
2月13日、ヨーロッパリーグ(以下EL)のベスト16入りを懸けたノックアウトフェーズのファーストレグで、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はデンマーク王者、ミッティランを敵地で1−2と下している。アウェーでの勝利で優位に立った。
ラ・レアルの久保建英は右アタッカーで先発し、前半31分にはカットインから鋭い左足シュートを打ちこみ、見事に決勝点を決めている。「久保がゴールを決めたら負けない!」――入団以来、20勝1分けという際立った記録に裏打ちされた気運は、もはや神がかり的と言えるだろう。
「久保(の存在)は"ヨーロッパリーグベスト16"に値した」
スペイン大手スポーツ紙『アス』も、そう言って激賞している。
久保が先導するラ・レアルは過密日程を戦い抜き、ELを戴冠できるのか?
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ミッティランは決して戦力的に劣るクラブではない。
今シーズンは積極的な補強で、デンマーク代表をはじめ、スウェーデン代表、エクアドル代表、チリ代表、ポーランド代表など、ワールドカップで日本が相まみえてもおかしくはない実力派が多数。他にも、ギニアビサウ、ブラジル、ポルトガル、セネガル、コロンビア、ザンビア、韓国など多国籍軍で欧州の戦場に乗り込み、ノックアウトフェーズまで来た。
ラ・レアルは、ミッティランの"個人"に戸惑う形で、序盤はペースがつかめていない。前半11分、ブライス・メンデスが巧妙にPKを奪って、これを冷静に決めてひと息ついたが......。
本職の左サイドバック、アイエン・ムニョスの欠場で、イマノル・アルグアシル監督は下部組織でアタッカーのジョン・バルダを抜擢したが、これが裏目に出ていた。相手に背後を狙われてしまい、GKウナイ・マレーロの連続セーブで危機を救われたものの、攻守で混乱。早々にイエローカードを食らったこともあり、前半24分でベンチに下げざるを得なかった。
この後、ラ・レアルは態勢を立て直してペースを取り戻した。右サイドでは久保、ブライス・メンデス、ホン・アンデル・オラサガスティが連係し、決定機を演出している。そして冒頭に記したように、久保が決勝点を奪う。その後、1点を返されたが、力の差を見せつけたと言える。
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【とどめを刺すことはできず】
何より久保は、完全に敵を凌駕していた。得点後も、相手を翻弄。相手ふたりを引きつけ、味方にパスし、簡単に守備陣を篭絡した。さらにドリブルでふたりをはがし、際どいスルーパスで脅かす。突破、仕掛けもそうだが、たとえボールを失っても、即座に奪い返した。局面で作り出す"有利"を、チーム全体に波及させていたと言えるだろう。
「Desatado」
『アス』紙は久保のプレーを、スペイン語で「手に負えない、やりたい放題の」と評している。
もっとも、相手のミッティランが、「いつも対戦する相手よりも高いレベルに、チームとして戦い慣れしていなかった」というのも事実だった。ロングスローを多用するあたりは、その程度で勝ち抜ける相手と日頃、対戦しているのだろう。変則的な奇襲は、高いレベルでは通じない。
またミッティランは、久保に対してあまりに軽率だった。ブラジル人左サイドバック、パウリーニョが久保番となって、スプリント力と、出足の良さで健闘していたが、たったひとりで止められるはずがない。失点シーンでも久保と1対1に。今や久保を包囲するような守備が定番になっている状況で、あまりに無謀だった。スカウティングや対策など、戦術レベルであまりに拙かったと言えるだろう。
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久保の決勝点は、ラ・リーガという高いレベルで日常を戦う百戦錬磨の証明だった。
一方で、後半のラ・レアルは追加点のチャンスがありながら、とどめを刺すことができていない。
ストライカーに指名されたオーリ・オスカールソンは前半、久保の折り返しを決められず、後半にはフリーのヘッドも枠に入れられなかった。必死に体を張っていたが、ポストプレーも未熟。コンビネーションには改善も見られるが、現状では厳しい。ちなみに交代でオスカールソンに代わって入ったミケル・オヤルサバルも終盤に絶好機を外していた。
セカンドレグ、もし敗北の伏線があるとすれば、このあたりになりそうだが......。
ラ・レアルはチャンスを作れるチームだし、久保が得点をすることで、勝利を引き寄せることができる。しかし、ラウンド・オブ16に進んだ場合は、マンチェスター・ユナイテッドorトッテナムとの対戦も決まっている。プレアミアリーグでは不振に喘ぐ両者を恐れる必要はないが、戦力的には上のチームだ。
今後は中2日でラ・リーガのベティス戦、さらに中三日でミッティランとホームで対戦する。その後も同じような日程で、ラ・リーガのレガネス戦、さらにはスペイン国王杯準決勝ファーストレグ、レアル・マドリード戦も待つ。厳しい連戦を1試合1試合、勝ち抜くしかない。
チームは久保が作り出す"奇跡"に祈ることになるだろう。