今年は、タイムトラベルアドベンチャーの金字塔・映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(以下、BTTF)シリーズ第1作の公開から40年。今夜2月7日の金曜ロードショーで放送予定だ。
以下、この映画の前日譚を描く書籍『デロリアン・タイムマシン オーナーズ・マニュアル』(玄光社)の内容を交えつつ、BTTFが2025年の今だからこそ見るべき作品である理由を述べていこう。
●裏エピソードで描かれる「もう一つのマンハッタン計画」
大人気キャラの「過去編」が見られるというのは、ファンにとってはうれしいものだ。例えば、往年の有名実写映画なら「スターウォーズ」エピソードI〜III(ダースベーダーの過去)。最近のアニメ作品なら、「呪術廻戦」の懐玉・玉折編(五条悟と夏油傑の過去)などが傑作との呼び声が高い。
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実は、BTTFに登場する「ドク」ことエメット・ブラウン博士の若きころを描いた書籍がある。そもそもドクといえば、ちゃめっ気たっぷりの俳優クリストファー・ロイドがユーモラスに演じていて、大真面目なんだけどなぜだかいつも斜め上を行ってしまう天才発明家。BTTFシリーズは、彼が開発した自動車型タイムマシン「デロリアン」に乗り込み、主人公の青年・マーティ(マイケル・J・フォックス)とともに旅する物語だ。
かつてドクは、超エリート科学者だった。BTTFの設定資料集『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン・タイムマシン オーナーズ・マニュアル』に載っているドクの手記によると、あのマンハッタン計画に参加して原爆の開発に携わったらしい。しかし第二次大戦後は、原爆関係者であったが故に肩身の狭い思いをして生きてきた。それでも、彼は科学への希望を決して捨てず、子どものころからの夢だったタイムマシンの開発に取り組んでいた。
そんな折、ある転機が訪れる。キューバ危機で世界が核戦争の可能性におびえていた1962年の出来事だ。
あらゆる私財を投じて開発を進めるドクのもとに、軍の関係者がやってきてこう話す。タイムマシンを使って過去に戻り、カストロの台頭を阻止してキューバ危機をなかったことにできないか? それが可能ならば、世界の安全のため、政府として研究の資金援助をするというのだ。つまるところ、タイムトラベルを軍事利用しようという「もう一つのマンハッタン計画」である。
もともとBTTFは、マーティが過去の父母に会ったり、未来の息子を助けに行ったりするなど、個人の事件にフォーカスしたドラマだった。しかし俯瞰してみると、映画の内容はもっとスケールの大きな話の一部にすぎなかったのだ。
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●好奇心と科学研究の果てにあるのは文明の発展か? 崩壊か?
マンハッタン計画といえば、2024年、クリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」の大ヒットが記憶に新しい。
同作は、理論物理学者のロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)が、軍の関係者からのリクルートを受け、原爆の開発プロジェクトへと突き進んでゆく物語だ。オッペンハイマーを筆頭に、極秘施設に集まった大勢の科学者たちは、まだ見ぬ新たなテクノロジーに興味を持ち、あるいは愛国心や使命感を胸に抱き、大量破壊兵器の研究にのめりこむ。
この映画のなかで鮮烈に描かれるのは、科学者としての彼らの営みが「狂気」へとエスカレートしていく様だった(特に、ヒロシマ・ナガサキを経験した日本人にとって、心にグサリとくる描写がある)。
そんな科学者集団のなかに、実はBTTFのドクもいたのだ。月日は流れ、約20年後、彼の目の前に再び軍の男が現れる。ドクは、研究の資金援助という願ってもない話に喜んだが、翌日の朝、ふと我にかえる。
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「まったく、私は何を考えていたのだ? たったいま、ナチス、ソ連軍、スペインの征服者までがことごとくタイムマシンと核兵器を保有するという、生々しく強烈な悪夢から目が覚めたところだ。すでに承知していたことをはっきりと認識させられる夢だった。軍や政府にタイムトラベルを利用させるのは危険であり、無責任でもある」(『バック・トゥ・ザ・フューチャー デロリアン・タイムマシン オーナーズ・マニュアル』より引用)
このように映画「オッペンハイマー」とBTTFを振り返ると、まるで二つで一つの物語のように思えてくる。「オッペンハイマー」は問いかける。人類の飽くなき好奇心と科学研究の果てにあるのは、文明の発展か? それとも崩壊か? 我々はマンハッタン計画を乗り越えられるのか……?
対するBTTF。時は、米ソ軍拡競争の時代。新たなテクノロジーとその悪用の可能性の間で苦悩しながらも、ドクはタイムマシンを生みだす。そして、自らタイムトラベラーとなることで、先の問いに向き合おうとする。
日本の映画ファンに衝撃を与えた「オッペンハイマー」へのアンサーがBTTFで描かれる。だからこそ、今夜の放送をぜひとも見てほしいのだ!
●「スーパーマリオ」の宮野真守が新・マーティ役
以上のような切り口でBTTFをレビューしてきたが、決してシリアス一辺倒な作品ではなく、大人から子どもまで気軽に楽しめるSFアドベンチャーであることを最後に補足しておこう。何といっても、近未来感MAXなデロリアンがカッコよすぎてワクワクすること間違いなし。また、笑えるシーンがこれでもかと仕掛けられており、特に、マーティとハイスクール時代の若き母親が繰り広げる奇想天外なラブコメ(?)が見どころだ。
それに加え、カーチェイスあり、ロックミュージックあり、おまけにダンスシーンまであるというザッツ・エンターテインメントな映画なのだ。
今夜放送されるのは、金曜ロードショーでしか見られない新吹替版。大ヒット映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」でマリオ役をつとめた声優・宮野真守がマーティを演じる。
声優陣を一新しながら、時代に合わせて生まれ変わり続けるBTTF。そうやって劇場やテレビで40年も繰り返し見られてきたのだから、さらにあともう60年(!)は広く視聴者から愛される映画であってほしいと願う。
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