【週末映画コラム】『大きな玉ねぎの下で』/『野生の島のロズ』

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2025年02月07日 08:10  エンタメOVO

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(C)2024映画「大きな玉ねぎの下で」製作委員会

『大きな玉ねぎの下で』(2月7日公開)




 夜はバー、昼はカフェとして営業する「Double」という店で、夜と昼に別々に働く丈流(神尾楓珠)と美優(桜田ひより)。2人は業務連絡用のノートでつながり、次第にそこに趣味や悩みもつづるようになり、互いに引かれ合っていく。

 丈流と美優は互いの素性を知らないまま、大きな玉ねぎ(日本武道館)の下で初めて会う約束をする。一方、あるラジオ番組では、文通を通じて好きになった相手と日本武道館で初めて会う約束をしたという30年前のエピソードが語られる。令和と平成の2つの恋が交錯し、やがて奇跡が起こる。

 「爆風スランプ」が1985年にリリースした同名ヒット曲にインスパイアされ、手紙やノートでの交流を通して顔も知らない相手に恋をする人々の姿を描いたラブストーリー。ストーリー原案は小説家の中村航。高橋泉が脚本化し、草野翔吾が監督をした。

 2人の恋を見守るキーパーソン役で江口洋介、飯島直子、西田尚美、原田泰造、平成初期の恋模様の登場人物役で伊東蒼、藤原大祐、窪塚愛流、瀧七海が共演。シンガーソングライターのasmiが主題歌「大きな玉ねぎの下で」をカバーした。

 そのタイトル曲は、ライブの日に武道館で会うことを約束したペンフレンドの女の子が当日現れなかったという歌詞の失恋ソング。「大きな玉ねぎ」とは、日本武道館の屋根の上に乗っている擬宝珠のことで、それが「大きな玉ねぎ」に見えるところからこのタイトルが付けられた。

 そんな何とも切ない曲を基にしているとはいえ、SNSでやり取りをしている今の若者同士をどうやって“ペンフレンド”にするのかと思いきや、業務連絡用のノートを使うという荒業に出た。なるほどその手があったか。

 ところで、かつてインターネットで知り合った名前も知らない男女がメールのやり取りをしながら互いにひかれあっていく様子を描いた、ノーラ・エフロン監督の『ユー・ガット・メール』(98)というロマンティックコメディーがあったが、実は同作はエルンスト・ルビッチ監督の『桃色の店』(40)のリメーク作品。「手紙で文通」の設定が、時を経て「インターネットでメール」に置き換えられたのだ。

 その点、本作は、一つの映画の中で、平成と令和という二つの時代を描き、手紙とメールという異なる通信手段を並行して見せたところがユニークだ。そこからそれぞれの長所と短所が見えてくる面白さがある。

 昭和・平成世代には懐かしさを、令和世代には新鮮さを感じさせるこの映画は、草野監督が『アイミタガイ』(24)に続いて、人と人とのつながりがさまざまな縁によって点から線になる話を描いているともいえるだろう。

『野生の島のロズ』(2月7日公開)




 大自然に囲まれた無人島に流れ着き、偶然起動ボタンが押されて目を覚ました最新型アシストロボットのロズ。都市生活に合わせてプログラミングされた彼女は野生の島では全く機能せず、動物たちの行動や言葉を学習しながら未知の世界に順応していく。

 ある日、ガンの卵をかえしたロズに、ひな鳥から「ママ」と呼ばれたことで、思いも寄らなかった変化の兆しが現れる。ひな鳥を「キラリ」と名付けたロズは、キツネのチャッカリら動物たちにサポートしてもらいながら子育てに奮闘することになる。

 アメリカの作家ピーター・ブラウンの児童文学「野生のロボット」シリーズを原作にしたドリームワークス・アニメーションの長編映画。

 監督は『リロ&スティッチ』(02)や『ヒックとドラゴン』(10)のクリス・サンダース。ルピタ・ニョンゴがロズの声優を務め、ほかにペドロ・パスカル、キャサリン・オハラ、ビル・ナイ、キット・コナー、ステファニー・スーらが声の出演。日本語吹き替え版はロズ役の綾瀬はるかのほか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子らが参加した。

 この映画のテーマの一つは「ロボットにも愛情はあるのか」だ。前半はロズの変化を通して予測不可能な子育ての大変さや子育てによって親も成長する様子が描かれる。

 ロズとキラリの疑似親子ぶりが見ものだが、もともとの原因は、ロズが巣にぶつかってキラリを一人ぼっちにしてしまったことにある。それを知ったキラリの葛藤が中盤の見どころとなる。

 やがてキラリはロズから“親離れ”をするが、そこでは終わらないところがこの作品の真骨頂。そこではロズは優秀だが、同時に脅威の存在にもなり得るというロボットの本質も表現されている。なかなかに深い映画なのだ。

 島の風景、自然、動物たちを描いた映像美に加えて、ロズの動きや鳥たちの飛翔といったアクションシーンも素晴らしい。宮崎駿の『となりのトトロ』(88)や手塚治虫の『ジャングル大帝』(66)といった日本のアニメの影響もうかがえる。

 3月2日(現地時間)に行われるアカデミー賞の授賞式では『インサイド・ヘッド2』とともに長編アニメ映画賞の本命とされている。

(田中雄二)

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