「性加害うやむやにして新作とか…」「絶対観ない」ヌード強要を告発された映画監督の“あってはならない対応”に批判殺到

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2025年01月11日 09:00  女子SPA!

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『時には懺悔を』公式サイトより
 2025年1月1日、映画『時には懺悔を』の公開が発表されたが、そこには中島哲也監督の「過去の問題」についての記述はなかった。「性加害をうやむやにして新作とかダメでしょ」「絶対に観たくない」といった多くの疑問と批判の声がSNSで寄せられたが、それから10日以上が経過してもなお、公式からのアナウンスはない。

 この問題は1人の監督および、作品に限った話ではない。送り手側が「向き合わない」どころか「無視」を絶対にしてはならない理由を、問題の概要をまとめた上で記していく。

◆過去の「ヌード強要」問題への回答はいまだになし

 中島監督の問題の中でも特に強く追求しなければならないのは、2014年の監督作『渇き。』に出演した元女優への「ヌード強要」問題に対して、制作側および監督の回答が今もなされていないことだ。

 告発者である元女優・A子さんの「週刊文春掲載の記事について」と題したnoteによると、事務所との間に「バストトップが露出されるヌード」のある作品には出演しないという契約を交わしていたはずだったが、プロデューサーからは「1日撮影を止めるのは300万円の損失」という言葉もあり、性暴力シーンの撮影に応じるしかなかったとのこと。現場で怯えて泣きながら過呼吸を起こしたA子さんを助けてくれる人はおらず、その時の恐怖と絶望感は言葉では言い尽くせないほどだったという。

 オーディションから撮影の瞬間まで、一度も監督からもプロデューサーからもヌードに関する明確な説明はなく、話し合いの末に中島監督からは「編集時に、事務所と本人にも参加してもらい、不都合なシーンは申し出てくれればカットするので、明日は絵コンテ通りに撮影させてほしい」との発言もあったのだが、その約束は反故にされたという。編集に関しての連絡がないまま試写会当日を迎え、劇場公開もされ、元女優は自殺未遂にまで追い込まれた。

◆パワハラの事実、過重労働での死亡事故の疑惑も

 さらに、2006年公開の『嫌われ松子の一生』では、主演の中谷美紀へのパワハラが問題視されている。中谷はゲスト出演した2015年放送の『A-Studio』(TBSテレビ)で、睡眠時間が1日1時間の日が続いていたこと、中島監督から怒鳴られ続け、「辞めろ」「殺してやる」などと毎日言われていたため涙が止まらなくなり、撮影を放棄したこともあったと明かしている。

 さらには『告白』制作中の2009年に、22歳の制作進行スタッフが撮影現場からスタジオまで制作トラックを運転して帰る途中での事故で亡くなり、その原因は過労によるものであろうという内容が、亡くなったスタッフの映画専門学校時代の友人を名乗る映画関係者のブログにつづられている(2015年に投稿され現在も公開されている)。

◆事実上「無視を決め込む」姿勢に

 これらの疑惑についてまったく説明がなされていないようでは、『時には懺悔を』でも中島監督やプロデューサーによる、同じような望まない撮影の強要、厳しい演技指導という枠に収まらないパワハラが、俳優やスタッフに対して続けられているのではないか、という疑念を晴らすことはできない。

 さらに、週刊文春の公式Xでは、「中島監督に質問状を送付すると、事務所が『中島監督の指示通り、御社からのメールは未読のまま破棄いたしました』とした」という投稿もあった。事実上、「無視を決め込む」という対応が監督側からなされてしまったのだ。

 憶測でしかないが、『時には懺悔を』発表の「元旦」というタイミングも、「鎮火」を狙ったもののように思えてしまう。ニュースメディアの多くが休みであり、「発表時にSNSで炎上しても、時間が経てば騒ぎは収まのだから何も言わないのがいちばん良い」と送り手側が判断しているようにさえ見える。事実、現時点でこの問題を取り上げていているニュースメディアは、片手で数えるほどしかいない。

◆過去事例では

「何も言わない」ことが(送り手側の立場からすれば)うまくいってしまった例もある。中島監督作以外では、2022年の映画『さかなのこ』で共同脚本を手がけた前田司郎は、セクハラと性加害の告発をされていたが、その問題は解決することなく、公式からの声明は何もなされていないままであり、ニュースメディアが取り上げることもほとんどなかった。

 一方で、新作の発表時に過去の問題に言及した例もある。『全員死刑』などで知られる小林勇貴監督は、2024年10月、“頂き女子りりちゃん”を題材にした短編映画『頂き女子』の製作の発表時に、2017年の映画『ヘドローバ』で成人男性の俳優が子役を殴打する過度な暴力演出があった問題について、「当時未成年の俳優に対して配慮に欠けた判断」があったとし、責任を感じたことから「撮影現場での事前の確認、透明なコミュニケーションを徹底するために、アメリカで映画制作者たちにインタビューを敢行し、そこで学んだ映画制作現場の安全管理や、チーム内の対話技術を日本の現場でも導入するよう日々励んでいます」と問題に向き合う姿勢を示していた。

 また、過激な性暴力シーンを映した2024年の映画『先生の白い嘘』では、主演の奈緒からインティマシー・コーディネーターの起用を希望されたのにも関わらず、三木康一郎監督が「すごく考えた末に、入れない方法論を考えました。間に人を入れたくなかったんです」とインタビューで答えたことが大バッシングを浴び、公開初日舞台あいさつで三木監督は謝罪し、原作者の鳥飼茜からの手紙が読み上げられた。

◆「何も言わない」「何も変わらない」で通るはずがない

 映像作品業界における問題に向き合う状況は、過渡期と言うのも早すぎるが、変化は少しずつ見えてきてはいる。だからこそ、過去に1人の元女優を自殺未遂にまで追い込んだ監督が復帰するばかりか、その新作の発表の際に「何も言わない」「何も変わらない」で通るはずがない。

 なお、『渇き。』はヌード強要の報道後に、ほとんどのサブスクリプションサービスで配信が停止しており、それは送り手側が問題を認知している証拠ともいえる。ヌード強要の当該シーンが映像として残されており、元女優への二次加害を防ぐためにも当然の措置でもあるが、それでも同作の送り手側からの声明は出されていないのだ。

 だからこそ、『渇き。』でヌード強要をされた元女優や、中島監督作に関わった俳優やスタッフへの負担をかけない、二次被害にならない配慮を前提にしつつ、『時には懺悔を』の関係者には過去の問題に向き合い、声明を出してほしいと願うばかりだ。

 それがなければ、少なくとも筆者個人は同作を観ることは絶対にできないし、それは映画業界や日本のエンターテインメント全般の信用にも大きく関わる、さらに深刻な被害や影響を及ぼす可能性がある。

 時には懺悔を、ではなく、はっきりとした声明の上で、ここで「変わる」ことを、何よりも願っている。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF

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