映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』ジャパンプレミアイベントに登壇したジェームズ・マンゴールド監督 (C)ORICON NewS inc. 「第97回アカデミー賞」において8部門でノミネートされている映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』のジャパンプレミアイベントが3日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで開催された。本作を監督したジェームズ・マンゴールドが来日し、満員の観客の前で舞台あいさつを行った。
【画像】若き日のボブ・ディランを演じるティモシー・シャラメ 『LOGAN/ローガン』(2017年公開)以来8年ぶりの来日となったジェームズ・マンゴールド監督。日本に戻ってきた気持ちについて「本当にこうして東京、日本に戻って来られて、とてもうれしく思っています。日本の映画コミュニティは熱量がすごく、映画文化が生き生きとしているのが魅力です。私はそんな日本の映画界が大好きですね。本作の音楽シーンも同じく情熱的なので、この作品を日本の皆さんと分かち合えることが、とても楽しみです」と語った。
本作は、1960年代初頭、後世に大きな影響を与えたニューヨークの音楽シーンを舞台に、19歳だったミネソタ出身の一人の無名ミュージシャン、ボブ・ディランが、時代の寵児としてスターダムを駆け上がり、世界的なセンセーションを巻き起こしていく様子を描いたもの。
ボブ・ディラン本人も本作の製作に協力しており、「ディランとは長い時間を共に過ごすことができました。まず脚本のリサーチを重ね、執筆したものを彼に読んでもらいました。すると、とても気に入ってくれて、“会おう”と言ってくれたんです。実際にお会いして、彼から本当にたくさんのことを学びました」と実際に会うまでの経緯を説明。
「もちろん、ディランについて書かれた本や資料から事実は得られます。でも、彼と直接話したことで、そうしたものには載っていない、もっと個人的で感覚的なことを知ることができました。例えば、“この曲を書いたとき、どこに座っていましたか?”とか、“どの時間帯に作業していましたか?”といった質問をしました。映画というのは、その時代や場所、空気感を伝える力に優れています。単なる事実だけではなく、“その場にいたとき、どんな気持ちだったのか”という感覚的な部分を伝えることが大切だと改めて感じました」と、本人と実際に会った時のことを思い出し、思いを馳せた。
また、 ディラン本人から「ここを入れてほしい」といった具体的なリクエストがあったのかという点については、「脚本やアイデアについて感想は伝えてくれましたが、“ここが抜けている”といった指摘は一切なかったですね。むしろ、とても協力的で助けてくれました。例えば、映画には『Masters of War(戦争の親玉)』という楽曲が登場します。この曲は6分もあるので、映画の中で全て流すのは難しいと思っていたのですが、ディランが“大丈夫、俺もライブで全部は歌ってないから”と言ってくれたんです(笑)。彼は作品に対して柔軟で、制作を後押ししてくれました。彼の言葉、彼の存在が、この映画に魂を吹き込んでくれたと思います」と、ディランの人柄が垣間見える話をしつつ、感謝の念をにじませた。
そんなディランの若い日を演じたのが、「アカデミー賞」主演男優賞にノミネートされているティモシー・シャラメ。「彼と一緒にこの作品を作ると決めたのが2019年でした。最初に彼に伝えた言葉は、“ギターを買ってください”でしたね。それから6年が経ちましたが、彼がこの役にどれだけの情熱を注いできたかは、映画を見ていただければ一目瞭然だと思います」と、絶賛。
ティモシーがどのように役と向き合っていたかといえば、「彼はコロナ禍や他作品の撮影を挟みながらも、ずっとボブ・ディランをどう演じるか、どう理解するかを探求し続けていました。このような伝説的な人物を演じる上で最も重要なのは、音楽がその人物の一部であるということ。ボブ・ディランは音楽そのものでもある。だからこそ、ティモシーが本物の音楽性を持ち、演じるのではなく“彼自身がディランになる”ことが必要でした。その点で、彼は完全にこの役を自分のものにしていました」と太鼓判を押す。
その確信を持った瞬間については、「特に印象的だったのが、映画冒頭の歌のシーンです。クランクインして最初の1週間で撮影したのですが、実際にライブの場で彼が歌い上げる姿を見て、“これは特別な作品になる”と確信しました。彼の演技が、ただの再現ではなく、本当にその空間を満たし、広がりを生み出していたんです。俳優が作品の世界を完全に支配する瞬間を見ると、監督としてほっとするものです」と話した。
最後に、観客に向けて「日本に来られて本当にうれしいです。こうして皆さんにいち早く本作をお届けできることを、心からうれしく思っています。ただ、映画を見る前にあまり長々と話すのは無粋でしょう。シェフが料理を振る舞う前にあれこれ説明しすぎるのと同じですからね(笑)。とにかく、まずは映画を味わってください!」と、メッセージを送り、笑顔で会場を後にした。
映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は2月28日より劇場公開される。「第97回アカデミー賞」には、作品賞をはじめ、監督賞(ジェームズ・マンゴールド)、主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、助演男優賞(エドワード・ノートン)、助演女優賞(モニカ・バルバロ)、脚色賞(ジェームズ・マンゴールド、ジェイ・コックス)、音響賞、衣裳デザイン賞の8部門にノミネート。授賞式は、現地時間3月2日、米ロサンゼルス・ハリウッドのドルビー・シアターにて開催される予定。