なクリニックに通院して行うことも可能です。

 繰り返しになりますが、標準治療があるならその治療を最優先に受けるべきです。ですが、標準治療がなくなっても、まだ治療を続けたい、治したいと思っているなら退院すべきです。または通院している場合は在宅医療にしたいと主治医に伝えて切り替えるべきです。比較的大きな病院には『地域医療連携相談室』といった相談窓口があるので、まずはそこで希望を伝えてみてください。そこの相談員ならきっと相談にのってくれると思います

「地域医療連携相談室」は在宅療養や住んでいる地域への転院に向けて支援を行っている相談窓口で、病院によっては「地域連携室」や「医療連携相談室」、「地域サポートセンター」や「医療連携センター」といった名称になっている場合もあるという。

 大病院の医師が言うのだから……とあきらめないといけないわけではないのだ。入院していると自由に治療法を選べないという“保険制度上の決まりごと”が壁になっているのなら、上記の相談室を頼りにしてみてはどうだろう。

中村健二先生●医学博士。慶応義塾大学医学部、米国イエール大学医学部大学院で公衆衛生学修士、慶応義塾大学で医学博士を取得。25年間、厚生労働省技官(キャリア官僚)として臨床、研究、法制度の各面からがん治療にかかわる。

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