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もともと弱い立場だから
「僕が結婚したのは40歳のとき。相手は8歳年下で、客観的に見ても美人だと思います。僕の一目惚れから始まって、2年にわたってお願いしつづけて結婚してもらった。だから結婚後も僕はずっと弱い立場なんです」そう言うのはコウタロウさん(42歳)だ。最初は、それでも結局は「のろけ」なのではないかと思っていたが、どうやら彼はかなり疲弊している様子。
「家事は8割方、僕がやっています。夕食を作るのも僕。残業のときだけ妻に連絡する。帰宅するとだいたいデリバリーで済ませているし、僕の分はないという状況ですね」
それでも彼は、妻に家事をしてほしいとは言わない。言えないのかもしれない。
「最初は、彼女が家にいて僕と会話してくれる。それだけでよかったんです。でもそういう力関係って、だんだんエスカレートしていきますよね」
匿名の通報で知った事実
妻は週に4回ほどパートで仕事をしているが、最近、パート仲間と週末、遊びに行くことが多くなった。みんなでカラオケ、みんなで遊園地、みんなで飲み会などなど、さまざまな理由がつくが、いつも「みんなで」がポイントだった。「実際、みんなでどこかに行った写真を見せてくれることもあったので、すっかり信用していました。でもどうやら、みんなではなく、ひとりの男と行っているらしい。それは匿名の通報で知りました」
コウタロウさんのSNSにそんなメッセージがあったのだ。あなたの奥さん、浮気してますよと。パート仲間と遊んでいるといいながら、実はひとりの男とつきあっています、と。どうして気づかなかったのだろうとコウタロウさんは落ち込んだ。
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だが、それはあっけなく裏切られていたのだ。
それでも妻と別れたくない
妻に浮気しているのかとは問えないまま、コウタロウさんは妻の関心を引くために、料理の腕を磨き、家事を丁寧に行ってきた。「妻は自分が遅く帰宅したときは、だいたい上機嫌なんですよ。男と会ってくるからなのかもしれないけど。そして出迎えた僕の頬を両手ではさんで、『コウちゃん、いつもありがとう』と言う。それでなにもかも許せてしまうんですよね……」
だが結婚して2年、コウタロウさんが妻と性的関係をもったのは2度だけ。子どもを生みたくないとも宣言されている。彼は子ども好きなのだが……。
「妻が子どもをほしくないと言ったときはショックでした。結婚前に言ってほしかった。でも無理に子どもを生んでほしいとは言えない。だから僕があきらめるしかないんです」
そうまでしても妻と一緒にいたいのなら、もはや割り切るしかないのだろうが、コウタロウさんによれば、最近、妻は自分の気持ちが通らないと「もう終わりだね」と言うようになったという。それが恐怖なのだ、と。
「今年の正月、初めて僕の実家に行ったんですよ。片道3時間くらいかかるんですが、それでも妻は日帰りだと決めていた。行ってくれるだけいいと思って一緒に行くと、当然、親は喜んで引き止める。
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夕飯を用意しているから食べていってよと言うおふくろに、妻は『いえ、その予定ではないので』って。おふくろのがっかりした顔がせつなくて、『食べていこうよ』と言ったら、『分かった。あなたはそうすれば? 私は帰るから。これで終わりね、私たち』と。いやいや、なんだそれって感じでした」
妻の言葉で精神不安定に……
空気を読んだ母が、「分かった。引き止めないから仲よくやって」と言ってくれたため、なんとか事なきを得たが、妻はどうやらその方法が「使える」と思ったらしい。「それからは、けっこう、『これで終わりね』を使うようになりました。友人に笑い話として言ってみたら、『そういうことを言う妻ってどうなんだろうな』と真顔になってしまって。『最後通牒みたいな言葉を平気で繰り出す女って、甘えているのか、よほど尊大なのか』と他の友人にも言われました」
おそらく、なにを言ってもコウタロウさんが自分を見限ることなどないと妻は踏んでいるのだろう。居丈高になる必要はないが、コウタロウさんももう少し自己主張をしたほうがいいと周りからは言われているそうだ。
「僕も精神的に不安定になったりすることが増えて、心身ともにきつくなってきた。逆に考えたら、完全にモラハラ夫だよと女友だちに言われたこともあります。分かっているんですよ、だけど彼女と別れる決心がつかない……。今年は覚悟を決める年なのかもしれませんが」
決して幸せではない。だが妻と別れる気にはなれない。モラ夫から逃げ出す妻の心理とどこか微妙に違っているのは、彼が「自分と別れたら、妻はひとりきりになってしまってかわいそう」という気持ちがあるかららしい。
あの妻を全面的に受け入れることができるのは自分だけ。そんな彼のプライドのようなものが、力関係をさらに助長させているのかもしれない。
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亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))