「総合職」で入社したのだから、他地域や他店舗への異動は当然なのだが、その社員にとっては地元を離れるくらいなら他の会社に転職して今の地域で働き続けたいのだろう。
実はこの社員に限らず、最近はこの「異動」や自分の意に沿わない「配属」に拒絶反応を示す若者は多い。内定辞退を防ぐために入社後の配属先を確約する企業も最近では増えている。
異動がない「地域社員」や「準社員」などの雇用形態もある中で、「総合職」を選んで働く価値はどのような点にあるのだろうか。
総合職に期待されていること
まず「総合職」とはどのような職種なのか。一般的に総合職とは「社内の中核業務を担うポジションであり、仕事内容は多肢にわたり、将来的には管理職や幹部候補として期待されている人材」を示す。そのため基本的にはジョブローテーションで部署の異動があり、転勤も発生しやすいのが特徴である。
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総合職は一般職よりも年収が高く、昇進も早いことが今まではメリットと考えられていたが、今の若者には高い収入を得たり、上のポジションを得ることよりも、「自分のやりたい仕事をやる」「地域を選んで働く」ことのほうが重要だと考える人も多くなってきた。
そのため総合職でありながら転勤がなかったり、地域を限定して働けたりする「準社員」や「地域正社員」という制度を持つ会社もある。
ユニクロを運営するファーストリテイリングは2007年から「地域限定正社員制度」の運用を開始し、これまで全国転勤を前提としていた正社員の制度では対応できなかった「地域を限定して働きたい」というニーズにも応えてきた。
このようにさまざまな働き方を選べる時代になってきている中で、転勤や異動を伴う総合職を選ぶ意義は「年収」や「昇進」以外にあるのだろうか。
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総合職だからこそ得られるもの
キャリアデザインの理論の中に「筏(いかだ)下り」と「山登り」という考え方がある。リクルートワークス研究所の大久保幸夫氏が提唱する理論だが、キャリアの初期段階は筏下りのようにさまざまな業務にぶつかりながら経験を積んで力をつけ、その経験から自分の登る山(専門分野)を見つけて山登りをするようにその分野を極めていくという考えである。
実はこのキャリア初期段階の「筏下り」の時期において、総合職という働き方は都合がいい。自分の意志とは関係なく、いろいろな経験を積めるからだ。
総合職での他部署への異動や地方への転勤は、ある意味会社からの「無茶ぶり」である。本人がその地域に住みたいかどうか、その仕事をやりたいかどうかは問わず、「やれ」と言われる。
その不条理さを受け入れられず退職を考える若者がいるのは事実だが、もし本人の中長期的なキャリアを考えるのであれば、その無茶ぶりを経験してみるのも一つだ。
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しかし、その無茶ぶりをいったん受け入れて人事を経験してみた結果、意外と人事の仕事が合っている、気付いたら人事の領域で専門性を磨いてその道のプロになる、というのはよくある話だ。
筆者自身もリクルートに入社する際は、HR事業部(企業の求人広告)は全く希望しておらず、名古屋という地域への配属も不安しかなかったが、結果的にキャリア分野の専門家になったのはそのときの配属のおかげだし、今も名古屋の大学で授業を担当するなどつながりの強い地域となっている。
経験の浅い当時の自分が自らの意志だけで事業部や働く地域を選んでいたとしたら、自分のキャリアの幅は狭いものとなっていただろう。総合職だからこそ受けた会社からの無茶ぶりが自分のキャリアの可能性を広げてくれたと思う。
総合職で経験を積みながら、自分の専門性を見極めていくことが重要
とはいえ、日本の「総合職」は海外から見ると理解しがたい部分もあるようだ。ジョブローテーションによってさまざまな経験が得られる一方で、自身の専門性を定めにくいという側面もある。最近は職務内容に合わせてその職務に適した人材を採用する「ジョブ型雇用」を導入する企業も増えてきている。「総合職」や「一般職」以外にも、ある特定の業務のスペシャリストを目指す「専門職」という職種もある。
たとえ総合職であったとしても「自分はどの分野の専門家になるべきか」という観点は持ち続けたいところ。
いろいろな経験をしながら、自分がやりたいことや向いていることを考えながら、もし極めていきたい分野が見つかったらその経験を積めることを“キャリアの最優先事項”にするのもいいだろう。それを社内で得られれば働き続ければいいし、もし難しい場合は社外への道を模索するのも一つの手だろう。
「多様な経験ができる」という総合職のメリットを最大限に生かしつつ、中長期的に自分の専門性や大切にしたいことを見つけるきっかけにしてほしい。
(文:小寺 良二(ライフキャリアガイド))