
前編:在米番記者が語るドジャース先発投手陣
新たに佐々木朗希を加えたロサンゼルス・ドジャースは今季、大谷翔平、山本由伸と合わせて3人の日本人投手を擁することになった。
昨季、4年ぶりの世界一になったスター軍団が、佐々木をも獲得した意味はどこにあるのか。NPBの千葉ロッテ時代から耐久力への不安が囁かれてきた佐々木を、ドジャースはどのように起用していくつもりなのか。
これらの疑問をひも解くため、『FOXスポーツ』のドジャース&ナ・リーグ西地区担当記者、ロワン・カブナー氏に意見を求めた。もともとロサンゼルス生まれのカブナー記者は、2012年からスポーツライターとして活動してきたベテラン。2014年10月以降はロサンゼルスに住み続けている地元記者は、ドジャースの思惑をわかりやすい言葉で説明してくれた。
*本文はカブナー記者の一人称
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【ドジャースの努力は非難されるべきではない】
もともとドジャースは佐々木朗希獲得の最有力候補と目されていたので、実際に契約したと聞いても驚きはなかった。事前にMLBが両者の間に密約がなかったかを真剣に調査したほどで、まさに大本命が順当に争奪戦を制したという印象だ。
この補強策が実現した直後、大谷翔平がドジャースと契約したとき、ドジャースのフロントが「日本の野球ファンをみんなドジャースファンにしたい」という目標を語っていたのを思い出さずにはいられなかった。今では日本でドジャース戦が日常的に放送され、グッズも積極的に売られるようになったという。大谷の加入でチームが強化されたというだけではなく、影響はさまざまな面に及び、今回の補強もその一例ではないかというのが私の見方だ。
佐々木は日本人選手がいるかどうかはチーム選びには関係ないと話していたが、チームが安定した強さを誇っているのと同時に、大谷、山本由伸が属していたことは少なくともマイナスにはならなかったはず。比較的短時間で"ドジャースを日本最大のチームに"というチームの希望は叶い、将来的にメジャー入りを目指す日本の若手投手の進路にも少なからず影響するのではないかと思う。
"佐々木のドジャース入りがMLB全体にとっていいことか?"と問われたら、「おそらくそうではない」と答えざるを得ない。たとえば佐々木がパドレスに入団し、大谷、山本に立ち向かう流れになっていたらメジャーリーグはもっと盛り上がっていたのではないかとは思う。その一方で、自由競争を制したドジャースの努力は非難されるべきではない。ドジャースにとってはもちろんいい補強であり、リーグにとっていいことかどうかは彼らが気にするべきことではない。
リーグ側の懸念材料はチームごとのタレントの格差が開きすぎてしまうことだが、現状ではその心配は早すぎるとも感じている。
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昨今のメジャーリーグでは戦力均衡化が進み、連覇をするチームは2000年まで3連覇を果たしたニューヨーク・ヤンキース以降、出ていない。もしも今季、ドジャースがシーズン中に120勝を挙げ、ワールドシリーズまで楽々と勝ち抜いてしまったら、またこの話をしなければいけないのかもしれない。ただ、去年もサンディエゴ・パドレスとの地区シリーズでは先に王手をかけられ、敗退の寸前までいったわけだから、今年もドジャースの行く手にはさまざまなドラマが待ち受けていると見るのが妥当なのだろう。
【佐々木のメジャーデビューは春季キャンプの情勢次第】
今オフ、ポスティングシステムを通じてメジャー入りを目指した佐々木の獲得に20チーム以上が名乗りを挙げ、大争奪戦になった。NPBでの佐々木が一度も年を通じて先発ローテーションを守った経験がないことは、各球団にとって大きなマイナス材料にはならなかったのだろう。理由はシンプルに現在の佐々木はマイナー契約の選手であり、安価で獲得できるルーキーだからだ。
もしも佐々木がFAだったとしたら、その獲得のために総額2、3億ドル(約300、450億円)程度が必要だったはず。そうなっていたら争奪戦に参戦できる球団は限られ、耐久力の乏しさがゆえに手を引くチームも出てきていたかもしれない。ただ、ポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)、スティーブン・ストラスバーグ(元ワシントン・ナショナルズ)と比較されるような才能の新人投手を年俸約650万ドル(約9億7500万円)のマイナー契約で獲得し、6年の保有権が得られるのであれば、当面の体力面の不安要素などはそれほど気にならないはずだ。
佐々木はサイ・ヤング賞が狙えるレベルの才能と喧伝され、実際に自身もそれを目標にしていると伝えられている。とはいえ1年目からそれだけの結果を残すことが想定されているわけではなく、3、4、5年目に完全開花させるためのプロジェクトだ。ドジャースだけではなく、佐々木獲得を望んだすべてのチームがそう考えていたはずで、それゆえにこれほどの争奪戦が勃発したのだろう。
そういった背景でドジャースに加わった佐々木が2025年、どういった使われ方をしていくのかを予想するのは難しい。マイナー契約ではあっても1年を通じてマイナー暮らしをするとは考え難く、メジャーリーグで起用されるはずだ。それでは、どの程度のイニングを投げるのか? 佐々木の入団会見の際、アンドリュー・フリードマン編成本部長は「春季キャンプから全力で取り組ませる計画だ」と話しており、開幕からメジャー入りさせるつもりだと受け取られたが、実際にはその言葉がどういう意味だったのかは、はっきりとはわからない。
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ドジャースはシーズン中に投手を一度シャットダウンし、時間を置いてまた仕上げていくというやり方は好まない。右肘の手術明けだったウォーカー・ビューラーも昨季5月に初先発させ、大事な時期に力が出せるように進めていった。今季の大谷もその流れになり、5月までは登板しないのだろう。
佐々木はプロの世界で130イニング以上投げたことがない投手だから、チームが慎重になるのは間違いない。それでもコンディションがよく、準備が整い、開幕時に力が出せると判断されたら、早々とデビューしても驚くべきではないとは思う。大谷、 再契約が予想されるクレイトン・カーショウ(現在FA)などは出遅れるだろうから、ドジャースはどちらかといえばシーズン序盤のほうが先発投手の頭数、イニングが必要だという事情もある。
メジャーデビューはいつごろになるのか、開幕から本当に先発ローテーションに入るのかなどは、春季キャンプ中に少しずつ見えてくるのだろう。その点こそが、今春のドジャース最大の注目ポイントであるに違いない。
つづく