浮気を疑われて妻を轢き殺した77歳、暴言に激昂して夫を刺殺した62歳も。年末年始“高齢夫婦間の殺人事件”が3件連続発生。長年連れ添った配偶者に殺意を抱くまでに駆り立てたものとは……。その背景には、定年後に訪れる決して人ごとではない共通点が潜んでいた。取り返しがつかなくなる前に、小さな溝は直ちに修復を。
暮れもおしつまった昨年12月27日、東京都江戸川区で、浮気を疑われた夫(77)が、70代の妻を車で轢き殺したとして、殺人容疑で逮捕された。
その翌日、12月28日には、東京都国分寺市で、妻(62)が、夫(65)を果物ナイフで刺殺したとして、殺人の疑いで逮捕された。「愛人をつくった夫と口論になり、暴言を吐かれたためカッとなった」と妻は語っているという。
さらに、年が明けた1月19日、栃木県宇都宮市で、64歳の夫の胸を包丁で刺し殺害したとして、50歳の妻が逮捕された。このところ、熟年夫婦の間の殺人事件が頻発している。
心理学者で家族問題カウンセラーの山脇由貴子さんが語る。
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「年齢を重ねた夫婦間での殺人事件といえば、介護を苦にしたり、認知症が影響しての犯行などを思い浮かべる人が多いと思いますが、昨今の熟年夫婦間の殺人事件は、口論の末に衝動的に起きた事例が多い。また、夫が加害者ではなく被害者、つまり妻が殺人を犯すケースも少なくありません。
離婚する夫婦の約4組に1組が熟年世代ですが、離婚の引き金として代表的なのが、定年後に2人の時間が増えたことによる衝突。熟年夫婦間の殺人事件の背景には、定年後の2人の関係が深く関わっているかもしれません」
■熟年夫婦間での殺人事件はどれくらい起きているのだろうか
警察庁「刑法犯に関する統計資料」によると、2023年の殺人事件の摘発は872件。被害者が「配偶者(内縁も含む)」だったのは未遂も含めて106件。とりわけ増えているわけではないが、殺人事件全体が減少傾向にあるため目につくのかもしれない。
また、殺人事件では親族間殺人が全体の半分以上を占めるが、2023年に既に検挙された、被疑者との関係性を調べてみると、被害者が「配偶者(内縁を含む)」が24%にのぼることが明らかになった。
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■ケチとなじられたことに激昂し73歳の妻を絞殺した81歳
こんな事件も起きている。
「2021年2月、静岡県浜松市で、当時81歳の夫が、73歳の妻を絞殺した事件では、夫は、妻に5〜6枚の湿布を貼り“もういいだろう”と思ったところに、妻から『けち』となじられて逆上。タオルで妻の首を絞めた。
裁判では、2人で小旅行を楽しんだり、夫は持病のある妻をかいがいしく世話したりするなど長年連れ添った夫婦に何があったか注目されましたが、夫の認知症の影響はなく、妻が発した『けち』の一言がきっかけで激しい口論の末、強い殺意をもった夫の犯行と判断されました」(地元紙記者)
夫婦ゲンカから、殺人事件まで至るのは、かなり特殊なケースだと思うかもしれないが……。
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「たしかに夫の浮気が原因で重大なトラブルになるケースが圧倒的に多い。『自分に関心がないのに、ほかの女は大事にするのは許せません』と言う女性は多くいます。
しかし夫婦が退職したあとも要注意。通勤がなくなり2人で過ごす時間が長くなれば、お互い見えなかった嫌な面もあらわになってきます。共通の趣味もなければ会話もない。ただ時間を持て余していると、何もしない夫に対する妻の不満がたまる。一方、夫も、口うるさい妻へのストレスが蓄積していく。長年積もり積もった病的なまでの“相手を許せない”という不満やストレスが、ちょっとした一言がきっかけとなり、爆発してしまうのです」(山脇さん)
■定年後こそ大事なのは“形容詞の共有”
2030年には、65歳以上の夫婦のみの世帯数は、1158万世帯を超え、熟年夫婦が全世帯の5分の1に。そんななか夫婦間で起こるトラブルも増加するのではと危惧されている。
いったいどうしたらいいのだろうか。
『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』(講談社+α新書)の著者で、夫婦問題研究家の岡野あつこさんが語る。
「長年一緒にいると“あうんの呼吸”があると思いがちですが、とりわけ2人の時間が増える定年後は“暗黙の了解”はないと思ったほうがいいです。大切なのは、夫婦で日常的にコミュニケーションをとること。たとえば会話が減っても『ありがとう』や『助かった』など感謝の気持ちを伝えることを心がけることが重要です」
若いときなら、気にも留めない一言でも、熟年夫婦では、大きなトラブルに発展することは少なくないと、岡野さんがこう続ける。
「メールやLINEを送るときにメッセージを読み返すように、その一言が相手を傷つけないか考えることも。ものは言いようで、老けていると言いたいけど“落ちついた”、文句が多い人と指摘するときも“自分の意見をもっている人”と言い換えるだけでも夫婦関係はスムーズになります」
山脇さんが最後にこう語る。
「殺人事件に発展しないためにも、ふだんから暴力をふるわれたり、言葉や態度など心理的攻撃をされたり、配偶者から被害をうけた場合には、警察や配偶者暴力相談支援センターなど駆け込む場所に行き、相手にしっかり『ノー』と行動で示すことも重要です。
“相手を許せない”気持ちを増幅させないためにも、楽しい、面白い、うれしいなど“形容詞の共有”を大切にしてほしいですね。相手の関心や興味を再認識できれば、お互いに抱いている小さな不満も解消していくでしょう」
2人時間が長くなるからこそ、お互いを思いやる気持ちを改めて見直すことが不可欠のようだ。
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